第9話 夫婦になること

ゆっくりとジークフリート様の顔が近づいてくるのを見て、

ぎゅっと目を閉じた。


…何もない?あれ?

こういう時って、キスされるんじゃないの?


恐る恐る目を開けたら、すぐ近くにジークフリート様の顔があった。


「ひゃっ。」


驚いて後ろに下がろうとして、ジークフリート様の手が頭の後ろに回された。



「危ないよ。これ以上さがったら、頭をぶつけてしまう。

 って、俺のせいだよな。

 …試すようなことをして、ごめん。

 あんな誓約しちゃったけど、

 結婚するってことがどういうことかわかってるのか知りたくて。


 突然キスしようとしたら嫌がるかと思ってたのに…目を閉じるなんて…。」



ふぅと大きく息を吐いたジークフリート様に抱き寄せられ、

胸の筋肉のかたさがわかって、さわっていいのか迷いながら胸に頬を寄せる。

私がしなだれるのを見て、ジークフリート様が髪をすくうように頭を撫でてくれた。

肩や頭にふれているジークフリート様の手が優しくて、

こうして久しぶりにふれてもらえるのが泣きそうなほどうれしくて、

この気持ちをどう伝えたらいいのだろうと思う。


「嫌じゃないです。

 ちゃんと、結婚するってどういうことかわかって…誓約しました。

 だけど…おつきあいしたことがないので…慣れていなくて。」


「うん、わかった。嫌じゃないならいいんだ。

 これからはちゃんと妻として扱うからね、ローゼリア。

 もう籍は入れたんだし、ゆっくり慣れていけばいい。

 あれ…でもあの誓約、ちゃんと結婚してなきゃダメとか言わないよね?」


ちゃんと結婚。身体の関係もある結婚ということ?

…猶予はあると思うけれど…。


「…おそらく、一か月位は大丈夫だと思います…。」


「一か月!?」


私を抱きしめる手に少し力が入った気がして、見上げると視線を外される。

…ジークフリート様を困らせてしまった?

急に嫁いでくるなんて…やっぱり迷惑でしかないよね。どうしよう。

泣いたら…よけいに困らせる。わかってるのに、こらえきれなくて涙がこぼれた。



「ローゼリア…どうして泣いてるの?」


「だって…ごめんなさい。私が勝手に誓約なんてしたから…。」


「あぁ、ごめん。俺が困ってるように見えた?

 違うよ。そうじゃないんだ。

 もっとゆっくりローゼリアを慣らしてあげたかったなと思っただけ。

 俺が初めてになるんだろう?

 だから…後悔しないようにゆっくり進めたかったなって。」


「…後悔?私がですか?」


「うん。もちろん。

 俺が後悔は…ローゼリアが泣かない限り、無いと思う。」


「…じゃあ、泣きません!」


「いや、泣いていいよ。大丈夫。

 何度後悔しても、ちゃんとやり直してみせるから。

 けっして我慢したりしないで。嫌なことは嫌だって言って?

 そうやって直していって、夫婦になっていこうよ。ね?」


「はい!…え?」


頬の涙をぬぐうように何度もキスされて、目や頬にジークフリート様の唇を感じる。

少し硬いその感触がくすぐったくて、恥ずかしくてたまらない。

だけど、それ以上にうれしくて…もっとしてほしいと思ってしまう。


ガタン


「あぁ、家に着いたようだよ。

 …もしかして、歩けない?」


「…はい。」


初めてのことで、すっかり力が抜けてしまって、立ち上がれそうになかった。

ジークフリート様に抱きかかえられ馬車から降りると、

そのまま屋敷の中まで連れて行かれてしまった。



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