凄く感慨深い気がするぜぇ!
あれから二人と合流した後、すぐにフィアナの家にやってきた。
お菓子とジュースを用意してくれたのでそれを味わいながら、俺が思い出すのはさっきのことだった。
あの女性に対して今でも少し思う部分はあるが、特に何かをやらせようとか仕返しをしてやりたいとか思わないのは一つの成長の証ではないかと思っている。
「さっきはありがとう。本当に助かったよ」
「良いのよ。私たちが甲斐君のことを好きすぎて我慢できなかったのはあるけど、それにしたってあの人は言い過ぎていたもの」
「うんうん。だから私たちはそんなことはないよって、甲斐君のことを助けたいと思ったんだぁ♪」
二人の笑顔と共に放たれた言葉に胸が温かくなる。
同時にここに来る前に言われた言葉、今度は私たちが助けることが出来たという言葉が本当に心に残っていた。
何度も言うが俺は彼女たち自身の意志での見返りは求めていない、催眠中に好き勝手させてもらうことを見返りとして考えていたからだ。
愛華とフィアナに関しては実際に性的な見返りを求めることはつい最近まで無かったけど……それでも俺を幸せな気分にさせてくれたからな。
(茉莉と絵夢、才華もそうだったけど本当にこの二人も俺にとって大切な存在になっていった……本当に好きで好きでたまらない)
心の中でそう呟きながら俺は改めて二人を見つめた。
色々と伝えることは多い、だがどうも俺は少しばかり今までのことを考えて感傷的になっていたようだ。
「二人が……好きだ」
「っ!」
「わぁ♪♪」
いやいや、もっと伝えるべきことがあるはず……まあこれも伝えることなんだけど流石に順序を飛ばし過ぎだ!
愛華は目を丸くしながら、フィアナは両手を合わせて嬉しそうに笑ってくれた。
すまないと前置きをした後に、どうして今回このような時間を作りたいと思ったのかを二人に伝えた。
ある程度話し終えた後、俺は二人にこんな質問をした。
「催眠のことについてはもう分かってるよな?」
「えぇ。知ってるわ」
「一番最初のことも思い出したよぉ?」
一番最初のことと言われて俺は心臓が跳ねる気分だった。
初めて二人に手を出そうとして断念した時のこと、あの時を思い出すと体を好きにしたい欲望よりも二人の絶望した表情の方が印象深い。
二人の表情から既にあのことについて非難する意志は感じられないが、それでも俺は二人に頭を下げた。
「あの時は本当にごめん。二人が涙を流したのを見て踏み止まったとはいえ、一瞬とはいえ怖い思いをさせたから……だから本当にごめん」
二人を大切に思うからこそ、出会ったばかりの何も知らない時期とはいえ泣かせてしまったことは俺にとって自分を許せないことだ。
俺はそう言って頭を下げたのだが、やっぱり二人は気にしていなかった。
「頭を上げて甲斐君、あの時のことは仕方ないわ。確かに怖かったし泣いてしまったけれど、あの時から私たちは甲斐君の心の優しさに触れているの」
「そうだねぇ。あのことがあってから誰か分からない人の優しさが気になって、それから甲斐君と本格的に知り合って……ふふ、出会いを帳消しにするほどに私たちは仲良くなったでしょ? それに……凄く大好きになったもん♪」
帳消しに……か、悪いがそれは出来ない。
けれどこれ以上この話題を引っ張っても二人に気を遣わせてしまうだけだろうし、この反省は俺の心の中で戒めとして残しておくことにしよう。
手元に置かれていたジュースを喉に通し、一旦間を置いてから言葉を続けた。
「愛華とフィアナとは……その、結構緩やかな時間だったと思うんだ」
「そうね。エッチなこともかなり後だったもの」
「本当だよぉ。もう甲斐君! もう少し早くても良かったんだよぉ!」
「……それはすまん」
いや、それだけ二人のことを考えてのことだったと理解してもらいたい。
つうか逆にこのことで俺が責められるのも新鮮な気分だが、それだけ二人も俺のことを想ってくれていることは良く分かった。
俺は立ち上がって二人の元に向かうが、二人もまた両腕を広げるようにして俺を迎え入れようとしてくれている……俺はそのまま二人を思いっきり抱きしめた。
「これからも二人と一緒に居たい、傍に居てほしいんだ」
まるでその言葉を待っていたと言わんばかりに俺は二人に抱きしめられ、そして押し倒されてしまった。
背中に響く僅かな痛みはあったけれど、それ以上に胸元に感じる二人の柔らかな感触に意識が向いてしまいすぐに気にならなくなる。
「私も甲斐君と一緒に居たいわ」
「私もだよ。ずっとずっと一緒に居たいもん!」
