これが最後の繋がりだぜぇ!
「……父さん、騒がしくしてごめんな?」
「いや良いんだ。正直騒がしいのは嫌いじゃないからな……ただ、女性の方が多くなると肩身が狭くなるが」
父さんの言葉に俺は大いに同意した。
あれから体育祭の方は特に問題なく終了し、優勝したのは運が良かったのか俺や茉莉が所属する赤組だった。
高校生最後の体育祭を勝利で飾ることが出来たのは凄く嬉しかったし、結果が出た時に周りに大勢生徒の姿があったにも関わらず茉莉は俺に抱き着いてしばらく離れてくれなかった。
『やったよ甲斐君! 私たち勝ったよ!!』
『お、おう……!』
ちょうど俺と茉莉が一緒に出た綱引きの後ということもあり、お互いにかなり汗を掻いた中の抱擁だったが……まあ悪くはなかった。
主に男子から集まる嫉妬の視線を感じつつも、あの時は俺も茉莉の背中にちょっと手を回したりしたんだよな。
(……本当に良い思い出になったな)
茉莉のこともそうだし、絵夢や才華も交え、そして応援に来てくれた姉ちゃんたちのことについても本当に嬉しかったし楽しかった。
「……その後にこれだもんな」
そんな楽しかった体育祭を振り返りつつ、俺は盛り上がりを見せ続ける四人に目を向けた。
「そうなのねぇ。甲斐がそんな立派なことを……うぅ!」
「ちょっと母さん何泣いてんの! 酒が足りないんじゃない?」
「さ、流石に飲み過ぎじゃないかい?」
「そうだよ都! 流石に明日しんどくなるよ?」
母さん、姉ちゃん、那由さん、そして真冬さんがずっと騒いでいたのだ。
今は那由さんと真冬さんが止める側になっているものの、こうして夕食会が始まってすぐに酒という名の魔力にあの四人は包まれてしまい、こうして俺と父さんは避難することになったわけだ。
「それにしても驚いたぞ。真冬ちゃんはともかく、近衛さんのことは聞いていたが実際に家に来たのは初めてだからな」
「あはは……でも良い人だったでしょ?」
「そうだな。話の節々から優しさは伝わるし、何より甲斐のことを気に入っているのが良く分かった」
父さんも母さんも那由さんに対する印象はかなり良い方だ。
流石に茉莉たちのこともそうだし、那由さんとも新たな関係を作ったことは伝えていないけど、こんな風に思われているのは良いことだろう。
「ちょっと甲斐~! アンタも飲みなさいよぉ!!」
父さんと二人で話をしていると姉ちゃんが背中から抱き着いてきた。
俺は未成年なので酒が飲めないのは当然だが、何より姉ちゃんから漂う酒の臭いがソレはもう強烈だった。
「酒くさっ! 姉ちゃん臭過ぎ!!」
「ああん!? 私のことを臭いって言ったわねアンタ!!」
ビールの缶を置いた姉ちゃんは俺に絡みついてきたが、流石に酔っぱらっているということもあって今の姉ちゃんは弱かった。
俺はすぐに姉ちゃんの拘束から抜け出し、姉ちゃんの体に思いっきり指を這わすようにしてくすぐった。
「ちょ、ちょっとやめ……あははっ!!」
「ほれほれ、今の姉ちゃんなら俺も負けんぞこらあああ!!」
いつも姉ちゃんには勝てないので思いっきりくすぐらせてもらった。
しばらく俺にされるがままだった姉ちゃんはフラフラした様子で父さんに寄り掛かり、ボソッとこんなことを呟いた。
「甲斐に傷物にされたわどうしよう父さん」
「安心しなさい都は綺麗だよ。だから部屋に戻って寝るんだ良いかい?」
そういって姉ちゃんをお姫様抱っこして父さんはリビングを出て行った。
完全に困った娘を見るような目だったので、父さんとしてもさっさと姉ちゃんを寝かしつけてのんびりしたいといった感じかな。
「流石はお父さんだね。扱い方が良く分かってる」
「ま、酔っ払った都はめんどくさいからあれくらいがちょうど良いよ」
那由さんはともかく、真冬さんはずっと姉ちゃんの友人として過ごしているからかキレッキレだった。
「そう言えば二人ともどうするの~? 都は二人に泊っていくと良いって言ってたけど」
「あ~……」
「……どうしようかなぁ」
姉ちゃんそんなことまで提案してたのか……結局姉ちゃんが先に寝る形になったのでお泊まりは流石にないだろう。
……そう俺は思っていたのだが。
「ふふ、まさかこうなるなんてね」
「うん。うわぁ弟君が横に居るよぉ♪」
「……………」
時刻は深夜十二時前、俺は那由さんと真冬さんに挟まれる形で布団の中に居た。
ベッドだと流石に小さいということで、敷布団を二つ繋げるような形にしてこうなったわけだ。
(……両方からあまりに良い香りがするのと柔らかすぎる!!)
二人ともベッタリと俺に引っ付いているのもあって、その大きく立派に実っている果実の柔らかさもさることながら、年上のお姉さんが傍に居るという無敵に安心感のようなものも感じていた。
「ねえ甲斐君、私たちに挟まれてどうだい?」
「あ、それ聞きたいかも。ねえ弟君、どうなのかな?」
ふっふっふ、二人とも俺が照れると思ってのことだろうが甘いな!
