泣いちまいそう……泣いたぜぇ!

「茉莉は今、どんな話をしてると思う?」

「さあなぁ……姉ちゃんもあまり変なことを喋らないでほしいけど」


 朝の早い段階で茉莉と才華を呼んだ姉ちゃんだったけど、まさかの個人面談をご希望らしく最初に茉莉を部屋に連れて行った。

 残された俺と才華はどんな話をしているのか気になるものの、ああなった姉ちゃんは止められないけど茉莉のことだから大丈夫だろう。


「甲斐君のこと、どう思ってるとかかな」

「……かもね」

「だとしたら言いたいこといっぱいあるよ。それこそ、半日程度じゃ足りないくらいあるかな私には」

「マジかよ」

「聞く?」


 俺は首を横に振った。

 というかいい加減に着替えたいんだよな……結局二人が来てから着替える間もなく今のようになってるし、なんなら才華にパジャマ姿の俺を見たいとか言われてこのままだし。


「まだ着替えちゃダメ?」

「ダメ、もう少し見てる」


 そう言われて俺はまた膝枕をされてしまう。

 目の前に広がる大きな膨らみを見ていると、目が覚めた時に刺激的な出来事を思い出して何がとは言わないが元気になりそうだ。


「それにしても良い寝言だったね」

「……あ~」

「ふふ、搾り取られたいって口にしたのを聞いて私と茉莉の反応凄かったから」


 でしょうねと俺は苦笑した。

 まさかあの夢から俺を掬い上げてくれた言葉がそれだもんな……やっぱりエロは世界を救うんだなとしみじみ感じる。


「……よっこらせっと」

「あ……」


 才華の膝から離れて上体を起こすと才華が残念そうな声を出した。

 表情ももっと甘えてくれて良いのにと言外に言っているようなものだったので、俺はそんな顔をしないでくれと彼女の隣に移動して肩を抱いた。


「……ふふ」

「こうされるのも好きだろ?」

「うん」


 まあ何より俺の方が好きなんだけどさ。

 壁を通じて微妙に隣の姉ちゃんの部屋から笑い声が聞こえてくる中、俺はちょっと話したくなったことがあった。


「なあ才華、俺さ……今だから才華たちに話せるんだけど、初めて催眠アプリを手に取った時はそれはもう最低だった」

「そうなの? でも世間的には最低だけど、私たちにとっては最高」

「……ほんと、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」


 頬が吊り上がりそうになったのを何とか耐え、俺は言葉を続けた。


「同人作品とか結構好きで、催眠モノの漫画とかもよく読んでた。それで相手を好きなように出来る催眠の力を俺も使うことが出来る……それはもうテンション上がったし、どんなことをしてやろうとかと興奮しまくってた」

「うん」

「最初に目を付けたのが茉莉、次が絵夢でその次が才華……そうやってみんなに対して好き勝手するだけのはずだったのに、それが今やみんなとこうして仲良くなって大切な繋がりを持っちまった」


 本当に人生何が起こるか分からないとはこのことだ。

 当時は決して小さくはない地雷というか、困った何かを持った子にばかり縁があるなと思ったけど……そのおかげで俺は彼女たちと親しくなれたわけだ。


「もしかしたら、甲斐君に泣かされた未来もあるのかな?」

「っ……」


 その瞬間、あの光景がフラッシュバックした。

 実を言うとあの光景は何も今の俺とは関係ない、あいつと俺は違うのだと思っていても不意に思い出すと言葉に詰まってしまう。


「あ、ごめん……」

「いや……大丈夫だ」


 いかんいかん、才華も冗談っぽく言っただけなのに俺の反応があまりにも正直というか迫真すぎたようだ。

 少し慌てた様子の才華だったけど、彼女は何を思ったのか俺を押し倒した。


「ちょっ!?」


 バタッと音を立てて俺は背中から倒れ込んだ。

 別に才華に対して文句などはないものの、どうしたのかと気になるのは当然だがそんな俺の顔に柔らかな二つの膨らみが覆い被さった。


「むぐっ!?」


 あ、柔らかいなぁ……もう何でも良いや、今日はもうずっとこうしていたい。


「突然変なことを言ってごめんね? 確かにそんな未来もあったかもしれない、でも今の私たちとは何も関係がないもんね」


 そうだなと答えたいが口が埋まってて上手く声が出せない。

 まあ才華もきっと少しパニックになった結果、俺が大きな胸を好きだと知っているのでこんなことをしたのだろう……何と言うか、これもまた一つの信頼かなちょっとどころかかなり恥ずかしいことだけど。


