偶には掛けられてみるぜぇ!
「お待たせ……って早速って感じだね」
部屋に入ってきた茉莉がニッコリと微笑んだ。
茉莉とあの話をした翌日のこと、俺は再び茉莉の家に訪れていたのだがこれは単に彼女の家の遊びに来たわけではなく、茉莉にした話を絵夢と才華にもするためだったわけだ。
「あはは……その……本当に実感ないんだけどな」
部屋に入ってきた茉莉にそう返した俺は両隣で引っ付いて離れない二人に目を向けた。
左に絵夢、右に才華が抱き着いたまま俺から離れてくれない。
当然彼女たちは催眠状態ではなく素の状態であり、俺も彼女たち二人も本心のままに身を寄せ合っているというわけだ。
「夢みたいです。先輩と本当の意味で想いが繋がるなんて……」
「うん。でも私は何が何でも甲斐君の傍に居るつもりだった。もし要らないとか、近寄らないでって言われたら死んでたと思う」
絵夢はともかく才華に至ってはかなり言っていることは物騒だったものの、そんな風に危うい状態の彼女でさえも可愛く俺には見えていた。
(……なんか俺も開き直ったよな。でもこれは軽い気持ちではなく、そうしたいと俺が心から望んだことだ。だからこそ俺は彼女たちと一緒に居ることに恥ずかしさなんて何もない)
茉莉に見つめられながら俺は二人を抱き留める腕に力を込めた。
少し力が強いかなと思ったが、俺を見上げる二人の表情はとても嬉しそうにしてくれていたので、俺としても気分が高揚し二人に順にキスをした。
「ちょっと、私の前でそんな濃厚な絡みをしないでよ」
絵夢と才華にキスをした俺を見て茉莉がそう言ったが、彼女は別に不満そうな表情でも声音でもなくただただ楽しそうだった。
絵夢と才華もそれは分かっているはずなのだが、才華はふんと鼻を鳴らして更に俺に強く抱き着いた。
「茉莉は昨日二人っきりでお話したんでしょ? なら今は私たちのターン、引っ込んでて」
「は~い♪」
引っ込んでてと強く言われたにしては本当に茉莉は楽し気だ。
リビングから取ってきたであろうお菓子と飲み物をテーブルに置き、顎に手を置きながら俺たちを見つめだした。
「甲斐君、キスしよ」
「先輩ぃ♪」
さっきのでは足らないからもっとしてほしい、そんな言葉を視線に乗せるようにしてジッと見つめられた。
実を言うとここに訪れてから何度も素の状態の二人とキスをしている気がするのだが、もっとしたいと言うならそれに答えるのが男というものだ。
「良いなぁ本当に。幸せな光景だよ」
しかし……二人とキスをする中、茉莉にジッと見つめられながらというのも何とも言えない恥ずかしさがあった。
才華が言ったように茉莉とは昨日思いっきりイチャイチャしたものの、やはり後で彼女のことも味わないと俺も満足出来なさそうだ。
「茉莉のことも味見しないと満足出来ないって顔してる」
「ですねぇ。先輩のこと、もう目を見るだけで分かりますよ?」
「……………」
こういうこともあって、俺は金輪際彼女たちに対して隠し事は一切出来ない気もするが……まあ彼女たちにする隠し事って何だろうな。
というか! 味見ってそんな風にストレートに言わないでほしい、流石に茉莉に引かれて……はなさそうだった。
「いいよ? それじゃあ三人で甲斐君を癒そうか」
「ダメ。茉莉は今日はダメだからそこで見ていて。したくなったら一人でしてて」
「茉莉先輩ごめんなさい。私も才華先輩に賛成です」
おっとこの流れは……。
その後、俺は絵夢と才華にたっぷりと奉仕をされてしまい素晴らしい瞬間を味わったわけだが、ジッとこちらを見つめている茉莉はニコニコしながらも唇を尖らせてモゾモゾとしていた。
そんな様子を見せられては俺の方が彼女に手を出さないわけにもいかず、茉莉ともちゃんと幸せな時間を送った。
「……なんか、凄く贅沢っていうか色んな人に恨まれる生き方してるって思うわ」
「そう?」
「気にする必要ないよ」
あくまで彼女たちとそういう関係だというのは公にするつもりはないが、それでもこの世界の決まりに当てはめれば俺たちの関係は歪だろうし、何なら彼女たちとまるでハーレム生活を満喫しているような俺は他の男に嫉妬で殺されてしまっても文句は言えそうにない。
「それにしても……」
チラッと茉莉が目を向けたのは俺の前で屈んでいる絵夢だ。
今の俺たちの体勢はというと、ベッドの腰を下ろしている俺の両隣りに茉莉と才華が座っており、そんな俺の前に絵夢が屈んでいる……まあこの姿勢をここまで説明すれば彼女が何をしているかなんて言うの及ばずだ。
「ご主人様ぁ……好き……もっと絵夢の体を使ってぇ♪」
「スイッチ入ってるね」
