守る繋がり

「あ、甲斐君!」

「おまたせぇ!」


 とある日の放課後、女子校の前で待っていると愛華とフィアナが歩いてきた。

 校門に居た俺を見つけると、彼女たちは手を振りながら近づいてきたので、俺も手を振り返すことで答えた。


「お疲れ様二人とも」

「甲斐君の方こそ」

「そんな私たちに会いたかったのぉ?」


 当然だろと俺は頷いた。

 そんな今更なことを聞かなくても二人とも俺のことは良く分かっているだろうに。


「それじゃいこっかぁ!」

「ここに居ても注目を集めるだけだから」


 二人に手を引かれるようにその場を離れた。

 もうこうして女子校まで彼女たちを迎えに来たりするのも慣れたもので、他の生徒たちにも俺の姿は見慣れたようなものだろう。

 相棒が残した力によって二人とも俺の恋人として女子校では通っているが、当然のように物珍しく見られるだけでそれ以上は何もない。


「本当に不思議ね。相棒さんの力は」

「うんうん。私たちの両親も既に受け入れ済みみたいな部分あるもんね。ただ甲斐君とは腹を割ってお話はしてみたいらしいけど」

「機会があったら時間を作ってもらおうかなとは思ってる。大切な娘さんをくださいって伝えないとだから」

「あ……」

「っ……♪♪」


 相棒の力によって改変されてしまったこと、それはある意味で俺に後に退けない状況を作らせた。

 もちろん俺にとってそれは嫌なことではなく望むところ、むしろ彼女たちを一層大切にしようとする気持ちが強くなったくらいだ。


「まあでも、今でも時々スマホを手に相棒のことを確かめることはあるよ」

「甲斐君……」

「それはそうだよね。それだけ長い間一緒だったんだから」


 そう……本当に相棒とは長い間一緒だった。

 言ってしまうと一年にも満たない絆ではあったけれど、相棒の代わりなんて居るわけがないなんて言えるほどに濃厚な時間だった。

 二人が心配そうに見つめてきたので俺は苦笑しながら言葉を続ける。


「別に引き摺ったりしているわけじゃないんだぞ? 相棒が居なくなったのは確かに寂しい、でも浮かない顔をしていたらそれこそ相棒に怒られちまう」


 いや、怒ることはなさそうだが……呆れた顔はされそうだ。

 相棒のことを考えるくらいなら彼女たちのことを考えろと、そうあの時のように文字で説教もされたりするのかな? それはそれであり得そうだ。


「二人とも、今日は普通にデートしようか」

「えぇ」

「そうだね」


 当てもなく、適当に街中をブラブラするだけでも楽しいのは彼女たちという存在があまりにも俺にとって大きいせいだ。

 二人っきりか、或いは誰かの家だとお互いに相手の体に触れまくって、その気はなくてもどちらかがその気にさせられてしまって……言ってしまうと、最近の俺はかなり爛れた生活を送っていた。


(ま、それだけ愛されているってことだし逆に愛している証だよな)


 そんなことを考えながら、俺は二人を連れてデートを楽しむ。

 俺もそうだが愛華もフィアナも間違いなく、世界が変わったことで街中などでのスキンシップは更に激しくなった。

 もちろん人前なので過激なことはしないが、それでも多くの男性に睨まれるくらいにはイチャイチャしている自負がある。


「……今もそうなんだよなぁ」

「どうしたの?」

「う~ん?」


 街中で三人分のアイスを買ってベンチに座っているのだが、二人とも俺の肩に触れるくらいの距離は当たり前で、チラチラと視線を向けられてはそれに気付くと可愛い笑顔を浮かべてくれる。


「いや、左右に恋人が居るってなると……どっちを見ても幸せなんだなって」


 二人に挟まれる距離の近さに息苦しさは一切感じず、彼女たちの普通よりも若干重たい愛を向けられたとしても俺は全然大丈夫だし、むしろ好きだった。

 それを伝えると二人はクスッと笑い、そう言えばと愛華が言葉を続けた。


「本当に一時だけれど、私とフィアナは迷ったことがあるの。こんなにも甲斐君を好きな気持ちを向け続けて……その、疲れてしまっていないかって」

「あ~あったねぇ。結局、我慢はしない方向で行こうって決めたんだよね♪」

「それはグッジョブだろ。我慢なんか必要ないって」


 まあその我慢の必要ない姿が今までと、そして今の彼女たちなんだろうけどね。


「本当に疲れたことはないぞ? 流石に数人を相手にする場合は疲れるけど、それ以外ならぜひぜひイチャイチャをくれ! 俺を幸せにしてくれ!」

「ふふっ、分かったわ♪」

「あいあいさ~♪」


 こうして笑顔を浮かべてもらうとこちらとしても幸せになれる、だからもっと俺に笑顔を提供してほしい。


(そして俺も彼女たちに返して行かないとな……やれやれ、大変だぜ本当に)


