第6話 ジークフリートから見た事情
「こんな時間からお茶ですか?めずらしいですね。」
「ああ、ヒューバートとローズを呼んでいる。
ヒューバートは執務室に、ローズはティールームで待たせておいてくれ。」
「かしこまりました。」
指示を受けて宰相がさがっていく。女官長に指示を出しに行ったのだろう。
それにしてもこの時間からシャルマンド公爵家の親子を呼ぶとは。
もう午後のお茶の時間をとっくに過ぎている。
夕食でもいいような時間に、お茶?大事な話でもあるのだろうか。
いつも通りに陛下の護衛についていると執務室へと公爵があらわれた。
陛下と公爵の話し合いを聞いてしまい、ローゼリア嬢に同情する。
あの王子三人の中から一人を選んで婚約ね…。
これは断れないものなのかな…王命とは言ってないけれど、似たようなものか?
王子三人とローゼリア嬢のお茶会は、11年くらい前に始まった。
魔術の天才として幼いころから名高い公爵家の一人娘。
金色の髪、あざやかな青の瞳、うるおいのある赤い唇。
大人になったら艶やかな美女になると思われる美少女だった。
だが、それがいけなかったのだろう。
王子三人はそろって、初対面のローゼリア嬢を攻撃し始めた。
「あっちいけ、ぶさいく!」
「王族でもないのに中庭まで来るな、無礼者!」
「お前に飲ませるお茶はここにはない!帰れ!」
怒鳴られても顔色一つ変えずに礼をして去っていくローゼリア嬢に、
王子三人の嫌がらせ行為は増していくばかりだった。
だけど、泥をかけられても跡形もなく浄化する。
カエルや毛虫を投げつけられても、優しく受け止めて茂みに逃がしてやる。
侍女たちを使って嫌がらせをしようと企んでも、
侍女たちはローゼリア嬢のやさしさにふれ、二度と嫌がらせには加担しない。
結果は王子たちの完敗であった。
「ありゃ~好きな子いじめだな。」
一緒に護衛していた先輩騎士がそう言い始めて、他の騎士たちも同意する。
間違いなく王子三人ともローゼリア嬢が初恋だろう。
無理もない。あれほど綺麗な令嬢は他にはいないだろうから。
だけど、いくら好きでもいじめていいわけはない。
ローゼリア嬢が何も言わないからといって、心が無いわけではない。
王子たちは気が付かなくても、ずっと護衛して見ている俺は気が付いていた。
ローゼリア嬢…すごく怒ってる。王子三人ともめちゃくちゃ嫌われている。
王子たちとのお茶会も3年近く経った頃になって、
陛下と王妃とお茶をしていたローゼリア嬢がはっきりと拒絶した。
もう王子とは会わない、二度と王宮へは来ないと。
「私は時間が惜しいのです。
ここでこうしてお茶をしている間にも、
本当なら新しい魔術式ができていたかもしれません。
研究の邪魔をしないでほしいです。
王子たちとはもう会いたくありません。
無理に会わそうとするなら、留学の話が来ているので受けます。
他国に行ってる間はここに来なくてもいいでしょうから。」
「そ、それは困る!他国とはどこだ!?」
「12か国からお誘いが来ています。
はっきり言って、この国に愛着なんてありません。
親子の絆とかもありませんからね?ご存じでしょう?
私は3歳から別邸で一人で住んでいます。
一人でどこにでも行けます。」
「…頼む。他国にはいかないでくれ。
ローズがいなくなったら魔術の発展が遅れてしまうだろう。」
「では、約束していただけますか?
王族との結婚を強制しないのであれば、この国にいて魔術の発展に協力します。」
「…あぁ、わかった。」
この話の後、王子三人とローゼリア嬢のお茶会は無くなった。
陛下と王妃はしょんぼりしていたけれど、
あのお茶会の嫌がらせを報告されていないのだろうか?
いや、報告されていても微笑ましいとか思っていそうだ。
王子たちはローゼリア嬢以外のことであればそれなりに優秀なのだから。
そんなひどい状況になっているとは思っていなかったのかもしれない。
ローゼリア嬢が王宮に来なくなり、
王子三人は目に見えて落ち込んでいたが自業自得だ。
それを知っている騎士や侍女たちは慰めることも無かった。
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