年上の包容力にわんわん泣いたぜぇ

「今日で夏休みも終わりだぁ……」


 ついに明日から新学期の始まり、同時に未来のこともしっかりと見据えて過ごしていくための時間が始まることを意味する。

 そのことに対して少し考えることはあるものの、やっぱり俺にとって今回の夏休みは本当に充実したものだった。


「……っ」


 そんな中、俺はあの焼肉パーティの日からずっと引っ掛かっているものがあった。

 それはあまりにもリアルに近く、かといってそうだと言えない……いや、そうであってはいけない記憶が俺の中にはあった。


『甲斐君♪』

『甲斐くぅん♪』


 愛華とフィアナ、あの二人と濃厚に絡み合い……そして本番までやってしまった夢のような記憶がバッチリと残っていた。

 あの日のことは今でも覚えており、茉莉と絵夢、そして才華を家まで送り届けてから愛華とフィアナも送って行った。

 その途中で公園に立ち寄って二人に催眠を掛け、俺はいつものように好き勝手をしたことも全部覚えている。


『……うあ?』


 そして……どうなったんだ?

 二人との幸せな時間を過ごして家に帰った後、明確に好き勝手した行為の更にその先の記憶が不意に蘇ったのだ。


「いやいや、蘇ったっていうと本当にやっちまったみたいじゃないか!」


 けど……本当にやってしまったんだと錯覚するほどに濃厚な記憶だ。

 ただ繋がっているだけでなくどんな会話をしたかさえも思い出すことが出来るこの感覚は一体何なんだ?

 たとえ夢であっても彼女たちへの気遣いは忘れなかった……そのことに愛華とフィアナもこう言ってくれていた。


『二人とも、どこか痛かったら言ってくれ。ただでさえ二人は男に対してトラウマを抱えているんだし……』

『大丈夫よ。甲斐君が相手だから』

『そうだよぉ。私たちね? ずっと甲斐君とこういうことしたかったのぉ♪』


 それはもはや彼女たちから同意を得たのも一緒だ。

 そのまま俺はふんわりとした気持ちに突き動かされるように二人の体を味わい、そして戒めていた禁忌を破って関係を持った。


「……………」


 思い出そうとすればするほど、あの時の感触が全て脳裏に蘇る。

 二人と繋がった感覚、そこから抱いた彼女たちへの愛おしさ、そして気持ち良さと得体の知れない達成感……その全てが鮮明に思い出せるのだ。

 何度だって言う、俺は絶対に現実ではない……現実であってはいけないんだ。


「……茉莉たちのことだってそうだ」


 愛華とフィアナとのことに連動するように茉莉と絵夢、才華との濃厚な記憶まで同時に蘇ってきた。

 これも夢だと断言できる反面、あまりにもリアルすぎて……俺はこのことを考え過ぎて知恵熱が出てしまいそうになるくらいだった。


「……はぁ」


 別にこの脳裏に浮かぶ記憶のことを嫌だと思っているわけじゃない、俺だって彼女たちの体をあんな風に楽しみたいって気持ちは確かにある。

 近衛さんの時に感じたあの生々しい気持ち良さ、それを茉莉たちの体で味わいたいと思ったことなんていくらでもあるに決まっている……それでもその一線を超えることだけは彼女たちの気持ちを考えて絶対にしないと誓ったんだ。


「……なんか、深く考え過ぎなのかな」


 夢と現実の区別が付けられない危ない奴でしかないじゃないか俺は。

 何か言ってくれよ相棒……そんな気持ちを込めてアプリを起動するが、相変わらず相棒は俺に何も言ってくれない。

 それから自然と俺はまたあの画面へと飛ぶ。


「凄いことになってんな」


 俺の名前に絡みつく五つの線が凄いことになっていた。

 定期的に自然と目が行くので確認はしていたものの、既に俺の名前の原型が見えない程度にはピンクの糸が絡みついていた。

 この五つの線ほどではないものの、太いピンクの線が一つと……あれ?


「……これもそれなりに太いぞ?」


 新たに見ることが出来るようになった七つ目のピンクの線、それもかなり太いというかピンクの線が俺の名前に近づこうとしているようにも見える。


「これ……本当に茉莉たちなのかな」


 黒い糸を弾くピンクの糸たち、それから俺はフィアナの話も聞いてこの糸は茉莉たちを示しているのではないかと考えたが……やっぱり詳しいことは不明なままだ。


「さてと、適当に出掛けますか~」


 夏休み最終日とはいえ特にやることもないし、明日慌てないようにと気は早いが既に準備も終えている。

 姉ちゃんを含め父さんと母さんも出掛けていて俺一人しか家に居ないのも退屈の原因だったりするわけで、その退屈を解消するために俺は意気揚々と外に出た――そして近衛さんのおっぱいに埋もれていた。


「……あ~♪」

「本当に君は可愛いね。ほら、もっと甘えるんだよ?」

「あ~い」


 あかん、赤ちゃんにされてしまいそうなほどに甘やかされてしまいそうだ。

 何かないかと外に出て少し歩いた時、偶然にもまたゴミ捨てをしていた近衛さんに出会ったのである。

 俺自身スマホは持っていたが別に催眠を掛けるつもりはなかったものの、せっかく会えたから家においでと誘われてしまい、結局傍で俺をニコニコと見つめる近衛さんに我慢できずに催眠に掛けたわけだ。