 何度も考えることだが、俺は七人の恋人と共に過ごすことになる。

 少しでも安心出来るために未来への道筋を構築している最中であり、おそらくその後が一番大変になってくると思うけど……俺は今、とてもワクワクしていた。


「なあ二人とも」

「なあに?」

「何かなぁ?」


 俺は両手を広げて二人を抱き寄せ、これからのことについて語った。


「これから先、本当に大変なことは多いと思う。一番の障害はなくなったけどそれでもきっと楽な道のりじゃない。けど俺はワクワクしてるんだ……たとえどんな未来でもみんなが居るからさ。愛華やフィアナたちが居る未来が楽しくないわけがなくて、本当に色々と楽しみなんだよ」


 どんな困難も乗り越えてみせるからドンと来い……いや、出来ることなら来ないでくれとも思うけど、まあどうにかなるだろう。

 楽観視するわけではなく、あくまでみんなと共に過ごすことを第一として考え、同時に俺はみんなを繋いでいく男として頑張るだけだ。


「愛華、フィアナ、これからも俺に付いてこい」


 付いてきてくれではなく付いてこいと少し強気で言ってみた。

 こんなことは誰でも言える台詞ではあるものの、二人が嬉しそうに微笑んでくれたのを見ると本当に嬉しくなる。


「えぇ! 一生付いていくわ♪」

「うんうん♪ 死ぬまで一緒だよぉ?」


 死ぬまで一緒……ちょっとヤンデレっぽいけど全然悪くない!

 最近はいつも勉強が主だったということもあったので、今日の残りの時間は二人と思いっきり遊ぶことにしよう。


「ねえねえ、ゲーセン行きたい!」

「ゲーセンかぁ……女の子二人と行くのも新鮮だな」


 ゲーセンは基本的に友人たちと行くのが普通だったし、女の子と行くところではあまりないイメージだ。

 愛華も構わないらしく、俺たちは三人で近くのゲーセンに向かうことにした。

 学校終わりの放課後ということで、うちの高校だけでなく他所の高校生や中学生の姿も良く見られるのだが、俺のように二人も綺麗な女の子を連れて歩いている人間は見られない。


(彼らには俺はどんな風に見られてるんだろうな)


 ゲームそっちのけで見てくる人も居るし、こんなところでイチャついてんじゃねえとか思われていそうだ。

 まあでも特に気にはならないので、俺たちは遊びながら適度にイチャイチャするだけだ。


「これはどんな風にやるの?」

「これはねぇ。この銃を向けて、出てくるゾンビを撃つんだよぉ」

「なるほど……」


 いやしかし、美女二人が身を寄せ合ってゲームをする光景は良いもんだな。

 二人に悪い虫が付かないように警戒心はちゃんと持ちながらも、俺も時々加わったりして楽しんだ。


「もう! フィアナったら強すぎでしょ!」

「ねえねえ愛華」

「なに?」

「ゲームって、楽しいよね♪」


 ……フィアナの煽り性能も中々に高い。

 まあ今更そんなことで愛華も怒ったりはしないが、対抗心は燃やされたみたいで目に炎が見える。

 しかし既に時間も遅くなりそうだったので、俺は二人の肩に手を置いた。


「そろそろ帰ろうぜ。良い時間だしさ」

「え? あ、本当だわ」

「仕方ないねぇ」


 そうしてゲーセンを出た俺たちは、日が落ちたのもあって腕を組んで歩く。

 そんな中、俺はあの女性を見た。


「……あ」


 以前に俺に絡んできた女性は一瞬を俺を見たが、特に何も反応することなく去って行った。

 催眠アプリの概念が消えると言っていたし、もしかしたら彼女たちのような女性の記憶から催眠に関することは消えたのだろうか……その真相は定かではないが気にしたところでどうしようもない。


「ねえ甲斐君、もう少し一緒に居たいなぁ」

「そうね……私ももう少し一緒に居たいわ」


 恋人が二人傍に居てくれるのに、別の女性のことを考えるモノじゃないなと俺は苦笑し、二人の提案に頷くのだった。


「帰るの遅くなるかなぁ♪」

「どうかしら。そこは私たち次第でしょう♪」


 えっと……普通に過ごすだけだよね二人とも?

 二人は俺を見てにんまりと笑い、結局彼女たちを家に送り届けたのは更に少し時間が経ってからだった。

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