お姉さん二人に甘えるぜぇ!!

 週末の金曜日、放課後になって俺は那由さんの家に訪れていた。

 土曜日の明日はいよいよみんながここに集まるということで、打ち合わせというほどでもないがちょっと掃除を手伝ってほしいと言われたのでやってきた。


「掃除するほどでもなかったなぁ」

「あはは、そうだねぇ」


 ただ、今日ここに来たのは俺だけでなく真冬さんもだった。

 真冬さんに関しては偶然学校の帰りに出会い、彼女の傍に姉ちゃんと他の友人さんも居たんだが、俺の傍に居たいと一緒に居ることになり、それならこれから那由さんの家にどうですかとなったのが今日の流れだった。


「それじゃあ弟君、しばらくあたしと二人だねぇ♪」

「そうですね……取り敢えずお姉さんに思いっきり甘えさせていただきたい所存!」

「良いねぇおいでおいで。お姉さんのおっぱいに飛び込んでおいで♪」

「うおおおおおおおおっ!!」

「わああああああああっ!!」


 ……そんなアホみたいな茶番を繰り広げ、俺は真冬さんの胸に飛び込む。

 圧倒的な柔らかさだけでなく、やはり年上のお姉さんが持つ包容力というのは凄まじく、いつも思うが俺の内から甘えたいと獣が暴れそうになる。


「よしよし、取り敢えずもう少しあたしとイチャイチャしてようね。那由さんもすぐにお仕事終わらせると思うし」

「ですね」


 ここは那由さんの家なのに肝心の彼女が居ない、その理由は単純で仕事部屋で閉め切り間近の仕事を片付けているためだ。

 とはいっても別に切羽詰まっているわけではなく、片手間で終わらせられるラインまで出来上がっていたそうだが、忘れる前に是非終わらせてくださいと俺たちが言ったことで那由さんは仕事に取り掛かった。