「でもちょっと気になるかも」


 才華は俺の顔から胸を離すように上体を上げ……いや、それでもまだ俺の顔には触れていた。


「よいしょっと、これで良いかな」


 顔の位置にあった彼女の巨乳は俺の胸元に移動し、むにゅりと形を歪ませている。

 俺の目の前に才華の顔があるため、相変わらず彼女が俺を押し倒しているような姿勢なのは変わらない。


「何が気になるんだ?」

「うん。仮に……仮にね? 容赦のない甲斐君はどんなことを私たちに命令するのかなってちょっと気になるかな。今となっては笑い話だし、それくらいは大丈夫?」

「まあ……つうか本当に気にしてないから大丈夫だぞ? ……ふむ」


 才華の問いかけはつまり、ブレーキの掛からなかった俺がどんな命令を彼女たちにするかってことか……俺はしばらく考えてからこう答えた。


「取り敢えず……処女はもらったのかも?」

「うん。他には?」

「他には……ゴムとかそういうの一切なしで、思う存分やりまくり?」

「……今となっては全然ご褒美だねそれ」


 頬を赤くした才華は舌をペロッと出してそう言った。

 確かにこういう関係になれたからこそのご褒美なのかもしれないけど、でもこういうことを才華が言うと本当にエッチでしかない。


「才華って本当にエッチだよな」

「私、最初は凄く地味だったでしょ? 案外、私みたいなのがエッチなのも甲斐君的には好きなのかなとか思っちゃったりしてる」

「良く分かってるじゃん。大好きです」

「……えへへ♪」


 エッチで可愛いってもう最強だと思う。

 照れ笑いを浮かべた才華を思いっきり抱きしめ、そのまま二人して背中に腕を回しながらジッとしていた。


「もう催眠は効かないようなものだけど、偶にはそういうプレイとか良いかも」

「マジで?」

「絵夢とか凄く喜びそう」

「あ~……」


 それはまあ……そうだろうな。

 絵夢は正真正銘のドМなので、そういう趣向のプレイも大好きに決まっている。


「ちょっと予行練習してみる?」

「何それ面白そう」


 俺らは朝から一体何をやってるんだろうか。

 まあでも、何だかんだ俺も才華もかなりノリノリだ。


「今、私は催眠に掛かったという体で」

「分かった――ぐふふ、さあてその体に何をしてやろっかなぁ」


 ちなみにこれ、刻コノエ先生の作品に出てきたキャラのセリフだ。


「取り敢えず裸になれよ。その立派なモノをみせてもらおうか」

「うん♪」

「……才華さん、そこは無意識か或いは怯える演技をしてもろて」


 その後もグダグダなやり取りを繰り返すだけだった。

 茉莉が戻ってきて才華と入れ替わるように姉ちゃんの部屋に行き、どんなことを話していたのか茉莉に伝えるとお腹に手を当てるようにして笑われた。


「あははっ! そんなことをしてたんだぁ……うん、今更私たちにとってはもう恐怖とかそういうのじゃないもんね。望んで好き勝手されたいようなものだし」

「……エッチ!」

「うん、私たちはエッチだよ!」


 ぷるんと大きな胸を揺らすように茉莉は胸を張った。

 最近は一つ一つの仕草を見て判断した結果、俺より彼女たちの方がエッチだなと思うようになったけど間違えてはなさそうだ……でも、そんな彼女たちのことも大好きだもんな。


「ねえ甲斐君」

「うん?」

「最近……凄く頑張ってるよね」

「勉強か?」

「うん」


 先ほどまでの桃色な雰囲気を引っ込めた茉莉の表情は真剣だった。

 俺としてもそんな表情で見つめられては姿勢を正してしまうのも当然で、ジッと彼女と見つめ合った。


「このまま行けば俺はみんなと一緒に過ごすことになる。ならみんなの頼りになれるような男になるんだ……あ、もちろん無理をする気はないし、気負うつもりもこれっぽっちもないぞ?」


 そう言うと茉莉はホッと息を吐いて表情を和らげた。


「甲斐君一人が頑張るんじゃなく、私たちみんなも頑張るの。そうして後悔のしない未来を創っていく……それが大切なんだから」

「分かってるさ。だからいっぱい俺を助けてくれ」

「もちろんだよ。甲斐君の初めての女として……ね?」


 ウインクと共に放たれた言葉に俺はもう泣きそうになってしまった。

 本当に涙脆いなと思いつつも、知り合った彼女たちの温かさと優しさは俺にとってこれから先も励みだし支えになるのはもちろんだ。


(素敵な彼女たちに出会えたことに本当に感謝したい……あ、ヤバいそうしみじみ考えると目頭が熱く――)


 その後、俺は茉莉に抱きしめられていた。

 そんな俺たちを戻ってきた才華と姉ちゃんが見て……まあどうなったかは簡単で姉ちゃんには思いっきり揶揄われることはなく、優しくこう言われた。


「私のことも頼りなさいよ? いつでもどこでも、アンタが困ってたらすっ飛んでいくんだから」

「姉ちゃん……っ!」


 ない胸を張ってそう言ってくれた姉ちゃんは最高にかっこよかった。

 でも何故か殴られたんだけど……俺、何もしてないよね?



【あとがき】


ということで、これにて終わりです!

……とはならなくて、松房を除くキャラとはある種一つの決着を迎えたのでこれからようやく終章みたいな流れですね。

本来ならこうなる前に纏めるつもりだったのでそりゃ終わらないよって話です(笑)


以前にもう少し続きますと書いた時に、多くの方に反応をいただきまして……。

決して己惚れるわけではないのですが、それだけ多くの人に楽しく読んでいただける作品に仕上がったのかなと嬉しくなりました。


現在83部分まで書いて、自分の記憶違いでなければ一日も投稿間隔が空いてないので83日連続で投稿できていることになります。

これも全て応援してくださっている皆さんのおかげです。


大きな感謝を抱きながら、これからの励みとして最後まで頑張りたいと思いますので是非とも完結までよろしくお願いします!!

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