築き上げた関係は更に深くなる

 甲斐が茉莉の家の泊まりに行っている日のことだ。

 実は入れ替わりのように……というとアレかもしれないが、都と一緒に過ごすために彼の家に真冬が訪れていた。

 甲斐は別に彼女たちに対して順番などは一切付けていないが、それでも一応簡単に説明すると七番目に甲斐と心を繋いだのが真冬だ。


「な~んだ……弟君居ないんだ」

「露骨にガッカリするんじゃないわよアンタ」


 甲斐が居ないことにショックを受ける真冬、向かった先が茉莉の家で今日はお泊まりだと聞かされ羨ましくは思ったが嫉妬はしなかった。


「嫉妬しないんだ?」

「しないよ。だってもうあたしたちはみんな繋がってるし、それにあたしに関しては弟君と一夜を明かしたもん」

「言い方よ言い方……でも、そうなのよねぇ。しかも近衛さんも一緒とか」

「近衛さんかぁ……凄かったよ色々と……うん凄かった」

「……気になるわね」


 都の興味津々な表情に真冬はニヤリと笑いながらも、甲斐とのことを赤裸々に話すようなことはしない。

 相手がたとえ彼の姉であったとしても、流石にそこは踏み込んではいけないプライベートな世界だからだ。


「最近どうなの?」

「あたし?」

「うん」

「毎日充実してるよ? これも全部弟君との出会いがあたしを変えてくれたおかげ」


 そう言って真冬は満面の笑みを浮かべながら都に腕を伸ばす。

 自分よりも小さな都の体を抱きしめながら、よしよしと頭を撫でて言葉を続けた。


「そして何より、都たちの存在があたしを支えてくれた……あの時はごめんね。すぐに助けてって言えなくて」

「それは……良いのよ。詳しいことは知らないけれど、それでも今アンタが傍で笑っていられる今が何よりも大事よ」

「都……好き! 弟君の次に大好き!!」

「はいはい」


 自分には決して無い圧倒的な膨らみに顔を挟まれながら、都は悔しさで涙を流しながら抱擁を受け入れている。

 都たちは本当に仲が良いこともあって、こんな風に触れ合うことも多い。

 甲斐もそうだが都も女性の胸には縁があり、こうして女性の胸に顔を埋めることが多いのは姉弟として共通していた。


「そう言えば真冬は自分のやってることを甲斐には伝えてるの?」

「ううん、もっと立派になってから伝えるのもありかなって。というかそれ以前にあまりそういうことを話さないから」

「確かにそれもそっか」


 別に隠し事ではなく、真冬には趣味でやっているものがある――それは楽曲の作成だ。

 彼女は元々、昔に雑誌で見たロックのミュージシャンに憧れて赤メッシュにしているのもあるのだが、彼女には音楽に対する才能があった。

 その才能を活かすために彼女は動画サイトに自作した曲であったり、現存する曲の歌ってみた動画を投稿したりしてそこそこの人気を博している。


「近い場所に刻コノエさんっていう有名同人作家が居ることが何より驚いたけど刺激にはなったかな」

「あ~私もあれは驚いたわ。でも、アンタだって登録者は二十万人くらい居るし全然有名人じゃん。甲斐が知ったら驚くわよ?」

「近いうちに言うつもりだよ? でも……甲斐君音楽はあまり興味なさそうだよね」

「でもアニソンとかは割と聞いたりしてるみたいだし、真冬の歌ってみた動画の中に知ってる曲もいくつかあると思うけど」


 実はその筋では有名な真冬だが……こういった部分であの弟が劣等感を抱いた部分もあったのかもしれない。

 動画サイトに曲を投稿すると再生回数もそれなりにあるため、彼女の年齢にしては収益というものはかなり大きく、そのほとんどは貯金に行くため通帳を開くごとに残高が溜まっていくのだ。


「お金はあって困ることはないし、甲斐君たちのことで何かあった時に役立てることが出来るじゃん? 本当にこの才能っていうか、花開いた現状にあたしはこれ以上ない感謝をしてるよ」


 ちなみに那由に関しては真冬のことを知っている。

 お互いにネット上に展開している共通部分があるので、そういった部分でも彼女たち二人は苦労したことや現時点で困っていることなどを分かち合えるほどの仲になっていた。


「甲斐は安泰ねぇ……って言いたいけど、あの子今凄く頑張ってるから。ある程度は助けを借りるかもしれない、それでもアンタたちを困らせないようにって」

「そこまで責任感を感じなくて良いってのがあたしたちの考えなんだけど」

「そうはいかないでしょう。少なくとも七人も女性を傍に置くって考え方が異例中の異例なんだから」


 今の甲斐は正に男なら誰もが夢を見るであろうハーレム状態だ。

 しかし、その立場に甘んじて彼女たちからの愛に浸り続けるだけではダメだ……何故ならこの世界はゲームのように結ばれてエンディングとは行かず、現実世界であるため彼女たちとのこれからはずっと続いていく。

