それは夢、それとも現実?

 彼女たちと過ごす焼肉パーティも既に終盤に差し掛かったわけだが、冷静になって考えたら五人同時にエッチなことをするのは結構大変なことに今更ながら気づいた。

 それは俺の体力の問題とかではなく、単純に場所に関することだ。


「……やっぱ人間冷静なのが一番だぜ」


 男である以上そういうことに一生懸命なのもおかしな話ではない、それでもやはり冷静さを欠いてはダメなんだなと改めて思った。


「……それにしてもフィアナさ」

「う〜ん?」


 隣に座っているフィアナが首を傾げた。

 どうしたのかと視線を向けてくるフィアナの顔から視線を下に移動する途中、大きな胸をチラッと見た後に彼女が手にしている皿に俺は目を向けた。


「本当にめっちゃ食べるじゃん」

「だって美味しいんだもん♪」


 愛華が彼女を大食いだと言っていたのだが、フィアナは話を振られたりする以外はパクパクと美味しそうに肉を食べていた。

 もちろん野菜やおにぎりもバランスよく食べていたものの、言ってしまえば俺の三倍くらいはたぶん食べていると思う。


「これくらい食べる姿を見てると逆に気持ち良い気もするけどね」

「茉莉ちゃん話が分かるねぇ!」

「でもあなたは食べ過ぎよ。そんなだから……太らないわねどうしてよ」

「むふふ~。どれだけ食べてもおっぱいに栄養行っちゃうんだよねぇ」


 今の発言はこの面子の中だけに留めてほしい。

 もしかしたら今のフィアナの言葉に殺意を覚えてる人間が世の中に居るかもしれないからだ……いや、絶対居るよな確実に。

 愛華はなんで太らないんだと不服そうにしているが、別に彼女が太っているというわけではない……というか今目の前に居る彼女たちは見た目の良さはもちろん、体も本当に極上の一言だ。


「甲斐君、まだお肉とか食べる?」

「そう……だなぁ」

「じゃあはい」


 茉莉が良い感じに焼けていた肉を箸で掴み、タレに付けて俺の口元に差し出した。

 俺は口を開けてそれをパクリと食べたわけだが、今の流れを何も思うことなくそれを行った自分自身に驚いた。


「あ、私も先輩にあ~んします!」

「私も私も」


 それから絵夢と才華にも同じことをされ、まるで王様になったような気分だがやはり自分を戒めるということは大切だ。

 すぐにキリッとした表情を浮かべ、俺は浮かれていない調子に乗っていないのだと気持ちを強く持ったとしてもダメだった。


「は~い。これも食べてぇ♪」

「私だってしたいわ。はい甲斐君」


 もうね、五人の女の子からこんなことされたらそりゃ頬が緩くなってしまう。

 この場に姉ちゃんが居たら絶対にキモイと言われてしまう自信があるくらいにはユルユルになるに決まっている。

 そんな俺の表情は彼女たちには幸いにも気持ち悪いとは思われなかったようでかなり微笑ましく見つめられてしまった。

 そんな中、ふと茉莉がこう口を開いた。


「ねえ甲斐君、またこういうことしたいね?」

「え? あぁそうだなぁ」


 そうだな、こんなに楽しくなれるならまたこうやって集まりたいものだ。

 彼女たち一人ずつと時間を作って過ごすのも全然好きだけど、こんな風に賑やかに大勢で過ごすのも本当に大好きだ。


(……あれ?)


 その時、一瞬だけど近衛さんと松房さんの姿が加わったような錯覚を見た。

 近衛さんとはちょっとアレだったし、松房さんとも縁が出来たけどあの二人はそういうのじゃない気もする……けど、やっぱりあの二人もかなり好みだからこんな風に思ってしまったのだろうか。


「またしようね?」

「そうですよ先輩、またいつだって集まれますから」

「うん。なんならまた近いうちにみんなでカラオケにでも行く?」

「良いわね。せっかく知り合ったこの縁、これからも大事にしていきたいわ」

「そうだねぇ。うふふ~、もちろん甲斐君が居ないとダメなんだよぉ?」


 ……頬が緩くなる、それだけじゃなくて何故か目頭が熱くなった。

 これが彼女たちに求められていると思うのは些か自意識過剰かもしれないけれど、そう思えてしまうほどに俺は彼女たちの言葉からそれを感じ取ったのだ。

 恥ずかしさで顔を伏せてしまおうかと思ったら、目の前が滲んでしまいつい目元に手を当ててしまい、それをしてしまうと涙が出そうになったことにも気付かれる。


「っ……俺――」


 なんとか誤魔化そうとしたその時、物凄く柔らかな感触に顔を包まれた。

 そのまま頭を撫でられるようにされるとひどく安心出来て……これは茉莉の感触だった。

 茉莉の持つ柔らかさと香り、温もりと呼ぶには少し暑苦しいけど凄く安心出来て心が落ち着いてくる……周りの外にもみんなが居るだろ、そんなことすら気にしてどうするんだと思ってしまうくらいに安らぎを感じた。


