女子校の祭りだぜぇ!

「……超絶圧倒だぜ」


 俺は今、とある女子校の前にやってきていた。

 校門には“学園祭へようこそ”の立て札が取り付けられており、本日この女子校で学園祭が行われている証である。


「……ここで待ってれば良いんだよな?」


 男子禁制の花園とはいえ、学園祭ということで近隣住民などが自由に出入りして居る中、俺はスマホを手に時間を潰す。

 しばらく待っていると、俺の待ち人である二人の声が聞こえた。


「甲斐君!」

「甲斐君~♪」


 顔を上げると、校舎の方から制服姿の愛華とフィアナが歩いてきた。

 片手を上げて応えると二人は嬉しそうに微笑み、周りからの視線を受けながら俺の元にやってきた。


「今日はありがとな二人とも」

「ううん、そんなことないわ」

「うん♪ 学園祭の見学は建前で甲斐君と居たいだけだからぁ♪」


 フィアナの全く隠そうともしない言葉に俺は苦笑した。

 今日は二人に誘われる形でここの学園祭に参上する形になったが、元々二人から誘われた時点で断るつもりはなかった。


「ここが女子だけの花園かぁ……なんて思ってたんじゃない?」

「愛華ってエスパーなの?」


 考えていたことを言い当てられたものの、特に隠す気もなかったので肯定すると愛華だけでなくフィアナも肩を震わせるようにして笑った。


「うふふ~♪ 甲斐君の考えていることはお見通しなんだよぉ。だってもう、私たちは特別な関係だもんね?」

「えぇその通りだわ。だから分かるのよ♪」


 それがオーバーな表現なのは一目瞭然だ。

 それでも彼女たちが俺のことを理解しているというのは間違いではなく、あながち言っていることも嘘ではないはずなので俺も自然と頬が緩む。


「そうだな……改めて特別な関係だって言われると身に沁みる気がするよ。愛華とフィアナ、二人とも俺にとって本当に大切な女性だ」

「っ……」

「……あぅ」


 少しばかりクサいセリフかなと思ったけど、特に聞き耳を立てているような人も傍に居ないのでこれくらいのことは別に良いだろうか。

 そもそも二人に対して伝えたい言葉を躊躇する気は微塵もないし、こういった言葉は伝えてこそ相手に伝わるので我慢するつもりもない。


「……こんなにかっこよかったのよね甲斐君は」

「そうだねぇ……えへへ、私たちが大好きになった甲斐君だもん」


 かっこいいかどうかはこれからも俺のことを見てほしい、そうして判断してほしいもんだな。

 こうしてジッとしていても始まらないので、ようやく俺たちは三人で動くこととなった……のだが――。


「えっと……これで移動するのか?」

「もちろんよ」

「良いじゃん良いじゃん♪」


 二人に手を繋がれる形で移動することになった。

 最初は二人ともその豊かな胸の感触を存分に堪能させてくれるかのように腕を組んでいたのだが、流石に夏ということもあってとにかく暑かった。


(……でもいついかなる時も胸の柔らかさには触れていたいもんだ。これも男の性ってやつだなぁ)


 どんなに暑くても寒くても、そこにその至上の柔らかさがあれば気にならなくなるくらいにはその魅力に憑りつかれているらしい。

 体育祭の日の夜、那由さんと本格的に関係を持った後のことだけど、二人に挟まれる形でアレをされてしまったし……ってマズいな、少し考えるだけで思い出してしまうのはそれだけ刺激的な夜だったってことだ。


「喫茶店などもやっているわ。個室も用意できるから、そこだと思う存分引っ付くことが出来るのよ」

「そうだよぉ! 冷房も効いてるから凄く涼しいよ♪」

「……えっと、それもお見通しなの?」


 いや、こればかりはお見通しというよりも分かりやすい表情か何かをしていたんだろうなぁ。


「それにしても……流石名門女子校だな」


 名門というよりは女子校というものがそもそも新鮮だからなのか、共学のうちと違ってどこか神聖さのようなものを感じさせる。

 二人と歩いていると目に入る在学生や教員も含めて、どこかお上品な印象というかそれに似たようなものが窺えた。


「流石に外部の人も居るから生徒に関しては割と猫を被ってるわ」

「そうだねぇ……あ、あそこの子を見てみて」

「うん?」


 フィアナが指を向けたのは家族連れを案内している女子だった。

 キッチリと制服を着こなしており、見た目からして清楚さが溢れ出しているようにも見えるのだが……あの子がどうしたんだろう。


「あの子普段はかなり派手な格好をしてるんだよぉ。それでも流石に今日は清楚モードみたいだね」

「へぇ……」

「外にセフレが何人も居るとか教室で言ってるような子よ。ねえ甲斐君、第一印象なんて当てにはならないわ」

「……ほへぇ」


 雰囲気と見た目的に漫画に出てくる聖女みたいな感じなのだが、実際はそうではなく外にセフレを持つ女の子と……なるほど、以前に女子校のイメージなんて幻想だと言っていた愛華の言葉が良く分かる。