 だからこそ、甲斐は現状で満足しながらも、その先の未来の為に必死に頑張っているというわけだ。


「ねえ都」

「なに?」

「甲斐君さ……姉目線から見ても凄く良いと思わない?」

「思ってるわよ。弟だからこそなのか良いことしか出てこないわ」


 でも弟だからこそ恋心も抱かないと都は笑った。

 今甲斐は茉莉の家で勉強をしている頃合いなのだが、彼とその周りに集まる茉莉たちも感化されるように頑張っている。

 しかしそんな頑張りを支えるかのように、着々と将来に向けてある意味で外堀がしっかり万全に組み上がっているのも確かだった。


▼▽


「……ふぅ」


 夕飯の後、風呂場で茉莉と繋がった後のことだ。

 お互いに息を絶え絶えになるくらいに求め合い、もう無理だと言い出すくらいには満足してしまった。

 ただただ体を重ねるだけなのに、いやらしさよりもやっぱりとてつもない幸福感に包まれていた。


「さてと、戻るか」


 トイレも済ませて後はもう寝るだけ……流石に風呂場で頑張り過ぎたので今日はもう俺も茉莉も疲れてしまった。


「ただいま」

「おかえり~♪」

『先輩ですか?』


 パジャマ姿の茉莉がベッドの上で俺を出迎えてくれたのだが、スマホを通して絵夢の声も俺を出迎えた。

 茉莉のベッドは二人でも全然問題なく寝れると言えば寝れるのだが、狭いかと言われたらちょっと狭い。


『大丈夫。ギュッと詰めれば余裕だよ』


 ということで一緒に引っ付いて寝るのは確定だ。

 俺はまだベッドの上に上がることはなく、床に腰を下ろしベッドのを背もたれにするようにした。


『茉莉先輩が羨ましいですよ』

「えへへ~♪ 本当に幸せだよ。もうね、心がルンルンなの」

「それは俺もだけどな」

『凄く想像できます……私もきっとそうなりそうですね』


 だろうなと思うことはないんだが、俺が居ることで彼女たちがそう思ってくれるのは本当に嬉しいことだ。

 それから絵夢としばらく話した後、お互いに今日は寝ようかとなって通話は途切れた。


「もう良い時間だねぇ」

「そうだな……よし、お隣失礼します!」

「どうぞ~♪」


 奥側に俺は位置し、横になるとピッタリとくっ付くように茉莉が抱き着く。

 窮屈? そんなことはなかった不思議と、ただただこうして彼女とくっ付いているのが嬉しいというか、ずっとこうして居たいっていう気持ちが強い。


「茉莉の部屋で、茉莉のベッドで、隣に茉莉が居て……もう茉莉の匂いしかせん」

「ちょっと変態っぽいんだけど」

「仕方ないだろ」

「でも今度からここに甲斐君の匂いも加わるんだよ? あいつも何度かここには来たことあるけどそれはもう昔の話……これからは甲斐君だけ。この部屋に入る男の子は甲斐君だけだもん」


 それは……そうだなと俺は思いっきり頷いた。


「それにしてもお風呂でのこと、凄かったね?」

「あぁ……凄かった」

「実際に繋がった瞬間もそうだったけど、その前にしたって甲斐君凄かったよ」


 その前というのは準備段階のことだ。

 ただでさえ雰囲気としては出来上がっていたが、体の方の準備というのはもちろん大事になってくる。


「まさかあそこで今までの勉強が活きるとは思わなかったわ」

「だねぇ。ふふ、甲斐君はもうあたしたちの体のこと知り尽くしてるでしょ」


 催眠アプリを使って彼女たちと一線を越えなかったからこそ、反対に俺は彼女たちの体を触りまくったり色々した結果、どこが弱いかなどは全て把握している。

 だからこそその経験が全て活きて茉莉が驚くくらいに手馴れていた。


「ただ気持ち良いだけじゃなくて、甲斐君の手からは優しさと一緒に安心感が伝わるの。これねぇ……あたしだけじゃなくて、他のみんなもすっごく夢中になっちゃうと思うよ?」

「そう言ってもらえるのは嬉しいなぁ。じゃあもっとギュってするわ」

「して~♪」


 お前らどれだけイチャイチャするんだよと誰かにツッコミをされてもおかしくないほどに、俺たちは引っ付いていた。

 そんな中、俺はふと思う。


(……相棒が居なかったら、きっとこんな風にはなれなかった。仲を深める段取りを踏んだとしても、お互いにこれほど惹かれることはなかった)


 それは確かだろうなと、俺は目を閉じながら考えていた。

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