完全に絵夢のドМスイッチが入っていた。
催眠中に茉莉と才華もこの姿の絵夢を見たことはあっただろうが、今の絵夢は色々とリミッターが外れているというか幸せの絶頂に居るかのような感覚らしく、今から私の奴隷スイッチが入りますと宣言するくらいだった。
「ここに愛華とフィアナが加わると思うと壮観だよね。二人とも近いうちに話をするんでしょ?」
「あぁ……でも三人とはこうしてずっと一緒だったけどあの二人は――」
「大丈夫。確実にあの二人も甲斐君のこと好きだから」
「そうそう。というか直々に聞いてるし」
……本当に俺、色々と大丈夫なのかなって思ってしまう。
だが催眠アプリを通じて彼女たちと知り合い、そしてその体に触れて好き勝手したことは消せない過去……いいや、ここまで来ると消す必要もない。
別に俺は責任を取るというつもりではなく、ただ彼女たちと一緒に居たいから腹を括ったのだ。
義務感ではなくそうしたいから……俺が彼女たちと離れたくないからだ。
「っ……」
「あはっ♪」
嬉しそうな絵夢の声と共に俺はまた開放してしまった。
それから改めて四人で一つのテーブルを囲むのだが、俺たちの視線の先には催眠アプリを起動した俺のスマホが置かれている。
「本当に凄いよね。人の意志を操るなんて漫画の世界くらいだと思ってた」
「はい。でも催眠アプリは確かに存在してて……実際に私たちも先輩に使われている身ですし」
「……ふむ」
このアプリの不思議な力と、一体どうして存在しているのかという疑問は今までに何度も考えた。
しかしこうして実際に使用した側とされた側の人間が集まってそのことを考えるというのも中々に面白い光景だった。
「ちょっと使ってみるな?」
「うん」
「分かった」
「どうぞ」
頷いた三人に対して俺は催眠アプリを発動した。
するとちゃんと発動したこと自体は分かるのだが、三人の変化はやはりそこまでなかった。
茉莉が言っていたように僅かに頭がボーっとする感覚はあるだけで、しっかりと今の状況は認識出来ているらしい。
「……でもやっぱりこの時は一番甲斐君のことが良く分かる」
「そうか?」
「うん。この人は絶対に酷いことをしない、どこまでも私たちのことを気遣ってくれている、守ってくれるっていうのが分かるから」
才華の言葉に茉莉と絵夢も頷いた。
そこまで言ってくれるのは本当に嬉しいのだが、少し俺は試してみたいことがあった。
「なあ三人とも、今から俺に催眠を掛けてみてくれないか? ちょっとその気持ちってのも俺も少し経験してみたいんだ」
そう、本当にそんな気持ちになるのかを俺は経験してみたかった。
今までに数回ほど相棒が暴走する形で催眠状態になったことはあり、記憶に齟齬が生じながらもフワフワした気持ちということは理解出来ている……だからこそ、少しばかりそれをまた体験してみたかった。
誰がやってみるか、その話し合いの末にスマホを持ったのは才華だった。
「……ちょっとハッキリと自分でやるのはドキドキする」
「何だろう。俺もちょっとそんな気がするよ」
互いに見つめ合いながら才華がスマホの画面に指を当てた。
「それじゃあ……甲斐君、私に思いっきり甘えて? それこそ私がお嫁さんになったような感覚で甘えて?」
「っ……」
その言葉が聞こえてすぐに頭がボーっとしだした。
しかし……以前よりも明らかに意識がハッキリとしていることは分かった。
「……才華」
そしてすぐにもう一つの変化が起きた。
それはとにかく目の前に居る才華に甘えたくなってしまい、俺は彼女の胸元に顔を埋める形で抱き着いた。
しかもそんな甘えたい気持ちだけでなく、才華という少女の想いが実際に触れることが出来るのではと錯覚するほどに包まれるような感覚になったのだ。
「凄いなこれ……これがみんなの感じていたモノ……か」
一切の悪意を感じさせない才華の感情、もちろん才華だけでなく傍に控えている茉莉と絵夢のことも良く伝わってくる。
確かに心が不安定な時にこの裏表の無い優しい感情に包まれてしまっては抗うのも無理な話で、それどころか染まりたいと思ってもおかしくはない。
「甲斐君、どんな感じ?」
「言葉に出来ないくらい幸せな感じかな。なあ才華、もっと甘えさせてくれ」
「っ……どうぞ」
「……むぅ」
「ズルいですぅ」
偶には掛けられる側の催眠プレイも全然……あり?
なんてことを俺は才華の胸元で思うのだが……こうして意識がハッキリしてる時点であまり意味はないのかな……ま、幸せなら全然良いってもんよ。
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