第3話 誓いは絶対です

「ローゼリア・シャルマンドはバンブルド国の王子との婚約を断った場合、

 ジークフリート・ハングロニアにすぐさま嫁がなければいけない。

 この誓約を破れば、大事なものを失う。

 と、この紙には書いてあります。間違いないですか?」


「あぁ、間違いない。」


「それでいい。」


陛下とお父様が満足そうにうなずくのを見て、誓約を続ける。

私の手のひらを紙にあて、「誓約します。」と言うと、紙は一瞬だけ赤くなる。

陛下とお父様に促すと、同じように手のひらをあて誓っていく。


「それでは、当事者の近衛騎士隊長と、

 そこにいる宰相と補佐官も同じように誓っていただけますか?

 この場で話を聞いていた証人として、誓約してください。」


陛下とお父様がそこまでやるのか?と言いたげな顔をしたが、

それを無視して三人にも同じように誓ってもらう。

心配性の宰相だけは本当にいいのですか?と聞いてくれたが、

もう一度促すと誓約してくれた。



最後にもう一度私の魔力を流すと誓約魔術は完了して、光の粒となって消えていく。

これでもう無かったことにはできない。


…笑いをこらえるのがつらい。


「さぁ、誓約も終わったことだし、話を続けようか。

 ローズ、三人のうちだれを選ぶんだ?」


「…誰も選びません。

 王族との結婚は嫌です。王子三人ともお断りいたします!」


「なっ!」「ローズ!お前は何を言ってるんだ!」


「何を…といわれましても、私は最初からお断りしているはずですよ?

 一度も王子との婚約を考えたことはありません。」


「だって、お前!

 断ったら…。」


「はい!喜んでジークフリート・ハングロニア様のもとへ嫁ぎます!」


「はぁぁあああああ?」


「どういうことだ!ローズ、騙したのか!?」


怒鳴りつけてくるお父様に首をかしげてしまう。


「何を騙したのですか?私は何も変なことは言ってませんよ?」


「だって、お前。年の離れた貴族の後妻は嫌だって。

 近衛騎士隊長との結婚を嫌そうにしていただろう?」


「ジークフリート様との結婚が嫌だなんて、一度も言ってませんよ?ねぇ?」


同じように驚いている宰相と補佐官に向かって尋ねると、

二人とも思い返すようにして答えてくれる。


「あぁ、そういえばそうですね…。

 ローゼリア様は一度も嫌とは言ってませんね。」


「…はい。何度か嘘じゃないかと確認はしていましたが、

 お嫌だとは一言も…。」


「ほらぁ。私は間違ったこと言っていませんよ?

 陛下もお父様も、ジークフリート様と結婚するように迫ったのに、

 どうしてそんなに驚くんですか?

 お二人が選べって言うから、選んだのですよ?」


あれぇ、おかしいなぁと言わんばかりに首をかしげて聞いてみる。

そうすると陛下もお父様も黙って固まってしまった。

言葉だけなら、ジークフリート様との結婚を勧めたのは陛下とお父様だ。

私はどちらかを選べと言われたからジークフリート様を選んだだけなのだから。


もちろん王子と結婚させたかったというのはわかっているが、

そのためにジークフリート様との結婚を勧めたというのは、

さすがに言い出せないだろう。

私を騙そうとしました、と認めることになってしまうもの。


そろそろ笑いをこらえるのも限界になってきちゃった。もういいかしら。


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