珍しい組み合わせはデザートのように甘々だぜぇ!

「……おい甲斐」

「……なんだい?」

「夏休みにこんな素敵な光景を見せてくれてありがとう」


 俺は晃にそうお礼を言われていた。

 俺たちの視線の向こうで茉莉と愛華が楽しそうにお喋りをしながらお肉を味わっており、そこに遠慮がちではあるが省吾が話しかけている。

 茉莉とはクラスメイトなので話をすることにおかしな部分はないが、俺としては愛華が警戒心を見せているとはいえ省吾や晃と会話を出来ている姿は感慨深かった。


(……俺は愛華の親かよってな)


 別に茉莉や愛華が俺以外の男子と会話をしている姿に嫉妬なんかしないし、彼女たちと親しいだけであって明確に特別な間柄でもないのでそもそも文句を言える立場ではない。

 茉莉はともかくとして……愛華が会話をしている姿はやはり、日々のやり取りの成果が出ているんだなと俺は単純に嬉しかったんだ。


「相坂と仲が良いのは知ってたけど流石にあの佐々木さんってのは予想外だぞ!」

「だああうるさいっての! 色々あったんだよ色々とな!!」


 そう、友人二人には言うことの出来ない色々があったわけだ俺たちの間に。


「にしても今日はサンキューな。飛び入りとは二人の参加を許してくれて」

「くっくっく、美女が来ると聞いて断る奴は男じゃねえさ」

「……さよか」


 無駄にかっこよくポーズを決めたその姿が絶妙にかっこよくなかったので、俺はぺしっと晃の背を叩いて笑った。

 そもそも今回二人がここにやってきた経緯についてだが、別にどうしてこんなことになったんだろうと考えはしたもののしっかりと過程はあったわけだ。


『もしかして……二人も参加したいとか?』

『そうだねぇ。私にとっては知らない相手じゃないし、少しでも長く甲斐君と一緒に居たいと思ったから』

『私は……少し不安はあるわ。でも私も茉莉さんと同じで甲斐君と一緒に居たかったの』


 ここまで言われてしまって何もしないわけにはいくまいよ。

 すぐに俺は晃に連絡を取って美人二人が参加したいらしいけどどうする、そんな連絡を彼にして速攻で許可が下りたというわけだ。


「甲斐君たちもお肉食べようよ~」

「焦げちゃうわよ?」

「わっかりましたぁ!!」

「……デレデレやんけ」


 まあ誰でもあの二人を前にしたらそうなるか。

 他の男なら俺も当然のように警戒はするものの、晃も省吾も俺にとってもっとも頼りになる最高の友人たちである。

 だからこそ愛華に無理をするなとも言わなかったわけだ。


「……なんつうか、友人たちと仲良くしている姿を見るのも悪くないな」


 そんなことを呟き、俺はみんなの元に向かうのだった。

 こうしてそれなりの人数で焼肉を囲むというのは久しぶりだったこともあり、それなりの勢いでパクパクを食べてしまった。

 そんな風にして腹いっぱいに食べていた俺だが……いつの間にか茉莉と愛華に両隣をガッチリと固められていた。


「美味しいね甲斐君」

「……おう」


 左から茉莉に微笑みかけられ、ちょっと気恥しくなって逆に顔を向けるとこれまた愛華と視線が絡み合う。

 正面で俺を羨ましそうに見つめる晃と省吾というなんとも言えないこの空間、俺は肩身が狭い感覚になりつつもしっかりと両サイドから香る甘い匂いは思いっきり吸い込むことを忘れない。