それから二人に同時に頬にキスをされ、しばらく床に三人で絡み合いながら寝転がるようにして時間だけが流れていく。
もちろんただただそうやってイチャイチャするだけでなく、これからのことをたくさん話し合った。
「でも甲斐君、その言い方だと後二人くらい居るって感じだけど」
「……それは」
「あ、別に愛華も私も問い詰めるつもりはないよぉ? 甲斐君のことだもん、きっと壮絶なことがあったんだよね?」
那由さんはともかく松房さんはマジで壮絶だった。
あちらの二人とこの先どうなるかは分からないが、松房さんに関しては姉ちゃんにも頼むと言われてしまったし近いうちにまた答えを出さなければならない。
「でも二人は良いのか?」
「え?」
「ほらカップルじゃんか」
「あぁ……う~ん」
別に忘れることはないが二人は百合カップルだ。
そこのところはどういう感覚なのかなと改めて気になり聞いてみたわけだが、二人とも難しそうに腕を組んで考え始めた。
そしてお互いに顔を見合わせた後、実はと言って言葉を続けた。
「確かに私とフィアナは付き合っていたわ。でもね? 最近はお互いに甲斐君のことを考えてばかりなのよ。お互いが大切な存在であるという認識は変わらないけれど、それでももう私たちの想いは二人とも甲斐君に向いてるから」
「そうだねぇ。私と愛華が付き合ったのは男性に襲われたことが原因で異性を信じられなくなったからだけど、甲斐君と過ごすうちに完全ではないけど恐怖も軽減されたからぁ。今はもう、お互いに前を向いて歩こうって感じかな」
「つまり?」
ニヤリと二人は笑ってまた俺に飛びつくようにして身を寄せた。
「フィアナは大事な親友よ。でも恋愛感情はあなたに向けているわ」
「愛華は大事な親友だよぉ。けど恋愛感情は甲斐君にだけぇ♪」
それは嬉しいと思えば良いのか残念と思えば良いのか……けどそれもまた彼女たちが決めたことになるのであれば俺は何も言うことはない。
二人から想いを寄せられる男として、彼女たちをこれからも守るだけだ。
「あ、そうだわ甲斐君。別に私たちを守るとか気負わなくて良いのよ?」
「え?」
俺は愛華の言葉に耳を傾けた。
「茉莉さんたちも同じことを考えていると思うけど、私たちはそこまで弱い人間ではないつもりよ。前までの私たちならともかく、大好きな人の想いに包まれている私たちは強いって何故かそう思えるの」
「それは……あぁでももしかして――」
茉莉たちに抱きしめられると感じる安心感はもしかしたらそれが原因?
甘えたくなる気持ちとも違うどこか本能的に安らぎと安心を感じるあの瞬間、それがもしかしたら彼女たちが持つ強さというものに俺自身触れているからなのかなと少しだけ思った。
「だから甲斐君に守られるだけじゃない、私たちだって甲斐君を守るの。恩返しとかそういうのではなくて、ただそうしたいから」
「愛華……そうだね。私も同じだよ甲斐君!」
……どうやら俺は一つだけ分かっていなかったらしい。
彼女たちの心は俺が考えていたよりも遥かに強く、そして向けられる想いも俺が考えていた以上に強いモノであるということだ。
その後、今の言葉が恥ずかしくなったのか愛華はお花を摘みに行くと言って部屋を出て行き残されたのは俺とフィアナだけになった。
「なんか夢みたいだな。こうして愛華とフィアナともこんな関係になれるなんて」
「私もだよ? ずっとずっと望んでたもん」
「そっか。なあフィアナ、またキスしようぜ」
「もちろんだよぉ♪」
もう催眠アプリを使う必要も当然なかった。
普段の様子と何も変わらないフィアナに顔を近づけ、唾液を交換するくらいの激しいキスを交わす。
「ねえ甲斐君。もう遠慮は要らないよ? だってもう両想いだもん」
「……ったく、どれだけ可愛いんだよフィアナは!」
「きゃっ♪」
ちなみに、そうやってイチャイチャしていたら戻ってきた愛華に見つかるのも当然で、仲間外れにしないでとすぐに彼女も参戦してきた。
こうしてまた一つ、二つの縁がガッチリと俺の運命に絡んだのを感じた。
「じゃあ愛華ぁ、勝負しようよ。どっちが甲斐君に喜んでもらえるかをさぁ」
「望むところじゃない。負けないわよフィアナ」
……ちなみにもしも客観的に俺たちを見れる人が居るなら聞いてみたい。
これって殺してやるって思われるくらいに羨ましがられるやつなのだろうか? 個人的にはこれからが幸せそうだけど大変だなというイメージなので、ちょっと聞いてみたいと思ったのである。
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