「みんな、甲斐君とこんな風に過ごしたいんだよ。これからもずっと……甲斐君もずっと私たちと一緒に居たいかな?」

「そんなの当然だ……ろ?」


 一瞬、本当に一瞬だが俺は言葉を躊躇った。

 何故かは分からないけど……この一言で何かが縛られる、取り返しの付かないレベルで結ばれ固定されるという良く分からない感覚になったのだ。

 それでも俺は迷うことはなかった……彼女たちとこれからもずっと、こんな風に過ごしていけることは俺の望みだ。

 たとえそれが催眠アプリありきのモノだとしても、もう彼女たちの温もりを手放すことなんて絶対に出来ない。


「俺も……ずっと一緒に居たい」


 カチッと、何かが嵌ったような音が聴こえた気がした。

 もっと色々と何かを考えないといけない、そもそもおかしくないかと何も感じることはなくその楽しい時間も終わりを迎えた。


「庭から本当に楽しそうな声が絶えなかったな」

「そうね。また機会があったら是非いらしてちょうだい」


 父さんと母さんは参加したわけではないのだが、それでも賑やかな声から俺たちが心から楽しんでいたことは感じ取っていたようだ。

 茉莉たちもその言葉に強く頷いたことで、またいつかこんな日が訪れることに大きな期待が募る。

 その後、五人が帰ることになるのだが俺はみんなを送っていくことに。

 ちょうど茉莉の家から絵夢の家、そして才華の家に行けば少し遠くにある愛華とフィアナの家に行くことになるのでちょうどいい一本道だ。


「今日は本当に楽しかったぁ!」


 茉莉と絵夢、才華を家に送り届けてから俺は愛華とフィアナの二人と一緒だった。

 目の前で大きく万歳をしながら楽しそうだと口にしたフィアナに、俺は愛華と揃って小さい子を見つめるような微笑ましい気持ちで見つめていた。

 まあ俺としてもきっと家に帰ったら楽しかったなと振り返るんだろうけど、本当に楽しく幸せで最高の時間だった。


「甲斐君だけじゃなく、茉莉さんもそうだし絵夢さんに才華さんとも仲良くなれて本当に良い日だったわ」

「そっか。そう言ってくれると嬉しいよ」


 しかし二人とも、何か忘れてはいないか……って分かるわけないか。

 俺はそりゃそうだろと苦笑しつつ、懐に忍ばせていたスマホを手に催眠アプリを起動させた。

 それから二人を近くの公園に誘導し、俺はずっと溜めていたものを解放するように二人に相手をしてもらっていた。


「……あ~♪」

「あはは、甲斐君ったら凄く良い表情をしてるぅ♪」


 それは当然だろうと俺は頷いた。

 とはいっても俺の顔はフィアナの胸元に埋まっているので表情は見えないはずなんだけど……なんで分かったのかは敢えて聞かないでおこう。

 愛華はしゃがみながら奉仕をしてくれているので、俺は二人いるからこそ出来る最高のシチュエーションを楽しんでいた。


「愛華、早く変わってよぉ……」

「嫌よ。今は私が相手してるんだから。それともフィアナ、そうしているのは嫌だって言うの?」

「そういうわけじゃないよぉ。でも……私も欲しいもん」


 喧嘩をするなよと喋りたかったが、もごもごと口元が揺れるだけで言葉を届けることは出来ない。

 それでもフィアナは察してくれたようで、良し良しと頭を撫でるようにしながら俺の耳元で囁いた。


「喧嘩じゃないから安心してねぇ? でも……こうやって愛華が甲斐君の相手をしてるのを見るの凄く好きかもぉ」


 それは結構特殊だなとも思ったけど、百合な恋人関係である二人がこのようにして仲が良いのは俺としてもやっぱり嬉しいものである。

 先ほどの焼肉の一件もあってか、俺自身何故か妙に二人に対して気持ちが膨れ上がってきている……これは何だと思いつつも、やはり彼女たちの魅力的な体の前には些細な感情だ。


「あ、ねえねえ見て見て愛華ぁ。甲斐君が赤ちゃんみたいだよ?」

「……可愛いわね」

「こんなん幼児退行してまうぞ?」


 思わず言ってしまうくらいだった。

 基本的にこうやって甘えることも少なくはないので、茉莉たちも俺のこんな姿はいくらでも見ている。


「っ……!」


 一際強い刺激を受けて俺はスッキリした。

 頭が冴える賢者タイムというバフを宿した俺だったが……またいつかのように頭がボーっとする感覚になった。

 そして……。


「……え?」


 俺は愛華を抱き寄せたまま、彼女と繋がっている瞬間に意識が戻った。


「甲斐君……しゅごいぃ……♪」


 背後から寄り掛かるフィアナの息が少し荒いのだが……あれっと思った時にはまた意識がボーっとしだしたが、彼女たちを求める意志だけは明確に残り続け、俺はただただ彼女たちの体に触れ続けていた。

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