第11話 二階の部屋
「うん、わかった。
ああ、食事の用意ができたみたいだから、食事しながら話そうか。」
ソファに座る私にジークフリート様が手を差し出してくれたので、
その手を取ってエスコートしてもらう。
隣に立って歩くと、やはりまだ身長差がかなりあったが、あの頃ほどではない。
少しは追いつけたのかもしれないと思って見上げると微笑み返された。
「こんな風にエスコートするのは初めてだね。」
「あの頃はまだ小さかったので、よく手をつないでもらっていました。
抱き上げられた時は驚きましたけど、うれしかったのを覚えています。
私にそんなことをしてくれる人はいなかったので。」
「そっか。お望みなら今でも抱き上げて連れて行くよ?」
少しからかうようなジークフリート様と笑いあっていると食事室に着いたようだ。
中に入ると、年配の男女が6人立って待っていた。
「紹介するよ。うちの使用人達なんだが、
侯爵家を引退した者たちを連れて来ているんだ。
皆、俺の小さい時から世話をしてくれている。
執事のグレッドと侍女長のエレン、料理長のジャンと侍女のミレー、
庭師のハンスと小間使いのシャレンだ。
3組の夫婦なんだよ。
ちょうど子どもに役目を任せて引退しようとしてたから、
この屋敷に住み込みで働いでもらっている。」
「ローゼリアですわ。今日からジークフリート様の妻になりました。
どうぞよろしくね?」
にっこり笑って挨拶すると、口々に挨拶を返してくれる。
皆一斉に言うものだから、何を言ってるのか聞き取りにくい。
でも、どうやら歓迎してくれているのはわかる。
誰の顔を見ても笑顔で、涙ぐんでいる者もいるくらいだ。
奥様亡き後、女主人がいない屋敷は大変だったのだろう。
「うん、みんなもローゼリアが来てくれてうれしいよな。
ゆっくり話す機会はまたあとでつくるから、今はこれくらいにしておいて。
さて食事が冷めないうちに食べよう。」
「はい。」
食事は素朴な感じだけれど、温かくて懐かしいような気持ちになるものだった。
野菜がたっぷり入ったスープや、塩と黒コショウだけふって焼いた鶏肉、
小麦の香ばしい匂いがする焼きたてのパン。
ゆでで軽くつぶしたジャガイモのサラダ。甘すぎないプディング。
食後の紅茶も美味しくて、お腹いっぱいになるまで食べてしまった。
「ローゼリアは美味しそうに食べるね。
気に入ってくれた?」
「ええ。とっても美味しかったです。
それに…誰かと食事するのは初めてで…楽しかったです。」
「…そうか。これからは毎日一緒だよ。」
「…はいっ。」
お腹だけでなく心まで満たされた気持ちで、なんだか少し眠くなってきた。
そう思ったら、ジークフリート様が気が付いたようで、
「眠くなったみたいだけど、先に部屋に案内するから荷物を出そうか。
難しいなら、今日は客室で眠るか?」
「いいえ、大丈夫です。
荷物を出します。」
「うん、じゃあ、こっちだよ。」
今度はエスコートじゃなく手をつなぐようにして、二階へと向かう。
案内された場所には大きな扉が三つ並んでいた。
「二階は俺とローゼリアの部屋だけ。
一番左が俺の私室。一番右がローゼリアの部屋になる。
ローゼリアの部屋に入るよ。」
一番右の部屋を開ける時、一瞬だけ扉が光った。
これは魔術で封じてあった?
新しく屋敷を建てた時には、部屋は封じて引き渡すのが貴族の習わしになっている。
新品だということを示すためのものだが、
こうして光ったということは魔術式を使って封じてあったということだ。
よくある形だけ封じた部屋とは違い、本当に誰も入っていないことになる。
この部屋はまだ使われたことがない部屋なのだろうか。
部屋の中に入ると、そこには何もなかった。
「この部屋には何もないんだ。奥にクローゼットと浴室がついている。
ここを好きなように使っていいよ。
家具は持ってるって言ってたけど、足りないものは明日買いに行こう。」
綺麗なワインレッドの絨毯だけが敷いてある部屋に驚いていると、そんな風に説明される。
ここは本当に誰も入ったことがなかったらしい。
クローゼットや浴室があるのとは反対側に大きな引き戸があるのを見て、
ジークフリート様に聞いてみる。
「この引き戸の先は何があるのですか?」
「…こっちの部屋は、俺とローゼリアの寝室。
開けてみてもいいよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。