「最高です」
キリッとした表情で言ってやった。
すると二人とも目を丸くした後、まるで絶対に照れてやらないと言った俺の意志を感じ取ったかのように肩を揺らして笑い始めた。
「笑わないでくださいよぉ……」
「あ、ごめんね弟君。よしよし、都にはない柔らかさの中で安心してね」
頭を抱くようにして抱き寄せられ、俺は真冬さんの豊満な胸元にインした。
今一瞬、隣の部屋から壁を蹴るような音が聴こえたけどきっと気のせいだ……というか真冬さんも結構言うよね姉ちゃんに対して。
「彼女の前で言うのは止めなよ? 話している時に、結構私たちの胸元を見て悲しそうにしていたからね」
「……姉ちゃん」
あれでも胸を張ってるんだから立派な姉ちゃんだようん。
そんな風に真冬さんの胸に抱かれていた時、ボソッと那由さんがこう言葉を続けるのだった。
「それにしても真冬、君と私は同じだからこそ良く分かるよ。私と違って大変だったみたいだけどね」
その言葉に真冬さんは頷いた。
「そう……だね。運命が少しでも違ったのなら、あたしも弟君に優しいエッチな悪戯をされる未来があったと思うと本当に残念。でももう振り向かない、下を向かないって決めたからね」
「強いね君は」
「そんなことない。弟君に助けられなかったらきっとあたしは……」
俺を挟んで少しばかりセンチメンタルな会話が繰り広げられてしまう。
それでもその話はすぐに終わり、また俺は会話の中心に引っ張り出されてしまった。
「それにしても弟君は凄いね。学校で彼女たちと話したけど……うん、本当に幸せそうな雰囲気が伝わってきた」
「……そう思ってくれているのが分かるから俺も幸せです」
羨ましいなと、小さな声で真冬さんは囁いた。
その切なそうな声を聴いた時、俺はスマホで示された真冬さんとの繋がりを表すあの画面を思い出す。
そして同時に、俺の意識にも変化はあったのだ。
「真冬さん」
「どうしたの?」
「俺……まだ真冬さんのことは知らないことだらけです。出会いが出会いだっただけに色々とありますけど、それでも確かなことが一つだけ……俺、真冬さんに傍に居てほしいと思っています」
「お、弟君……?」
言葉は止まらない、そう伝えないと俺自身が納得できないと言わんばかりに真冬さんへの言葉が溢れて止まらないのだ。
以前に告白をされた時からずっと、それこそ必ず答えは出さなければいけないと考えていた……その答えがこれだ。
「私たちに時間なんてものはそこまで重要なものじゃない。お互いにどうしたいか、それがもっとも重要だと思ってる」
「那由さん……」
「私に関しても勢いが全てみたいな部分はあったからね」
そうだな……確かにそうだった。
守りたいだなんて烏滸がましいことを言えるほど立派な人間ではない、それでも後悔しないように自分の気持ちに従うのも時には大事だと俺は良く知っている。
「というか……俺が真冬さんを離したくないです! 知らないことはこれからたくさん知っていきたい! だからその……傍に居てください真冬さん――」
そう伝えた瞬間、言葉の途中だというのに真冬さんにキスをされた。
優しく触れ合うだけのキスだったが、それを何度も繰り返すように真冬さんはキスをやめてくれない。
つまり真冬さんの返事はそういうことだ。
「夢みたいだね……本当に弟君とこんな風に気持ちを交わせるなんて」
それは俺もだ。
今のは勢い任せだったことは否めない、それでも不思議なほどに今のが間違っているだとか違和感は何もなかった……それどころか、ガッシリと何かが茉莉たちと同じように真冬さんにも結び付いた気がした。
「目の前で熱々のキスを見せられたとなるとこのままでは寝られないなぁ。ねえ甲斐君、まだ夜は長いけど……どうする?」
それは正に悪魔の囁きだった。
真冬さんも俺を真っ直ぐに見つめながら期待を滲ませていたため……俺はボソッと以前から考えていたとある願いを口にした。
「その……せっかく二人が一緒なのでやりたいことが……」
「なんだい?」
「何かな?」
年上のお姉さん二人に思いっきり甘えながらしてほしい……そう口にした願いに那由さんと真冬さんは嬉しそうに頷いてくれた。
その後の時間は本当に幸せなもので……もちろん茉莉たちとの時間も最高に幸せなのだが、年上の包容力にダブルで包まれることのヤバさを思い知った。
「溶かされるぞこれ……」
「もっと甘えて良いんだよ甲斐君」
「弟君、ほらほら……もっともっと甘えて?」
こ~れ、頭がおかしくなりそうなほどにドロドロに溶かされそうです。
(……でもこれでようやく、全部が繋がったのか)
それは達成感のようなものではないが、ここまで来たんだなと思わせるくらいには感慨深いものだった。
二人に甘えながら……そして大丈夫かなと心配しつつも、全てを乗り越える意味も込めて真冬さんと関係を持ち……本当に全てが繋がった。
「甲斐君♪」
「弟君♪」
機能しているはずの冷房の涼しさ、それすらも塗り潰すほどの熱い想いだったのは言うまでもなく、俺は最後の体育祭という思い出の日をこうして終わらせるのだった。
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