第5話 不束者ですが
「おい、ローズ!今日からってどういうことだ!」
少しは立ち直ったのか、お父様が叫んでいる。
ジークフリート様の手はそのまま離さずに顔だけお父様の方に向いて話す。
「先ほどの誓約、お忘れですか?
すぐさまジークフリート様に嫁ぐ、とあったでしょう?
今日中に書類だけでも籍を入れておかないと、
陛下やお父様の大事なものが無くなるかもしれませんよ?
というわけで、補佐官にお願いしてもいいですか?」
証人にするために宰相と、
書類をすみやかに出してもらうために補佐官も誓約に巻き込んだのだから、
ちゃんと仕事してもらわないと困る。
陛下とお父様だけだと、誓約魔術を軽く見て何もしないということがありえる。
魔術に頼った生活をしているくせに、都合の悪いところは見ない癖があるから。
陛下とお父様以外で真剣に受け止めて動いてくれる人が必要だった。
「誓約は無しだ!俺が嘘をついていたのを謝る!
悪かった!ローゼリア。
そんな風に簡単に嫁ぎ先を決めるんじゃない。
王子じゃないにしても、他にもっといいところを探してやるから!」
やはりというか、お父様は魔術を軽く考えすぎる。
こうなる前に痛い目に遭わせておけばよかったのかと思うけれど、もう遅い。
「何を言ってますの?お父様。
一度誓約を完了したら、戻せませんのよ?
誓約には制約がついてまわるの、知りませんの?」
「制約…。」
「先ほどの誓約がすみやかに実行されないと、
誓約した人の大事なものが無くなっていきますよ?
物ならいいですけどね。人や、国かもしれません。
大事なものが一つとは限りません。
無くなった後で取り戻そうとしても、もう遅いのですよ?」
私の信頼のように、ね。と付け足すと陛下が真っ青な顔になった。
暗に無くなるのは私もですよと言っているのだから、
さすがにこれだけ言えば制約の怖さをわかってもらえただろう。
「宰相、補佐官、いますぐ書類を用意しろ。
婚姻届けの署名は王印で何とかしておけ!」
「「はい!」」
バタバタと慌てて用意し始めた宰相と補佐官を見て、これで大丈夫かなと思う。
まだジークフリート様の手を握りしめていたことを思い出して、
顔を戻すと、ずっと見られていたようだ。
視線があったら、にこっと笑われてしまった。
「えっ。…あの?」
「うん、じゃあ、帰ろうか?
陛下、近衛騎士の夜勤は独身者に限られてますので、俺は帰ります。
連絡はしたので、すぐに代わりの護衛が来ます…って、来ました。
では、俺たちは帰りますね。」
いつの間に連絡したのか、近衛騎士が二人ティールームに入ってきた。
特に引き継ぎもしないで、そのまま陛下の護衛につくのを見て、
近衛騎士には私でも知らない連絡手段があるのかもしれないと思った。
まだ凹んでいるお父様と違って、陛下は立ち直りかけているように見える。
もしかして、陛下の考えは最初から、
王子と結婚しない時はジークフリート様と結婚させるつもりだったのかもしれない。
そうでなければ…もう少し慌てていたはずだから。
ジークフリート様の手をとって部屋から出る時には、
もうどっちでもいいかと思って振り返ることもしなかった。
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