「それにしても……女子校の人ってやっぱり佐々木さんみたいにお淑やかなのか?」


 それは何気ない晃の質問だった。

 確かにこうして一緒に焼肉を食べている間に俺も感じたことだけど、愛華は本当に食べる姿勢もそうだし食事中における細かい動作が本当に綺麗なのだ。

 晃がそう言ったのはその姿勢云々もそうだろうし単純に愛華の容姿も加味してのことだろう。


「本当だよね。でも愛華が特別って感じじゃない?」

「そうなのかしら……でも以前に甲斐君に説明したけれど――」


 以前に俺に話した内容である意外と女子校に通う女の子は下品な話題が好きだということと、姿勢も中々に悪い子が多いという話を愛華は二人に聞かせた。

 二人も俺と同じように女子校にはある一定の幻想は持っていたらしく、ちょっとだけ夢を壊されたようで何とも言えない顔をしていた。


「でも年配の先生なんかは本当に上品よ?」

「ご年配の方は……その」

「……遠慮しておこうかなぁ」


 クスクスと口元に手を当てて愛華は笑っているのでどうも確信犯のようだ。

 その後も俺たちの間で会話が途切れることはなく、それはみんながお腹をいっぱいにするまで続くことになった。


「今日はマジでありがとな甲斐!」

「……最高の日だったぜ」


 晃にもそうだし、途中まで一緒に帰った省吾にもまるで拝み倒される勢いでお礼を言われてしまった。

 まずは愛華の家に向かおうとしたところ、愛華が近くの公園でゆっくりしようと提案したので俺と茉莉は頷いた。


「あ~本当に今日は楽しかったねぇ」

「本当にね。やっぱり男性のみなさんがあの人たちみたいに酷い人ばかりではないということなのね」

「あいつらに関しては安心して大丈夫だと思う。街中で偶然出会ったりしたら声の一つでもかけてやってくれよ」


 そうしたらきっと喜ぶだろうしな。

 しかし……こうして夜の公園に美少女二人と一緒となると、やることは一つしかないってもんだぜ。

 俺はスマホを取り出して二人に催眠をかけたわけだが、少しばかり二人のことを眺めることにした。


「なんだろうな。この組み合わせにちょっと満足してるわ俺」


 今までこの二人が絡む機会はなかったというのもあるし、そもそも愛華の隣に居るのはいつだってフィアナだったわけだ。

 それがいつもと違う光景になっているだけで本当に満足してしまう。


「やっぱり美少女ってのは悪戯をしたくなる気持ちもあるけど、眺めるだけでも至高の時間なんよなぁ」


 誤解がないように言うなら催眠アプリがなかったら流石に女性に対して悪戯をしようとは思えないけど……まあこの力があるからこそだ。

 取り敢えず二人の間に挟まり、俺は二人の体を思いっきり抱き寄せた。


「甲斐君はさぁ、私たちが誰か二人居たらこうするの好きだよね?」

「大好きだぞ? 最初は王様気分みたいに思ってたけど……両手にこの柔らかさと温もりを感じていると凄く安心するんだわ」

「胸を揉みながら言われても……ふふ、でもそうやって安心している甲斐君の表情はとても可愛いわ」


 可愛いと言われるのは好きじゃない、けど彼女たちから言われるのは悪くない。

 そのままジッと動かずに俺は彼女たちを抱きしめていたのだが、両方から頬にキスをされた。

 そのまま啄むようにキスをされてながら俺はこの世の天国を味わう。


「……?」


 そんな中、公園の向こう側から誰かが歩いてきた。

 おそらく大人だと思われるその人はやけにブツブツと喋りながらこちら側に歩いてくるではないか。


「……ざけんなよ……なんで俺がフラれるんだよ。確かにちょっと浮気したのは悪かった……でもよ……クソがああああ!!」


 いやそれはアンタが悪いだろうよ……。

 しかしああいった手合いにこの場を見られると難癖を付けられそうで俺は二人にキスをやめてもらおうとしたのだが……茉莉が来ていた上着を一枚脱いでそれを俺たちの頭に被せるようにした。


「こうすれば大丈夫。キスをされているようなところは見られないよ」


 いやそれはどうなんだ?

 そんな俺の疑問なんて聞かないと言わんばかりに、被せられた上着の下で二人からのキスによる嵐が俺を襲い続ける。

 傍から見ると中々にシュールな光景に見えるはず、だが男一人を挟んで女二人が身を寄せている光景になるのか……これ、変にヘイトを集めないよな?


「……あ」


 俺たちを見た男の声が僅かに届き、その後大きく足音を立てて彼が去って行くのだけは理解できた。


(……もしかして傷心していたところに追撃を加えちまったか?)


 まあでも浮気したようだし……気にすることでもないか。

 そもそも催眠アプリを使っている俺が何言ってんだって話だしな。


「居なくなったわね?」

「だねぇ」


 上着を被っている必要もなくなり頭の上から退けてもらったが、それを合図にするように愛華が唇にキスをしてきた。

 そのままキスをしていると茉莉が小さく呟く。


「不思議だなぁ。やっぱり嫉妬しない……あはは、愛華も私たちと同じなんだ。甲斐君のことが大切で仕方ないんだよね?」

(茉莉?)


 茉莉の言葉が気になったものの、更に激しくなった愛華のキスに俺はそちらに意識を持っていかれる。


「良いよ。それならみんなで甲斐君のことを幸せにしようね……ねえ甲斐君、私たちから逃げられないよこれ。どんなに時間が経っても、どんな場所に居ても君の傍には私たちが居るんだから」


 そう耳元で囁かれ妙な寒気が背中に走る。

 愛華のキスで頭が上手く働かないものの、俺としては今の言葉に対して恐怖までは抱かなかった。

 結局のところ、それがどんな形であれ現実となるならば俺にとって嬉しいことだ。

 だってずっと彼女たちが傍に居るってことだろ? これを喜ばないのは俺ではないと自信を持てるほどだ。


「あ♪」


 もちろんだと、そう答える意味も込めて少しだけ強く茉莉の体に触れている指に力を込めてしまったが、茉莉は嬉しそうに声を漏らして更に俺に体を押し付ける。

 こんなに幸せで良いのかよ、こんなに高校生の身でエロエロな日々を送って良いのかと不安になるが……良いんだよな? 俺はもう止まらねえぞ!!


 ……ちなみに、あの時から気になり続けている俺の名前に近づく黒い点については今もなお残っている。

 アレについては俺はもしかしたらあの女性のように近づいてくる敵意のある存在ではないかと推測したのだがどうも違うらしかった。




【あとがき】


一人の男を挟んで二人の女が上着を被ってイチャイチャしている光景はシュールですけど……その上着の下でイチャついているのは傷心中の心に刺さりそうです(笑)

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