第7話 俺を選んだのか?
それから8年。今ごろになって王子たちとの婚約話か…。
ローゼリア嬢はどう思っているのだろう。
今でも王子たちのことを嫌っているのだろうか。
夜会にも出てこないローゼリア嬢が王宮へ来るのは久しぶりのことだった。
陛下の護衛として一緒に入ったティールーム。
座っているローゼリア嬢を見て、心臓が止まるかと思った。
腰まであるつややかな金の髪は結いもせずに流してあり、
つまらなそうな顔をしていても大きな瞳はうるんでいる。
少し不機嫌なのか唇がとがりかけているのを見て、
ここに呼び出されたのが不本意なのだと知る。
ローゼリア嬢が学園で薔薇姫と呼ばれているのは知っていたが、
笑顔でなくても想像よりも綺麗に育っていた。
あぁ、やっぱり。王子たちのこと嫌いだよな。
あれだけ嫌がらせされて、気に入るわけがない。
陛下と公爵が説得し始めてすぐ、
「年の離れた貴族の後妻」という言葉にローゼリア嬢が表情を変えた。
一瞬だけ俺の方を見たと思ったら、「近衛騎士隊長のような?」と眉をひそめた。
ええ?もしかして…俺も嫌われていた?
おかしいな。あの頃は王子たちがどこかに行った後、
一緒に遊んだり薔薇を見に行ったりしたのに。
疲れたローゼリア嬢を抱っこして運んだことだってあったのに。
なんとなく俺とローゼリア嬢は心が通じ合ってるような気がしていた。
でも、あの時王子たちを拒絶した日以来、俺も会っていない。
拒絶されたのは、俺も同じなのだろうか…。
おじさんの後妻は…嫌か。
俺が告白したわけじゃないけれど、嫌がられているのを感じて落ち込んでしまう。
もちろん、公爵家の優秀な令嬢が、
侯爵家次男の後妻になんて来るわけ無いのはわかってる。
だけどはっきり言われると…キツイなぁ。
ローゼリア嬢の態度に落ち込んでいるというのに、追い打ちをかけられるように、
陛下と公爵に従うように言われて悪役のような役回りをする羽目になる。
王子三人のうち誰か一人を選んで婚約しなければ、俺と結婚?
そんなの…誰を選んでもローゼリア嬢が辛いだけだろうに…。
俺は…正直言って、あの王子たちとローゼリア嬢ではうまくいかないと思う。
ローゼリア嬢にそんな辛い思いはさせたくないのに。
嫌だ嫌だと思っていても、陛下の命令には逆らえない。
迷いはしたがローゼリア嬢に促されるままに誓約魔術に誓いをする。
一瞬だけ赤く光るのが見えて、このまま止まればいいと思った。
すぐに誓約魔術は完了してしまい、思わずため息が出る。
「さぁ、誓約も終わったことだし、話を続けようか。
ローズ、三人のうちだれを選ぶんだ?」
「…誰も選びません。
王族との結婚は嫌です。王子三人ともお断りいたします!」
「なっ!」「ローズ!お前は何を言ってるんだ!」
「何を…といわれましても、私は最初からお断りしているはずですよ?
一度でも王子との婚約を考えたことはありません。」
「だって、お前!
断ったら…。」
「はい!喜んでジークフリート・ハングロニア様のもとへ嫁ぎます!」
「はぁぁあああああ?」
「どういうことだ!ローズ、騙したのか!?」
は?…え?どういうことだ?
王子たちとの婚約を断った…?
俺のところへ嫁ぐって言った?ローゼリア嬢が?嘘だろう?
「あーでも良かったですわ。
これで無理やり王命で王子たちを選べって言われてたら、
この国から逃げようと思っていましたの。」
あぁ、うん。それは思ってた。
本当に嫌なら、ローゼリア嬢はいつでも逃げられるだろうって。
どうして陛下も公爵もそう考えないのか不思議だった。
ローゼリア嬢はいつだって自由だ。この国に縛られる理由は何もない。
他国、どこに行っても、一人で生きていけるだろう。
才能も容姿も優れているけれど、それだけじゃない。彼女はたくましい。
何より…今も誰にも頼っていない。この国で、一人で生きている。
それが多少場所が違うくらいでは何も変わらずに生きていけるだろう。
そんなローゼリア嬢が
「いいえぇ。私はジークフリート様の所へ嫁げと言われるのでしたら、
喜んで嫁ぎますし、これ以上王子との云々がなければ…。
このまま大人しくこの国にいます。それでよろしいですよね?」
大輪の薔薇が咲き誇るかのような笑顔でそう言った。
柔らかで艶やかで、匂い立つような色香は、俺へ向けたものだと思いたい。
俺に…喜んで嫁ぐと言ってくれた。
その後で挨拶してくれたローゼリア嬢が少し震えていて。
目があったら真っ赤になった耳が少しだけ見えて。
そんなところが可愛くて仕方なくて。
もうこんな王宮にいるべきじゃない。早く帰ろう。
ローゼリア嬢を俺の妻として、連れて帰ってもいいよな?
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