第8話 帰り道
ジークフリート様の手を借りて馬車に乗ると、
私とジークフリート様だけを乗せてゆっくりと走り出した。
隣に座ると、少しだけ汗と剣の匂いがして、
それがジークフリート様の匂いだと思うと、落ち着かない気持ちになる。
「家まで頼む。」
馬車に乗る際にジークフリート様は御者にそう指示していた。
一度結婚しているジークフリート様は陛下から屋敷をいただいていると聞いた。
亡くなった奥様と過ごされた場所…。
そこに向かっているのだろうか?
「さてと、これで少しは落ち着いて話せるかな?
ローゼリア嬢、久しぶりだね。
俺のことは覚えている?」
「はい。お久しぶりです。
あの頃はまだ近衛騎士になったばかりでしたよね。
隊長に就任、おめでとうございます。」
「あぁ、ありがとう。
先輩方が引退しちゃったせいで、他になる人がいなかっただけだけどね。
やっぱりあのお茶会の時の覚えていたんだ。
幼くてもしっかりしてたから、覚えているだろうとは思ってたけど…。
あまりにも俺との結婚話が嘘だって疑ってるから、嫌われてたのかと思ったよ。
あんなに一緒に遊んでたのに嫌われてたか…って。」
「ふふっ。ごめんなさい。変に誤解させてしまいましたね。
今日、王宮に来るように突然呼び出されて…
陛下とお父様が無理にでも王子と結婚させようとしてたのは気が付いていました。
もう他国に逃げるしかないかなって思っていたんですけど、
お父様の口から年の離れた貴族の後妻なんて言葉が出てくるから…。
思わずジークフリート様のことを見てしまって。
さすがにそんな都合のいい話はないかと思って、がっかりしてしまったんです。」
「がっかり?」
「はい…最初は年が離れていて後妻だって言われて、
ジークフリート様のことかもって。
もしそうなら嬉しいって思ったんですけど、
あのお父様がそんなこと考えるわけ無いなって。
そう思ったら、がっかりしてしまって。
でも、そのがっかりをあんな風に誤解してくれて助かりました。
ふふっ。あそこまで驚くなんて思いませんでしたけど。」
「あれは…確かに面白かった。
陛下も公爵もうまい具合に騙されていたね。
でもあれは最初から考えていたわけじゃないんだよね?」
「はい。王宮に来た時にはもうあきらめていて。
この国の全部を捨てて…逃げるつもりでしたから。」
「そっか。
…俺としては他国に逃げないでくれて良かった。
こうして、俺のところに来てくれてありがとう。」
「は、はいっ。」
握りしめられている手をそっと撫でられて、びくっとしてしまう。
こんな風にふれられるのは初めてで…。
ただでさえ馬車の中に二人きりで、どうしても緊張してしまっている。
…これから夫婦になるのに。大丈夫かしら。
こんなに胸が痛くて…気を失ったりしないか心配になってしまう。
そんな風に思ってたら、頬に手を当てられた。
少しだけ力をくわえられ、ジークフリート様の方へと顔の向きをかえられた。
ゆっくりとジークフリート様の顔が近づいてくるのを見て、
ぎゅっと目を閉じた。
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