「それにしてもさ」

「どうしたの?」

「めっちゃ見られてないか?」


 実は二人と会った時から視線はそれなりに集まっていたのだが、今はそれはもう穴が空くのではと言わんばかりに見つめられている。

 そもそも二人と手を繋いでいる時点で注目される材料は集まっているし、気にするのも今更かと思って俺はギュッと二人の手を強く握りしめた。


「いや悪い、ここまで来て気にすることじゃなかったな。せっかく二人がこうして誘ってくれたんだし、他のことに気を取られず思う存分二人と楽しむよ今日は」


 そう伝えると愛華は頷き、フィアナに関してはボーっとするように俺を見つめて顔を赤くしていた。

 フィアナには何か不思議なフィルターでもあるのかと思ってしまうほどに俺の一言一言に照れることは多いのだが、そんな様子もやっぱり可愛くて俺と愛華は揃って笑っていた。


「さあ甲斐君、ここよ」

「早く入ろ♪」


 色々と見学をした後、俺たちは目的だった個室にやってきた。

 基本的に教室で喫茶店は開かれているのだが、中には少人数で落ち着いた空間を楽しみたい人も居るだろうということでここは用意されたらしい。

 たとえ小さな一室であっても手を抜かない装飾に、俺はここの生徒たちの本気を垣間見た気がした。


「ご注文を伺いますね」

「甲斐君は何が良い?」

「何でも良いよぉ」


 冷房のおかげで涼しいため、手を繋ぐだけで満足出来なかった二人は思いっきり俺に抱き着いていた。

 注文を聞きに来た女子が不思議そうに見つめる中、適当に三人分のケーキとカフェオレを頼んだ。


「それではしばらくお待ちください……じゃないよ二人とも! 何々、どういうことなの!?」

「ふふ、私たちにとって大切な人なのよ」

「うんうん。とってもラブラブなのぉ♪」


 なるほど、どうやらこの子は二人にとっても知り合いらしい。

 愛華とフィアナの言葉を聞いた彼女は俺にギョッとした視線を向けたものの、俺の両サイドから漂うピンクのオーラに充てられたのか頭を下げて出て行った。


「どんな風に思われたかなぁ?」

「さあね。どう思われたところで何も変わらない、私たちはただ愛する人の傍に居るだけよ」


 やだ、愛華がイケメンなんだけど。

 それから二人とイチャイチャしていたが、流石に注文が届くまでエッチなことなどはお預けだ。

 というかここでそれをしてしまうのは非常に気が引けてしまうものの、この二人の香りが漂う密室の中だとその気にならないのが失礼だ逆に。


「早く近衛さんと松房さんに会いたいなぁ」

「すぐに会えるさ。近いうちに那由さんの家にみんなで集まる予定だしな」


 そしてこれまた俺たちの中でビッグイベントになるわけだが、近日やっと俺が親しくなった女性たちが一堂に会する予定が立てられている。

 場所は那由さんの家ということで、茉莉たちもそうだし真冬さんも必ず行くからと予定を無理やりにでも空けると言っていた。


「今でも話はしてるだろ? 案外初めてって感じはしないかもな」

「それはありそうね。既に文面もそうだし通話もしているから」


 俺を含めて彼女たち全員が参加しているチャットルームも作っている。

 こういうのあったら良いよねと言ったのは茉莉で、その後にみんなに聞いて全員が賛成したからこそそのチャットルームは出来たのだが……着々と絶対に何があっても逃げられない包囲網が完成していくのを実感した。


「お待たせしました! どうぞごゆっくり~!」


 その後、注文したケーキなどを食べてのんびりとした時間を二人と過ごす。

 もちろんただののんびりとした時間にはならなかったが、色んな意味で気分をリフレッシュできたのは確かだ。

 ここは女子校なので滅多に問題も起こりそうには思えない……そんな安心感があったのだが、やはり外部から人を招くと何も起こらないということはないらしい。


「なんだ?」

「どうしたのかしら」


 少しだけ騒がしい場所を見つけ、俺たちはゆっくりと近づいて行った。

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