「ねえ甲斐君、一度姉ちゃんって言ってみてくれない?」

「え?」

「ふふっ、都がどんな気持ちか知りたくてね」

「……その、姉ちゃん呼びは姉ちゃんしかしたくないんですよねぇ」


 なんというか、俺の中で姉ちゃんと呼ぶのは実の姉である姉ちゃんだけだ。

 それ以外の人に対してはたとえフリであってもしっくり来ない感じがして、ちょっと嫌なのである。


「でも真冬さんには本当に年上お姉さんの包容力を感じてます。だってこんな風に甘やかされると日々の疲れは吹き飛びますし、ずっとこうして居たいですもん」

「あたしもずっとこうして居たい。なんなら扉に鍵を掛けて永遠にこうして居たいくらいだよ?」

「それはちょっと怖いですね……」

「ヤンデレを意識したんだけど」

「真冬さんはヤンデレというより、やっぱり今みたいにハツラツとした方が魅力的ですよ。もちろんどんな真冬さんも魅力の塊なんですけど」

「……君は事あるごとにあたしの心を溶かそうとしてくるね」


 溶かされているのは俺の方ですよと、真冬さんの谷間に顔を埋めるようにして更に俺は甘えだす。

 しばらく真冬さんの柔らかさと温もりを大いに堪能した後、ようやく那由さんが仕事部屋から出てきた。


「いやぁ終わった終わった。って綺麗になったね」

「そうですか? というかそこまで汚れてなかったですけど」

「そうだよ? あたしたちがやったことはそんなにないかなぁ」


 本当にただただ簡単に掃除をしただけで、特に汚れてるとかも思わなかった。


「それでも私には分かるものさ。ありがとう二人とも」


 そう言って那由さんは冷蔵庫からジュースを取り出してコップに注ぎ、俺と真冬さんに渡した。


「ありがとうございます」

「ありがと♪」

「安い給料で申し訳ないがね」

「ジュースいっぱいで美人で優しいお姉さんの傍に居れるなら確かに安いですね」


 オレンジの良い香りがするジュースを飲むと、ひんやりとした感覚に体がとてもリラックスする。

 美味しいなぁと残りを全部飲むと、那由さんがジッと俺を見つめていた。


「どうしました?」

「いや、君はいつも素敵なことを言ってくれると思ってね」

「……えっと、普通じゃないですか?」

「それが嬉しいのさ。全くもう、だから私はこんなに君のことが好きなんだ」


 そして今度は那由さんが俺を抱きしめ、真冬さんを越える豊満なバストで俺を癒してくれる……あぁ幸せだな本当に。

 俺はまたふにゃふにゃっとなりながら、那由さんの抱擁に身を任せる。


「本当に甲斐君は欲しい言葉をくれるよね。あたしも那由さんもそんな甲斐君にメロメロだし……うんうん、これが将来毎日続くと思うと今からワクワクがヤバいよ」

「そうだね。早くそうならないものか……ま、そのために色々と計画してるし時が来るのを待つだけか」


 那由さんが口にした計画という言葉、実はそれは将来に向けた一歩目のことだ。

 絵夢は一つ年下なので少し遅れるが、俺が高校を卒業した段階でみんなで住むための新しい家が用意されることになったのだ。


「でも良いんですか? もちろん働きながらしっかりと返していくつもりですけど」

「良いんだよ。私と真冬も納得していることだからね」

「そうそう。弟君は私たちの稼ぎを舐めすぎだよ?」

「それは……」


 那由さんは売れっ子作家、真冬さんは最近聞いたがネット上で活躍している楽曲提供者であったりと……かなり稼いでいることを俺たちは教えてもらった。

 だから主に二人がお金を出すことで家を……という流れになったけど、それは確かに嬉しいことではあるのだが少し負い目を感じるのもあった。


「君が傍に居てくれること、君を愛する私たちが笑顔で居てくれるだけで、それだけで十分だからと言っても甲斐君が納得しないのは分かってる。でもまずは家を用意することには納得してほしい、私と真冬もそれは譲れないからね」

「……ぐぅっ!」

「決して安くないお金は動く、でも一生一緒に居るのなら安いものだよ。那由さんが言ったように、こればかりは納得してよね」

「……分かりました」


 納得はする……するけど! おんぶにだっこは嫌なので俺もしっかり頑張って行かないといけないなこれは。


「でも……こうして今は那由さんと真冬さんが傍に居て、俺にとってはさっきも言ったように優しくて綺麗で素敵なお姉さんが傍に居る! って感じなんですけど、本当に色んな意味で大きい存在で……凄い人たちと知り合ったなって」

「だよねだよね。あたしもまさか刻コノエさんがこんな傍に居るとは思わなかったからなぁ」

「それ、君にも同じことが言えると思うんだけど」


 結論、二人ともとてつもなく凄いってことだ。

 それから二人とプライベートの話は当然多くなったのだが、那由さんからこんな提案をされた。


「私は催眠アプリに関する話を描いているのは知ってると思うけど、甲斐君をイメージして描かせてもらっても良いかい? 人柄もそうだし、催眠アプリに対する気持ちは使い方に関しても」

「それは別に良いんですけど……あはは、嬉しいな」

「そう思ってくれるのかい?」

「はい。読み物としても相棒の証が残るわけですから……那由さん、是非その漫画を俺も見たいです!」

「……そんな風に言われたら私も全身全霊で頑張るしかないじゃないか」


 これは楽しみが一つ増えたな、これはワクワクしてきたぞ!


「あ、そう言えば二人とも……SNSの方は大丈夫です?」


 俺は思い出したように二人に聞くと、二人は全然大丈夫だと頷いた。

 実は二人とも宣伝など様々なことでSNSを活用しているのは確かで、そうなるとネット上という媒体の中で多くのファンが居るわけだ。

 つい先日……まさかの二人がほぼ同時に恋人が居ることを発言したため、俺はとにかく心配で仕方なかった。


「心配の必要はないさ。私も二十五だし、彼氏が居たところで変じゃないからね」

「あたしも同じだよ。どうして愛する人と一緒に過ごすことを隠さないといけないのかな? あたしは全然気にしないしねぇ♪」


 あぁうん、この二人は本当に色んな面で強いな。

 その日はそんな強い二人に身も心も満足させられてしまい、ニヤニヤが収まらない状態で家に帰ったのだが……姉ちゃんにキモいと言われて普通に落ち込んだ。

 そしてようやく、みんなが集まる日がやってきた。


【あとがき】


次回か、次々回で完結!

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