「近衛さんって二十代半ばですよね?」

「そうだよ」

「にしては母性が凄くないですか? 俺、このまま一生こうしていたいですもん」


 これは果たして近衛さんが持つ優しさに感じるのか、或いはこの大きなバストに感じるのか……まあでもこうしていると茉莉たちにも似たようなものを感じるが、それでも年上のお姉さんというのもあるのかもなぁ。


「私としては一生こうしてもらっても良いよ? 真崎君みたいに優しくて、心が綺麗な子と添い遂げられるのは女として願ったり叶ったりだ」

「……そこまでですか? ちょっと評価が高すぎる気が」

「そうかい? 妥当だと思うけれど……ふふ、まああまり気にしないでくれ。君を独占するというのは無理そうだし」


 それから頭も撫でられて完全に甘やかされ状態に入った。

 ソファに座っている近衛さんに正面から抱き着き、彼女の胸に頬を預ける形なんだがこれ本当に凄いな……何が凄いってとにかく心が満たされるのだ。


「……近衛さん」

「ねえ真崎君、今更なんだがもう名前で呼び合わないかい? 私たち、既に一度体を交えた仲じゃないか」

「……確かに」


 でもそれは今みたいな催眠状態なんだけど……まあでも、特に断る理由はなかったので俺は頷いた。


「那由……さん?」

「……良いね年下の子から名前で呼ばれるのは。甲斐君……甲斐君♪」

「むぐっ!?」


 突然テンションを上げた近衛……那由さんに更に強く抱きしめられた。

 それから頼んでもないのに那由さんから奉仕をさせてもらい、またあの時のように本番に移行しそうな流れだったが茉莉たちとのことがフラッシュバックしてしまいちょっと遠慮をさせてもらった……本当に残念だったけど。


「甲斐君は何か悩んでいるみたいだね?」

「え? ……そうですね。悩みがないと言えば嘘になります」

「話してごらんよ。何かアドバイスできるかもしれないからね」

「……そうですね」


 那由さんが催眠状態ということで簡単に話をした。

 俺が催眠アプリを使って知り合ったのは那由さんだけでなく、他にも数人の女の子が居ること、そしてその子たちと触れ合うことで俺の中でとても大きく大切な存在になったことを。


「なるほどねぇ。催眠アプリの力が導いたにしてはロマンチックだ……やっぱり甲斐君は優しいじゃないか」

「……それでも結局最初はみんなの体が目当てだったんです」

「可愛くて綺麗で、おっぱいが大きい女の子が甲斐君にとっては凄く魅力的だったわけだ」


 面と向かって言われると恥ずかしいけどその通りだ。

 というか彼女たちを前にして魅力的に感じない人間が居るわけないだろ、居たとしたら前にも言った気がするけどロリコンか貧乳しか愛せない人だきっと。


「もちろん那由さんだってそうです……本当に魅力的で、実はいつ那由さんを催眠に掛けて好き勝手しようかって考えていたんですよ。それであのお爺さんを助けるっていう偶然が重なって……その……すみません、正直すぎました」

「本当に正直だね、でもそうなると祖父がキューピットになってくれたわけだ」

「あはは、そういう見方もあるんですかね」


 那由さんの言葉に苦笑していたものの、那由さんが少し真剣な空気を醸し出したことで俺も自然と姿勢を正した……もちろん、顔を那由さんの胸に埋めたままだけど。


「甲斐君のしたいようにすればいいんじゃないかい? したいように、これは別にマイナスの意味じゃない。甲斐君のことだから何をするにしてもきっと彼女たちを含め私を泣かせるようなことはしないだろ? 街に出て最初に目にした男に抱かれろなんて命令もしないよね?」

「あ、当たり前じゃないですか!!」


 そんなことするわけないでしょと俺は声を荒げた。

 分かってるよと微笑んだ那由さんは俺の唇にキスを落とし、目を丸くする俺を真っ直ぐに見つめながら言葉を続ける。


「人が人に惹かれるのは意味がある。今の私のように君に絶対的な信頼と愛情を抱いているのも君だからこそだ。ふふ、こう口にすることに恥ずかしさを感じることがないほどに、私は間違ったことは言ってないと自信を持てるくらいだよ?」

「っ……」

「けどなるほど催眠アプリか……本当に不思議な感覚だね。君の心の内が手に取るように理解出来るんだ。それは心を読めるって意味じゃなく、君の内心に秘められた優しさをダイレクトに感じられる。だから私はこうして君の人となりを理解して傍に居たいと願うんだ」

「……那由さん」


 この人……女神か何かなのか?

 もっと好きなように甘えなさいと、そう言われたことで俺はちゅうちゅうと赤ちゃんのように吸っていた。

 すると……頭を撫でながら那由さんは爆弾を放り込んだ。


「甲斐君を見ていると色々とネタが浮かんでくるよ。刻コノエとして更に飛躍出来たのは君のおかげだ。いやぁ本当に感謝……あんっ♪」

「っ!?」


 ちょっと驚いて吸うのではなく歯を立ててしまったことに俺は焦った。

 いやいやそれよりも那由さんは今何て言った? 刻コノエって……確かにそう言われた気がしたんだけど?


「……那由さんってもしかして――」


 夏休み最後の日、俺は凄まじい事実を知ることになった。



【あとがき】


一応の完結と言いますか、その時は近いので風呂敷を畳む勢いで進みます。


最後までお付き合いください。

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