ついに来てしまったようだぜぇ!

「それじゃあ行ってくるわ」

「いってらっしゃい」


 今日はついに待ちに待った夏祭りの日だ。

 数日前から街の方も祭りの為に活気に満ちており、本当に今日という日が来るのを俺は待ち望んでいた。

 まあ祭り自体待ち望んでいたというのは建前で、約束をした三人の浴衣姿が目当てなのが大きいけど。


「待ち合わせは駅前だったか」


 駅で落ち合い後は適当に祭りを楽しむことにしている。

 俺はウキウキとした様子を隠せずに歩きながら、色々と準備をしていたものを確認した。


「充電はバッチリ、余裕だぜ」


 充電は全然バッチリなので途中で電池切れを起こす心配もない。


「……でもやっぱりどうしようか迷うな」


 単純に三人と過ごす夏祭りを楽しみたい気持ちは当然あるので、そういうことをしなくても心は満足するんじゃないかって感じだ。

 待ち合わせ場所に近づくにつれて人並みも増えてきたが、意外と県外の人たちも訪れているのかもしれないな。


「人が多いねぇ……それに」


 俺の好みともいえる体型の女性も多く目移りしてしまいそうになるが、やっぱり茉莉たちが一番だなって偉そうにも考えていた。

 そう言えば今日は姉ちゃんも友人たちと一緒に祭りを楽しむと言っていたのでもしかしたら出会うこともあるかもしれない。


「茉莉たちとってのは伝えてないんだよな……姉ちゃんに揶揄われそう」


 姉ちゃんは俺も出掛けることは知っているものの、たぶんだけど省吾たちと遊ぶと思ってるからなぁ……まあその時はその時だ。


「……あ、居た」


 駅前に着いた時、すぐに三人を見つけることが出来た。

 浮いているというと悪い意味に取られることもあるのだが、あの三人の場合はあまりにも目立ちすぎている場合の浮いているだ。


(……なんか、イメージ通りの色だなぁ)


 三人とも色違いで模様も違う。

 茉莉がオレンジ、絵夢が空色、才華が黒という配色だ。


「……これ、あの三人に近づく俺もそれなりに見られそうだな」


 まあでもだからなんだって話だ。

 周りからどんな目で見られようとも彼女たちと過ごす時間という十分なお釣りが来るのだから。

 三人に近づいていくと彼女たちは俺に気付いた。


「甲斐君!」


 茉莉に手を振られ、俺も手を振り返してすぐに傍に近寄った。

 こうして近くで見ると本当に何を身に付けても似合うなって感じに浴衣姿に俺は正直昂っていた。


(ええい、こういう時くらい変な感情を抱くんじゃない!)


 そんな無理なことを考えながらもこうして俺は彼女たちに合流するのだった。


「……う~ん」


 とはいえ、合流したのは良いのだが俺は色々と落ち着かなかった。

 プールの時もそうだったけど多くの人の目がある場所で三人と一緒というのはやっぱり色々と緊張してしまう。


「緊張してる?」

「ちょっとだけ」


 そう答えると才華は小さく頷き、ゆっくりと俺の手を取った。

 そしてそのまま彼女は自身の胸の位置に持っていき、その豊かな膨らみに俺の手を触れさせた。


「あ~!」

「才華先輩!?」


 驚く二人よりも俺の方が驚いているのは分かってほしい。

 以前にこうして才華にされたことはあったのだが、やっぱり素の状態の彼女にこんなことをされると動きが止まってしまうって!


「私もドキドキしてるでしょ? これでおあいこ」

「……確かに」


 柔らかさと共に才華の心臓の音が手の平を通して伝わってくる。


「落ち着いた?」

「全然落ち着けないですはい」


 もっとドキドキするに決まってるだろ……その後、すぐに才華の胸から手を離したが体の熱さが尋常ではない。

 常々思っていたけど才華って素の状態もなんというか、かなりエッチというかそんな気配をこれでもかと感じさせるので俺もすぐに手を出したくなる。


「今日はみんなで楽しむぞ~!!」


 だからこそ、俺は彼女に対して欲情したことを隠すようにそう言って歩き出すのだった。

 一旦落ち着くと自分でも不思議なほどに冷静になり、ほとんど三人の動きに付いていくだけだったが心の底から今日の祭りを楽しめていた。


「この焼きそば美味しいですよ先輩、どうですか?」

「じゃあちょっと欲しいかも」

「それじゃあはい。あ~ん♪」


 なんて定番なことももちろん経験した。

 今更男子高校生の憧れであるその行為に怖気づく俺ではなかったので、ありがたく絵夢から差し出された焼きそばを食べさせてもらった。


「あ、タレが付いちゃいましたね」


 絵夢がハンカチで頬の汚れを拭き取ってくれた。

 それをしばらくジッと見つめていた絵夢を可愛いなと思いつつ、ついついボソッと呟いてしまった。


「絵夢は良い嫁さんになるよなぁきっと」


 もちろんそれは単なる俺の心からの呟きだ。

 絵夢だけでなく茉莉にも才華にも、言ってしまえば愛華やフィリアにも言えることだし……今となっては近衛さんにも言えることだけど。


(ったく、ちょっと調子に乗るとすぐにこれだ)


 催眠アプリを使って彼女たちに色々しながらも、それが起点となったとは考えづらいが仲良くなったことで変に気が大きくなっている。

 人間調子に乗った時が一番ダメなことは良く分かっている、だからこそ戒めというのはやはり必要だ。


「たこ焼きも買ってきたよ……って絵夢ちゃんどうしたの?」

「あ、はい。先輩がお嫁さんにしてあげるって言ってくれたので」

「え!?」


 そんなことは言ってないぞと絵夢に目を向けたのだが、絵夢はペロッと舌を出して悪びれた様子はない。

 まあそんなお茶目な姿を見せたからこそ、茉莉も才華も面白可笑しく受け取ったようで俺の焦り様を見て笑っていた。


「あ、甲斐じゃないの」

「うん?」


 そんな風に賑やかな空気の中に居た俺だが背後から声を掛けられた。

 振り向くとそこに居たのは姉ちゃんだったのだが、友人たちに囲まれている姉ちゃんは俺と茉莉たちを交互に見ながら目を丸くした。


「アンタ……出掛ける相手ってこの子たちだったの?」

「……うん」


 姉ちゃんと一緒に居た友人の人たちも物珍しそうに俺を見ているのだが、その中に姉ちゃんが言っていた松房さんも居た。


(……なんだ?)


 髪の毛にメッシュが入っているので分かりやすいし、一番豊満なスタイルということでバッチリと俺の記憶に刻まれている彼女なのだが……何故か分からないが、俺は一瞬妙な既視感を感じてしまった。


「三人とも本当に可愛いし美人ねぇ。ふふ、この子のこと頼むわよ~」

「あ、はい!」

「任せてください!」

「ん!」


 俺は小さな子供かよ……。

 結局既視感の正体は分からず、それがどんなものかを確かめる術もなかったがそこで姉ちゃんたちと別れた。

 それから時間は過ぎていき花火が上がるアナウンスがされた。


「やっぱり祭りの締めは花火だよね」

「はい……先輩、今日スマホは持ってきてないんですか?」

「え? いやあるけど……基本的にいつも持ち歩いているぜ?」

「そ、そうですか。えっと……なら安心です」


 どういうこと?

 ぺちっと無表情の才華が絵夢の肩を叩いていたけど……なんつうか本当に君たち仲良くなったよね。

 とはいえちょっと静かな場所に行きたくなったなぁ……なんてことを思っていると茉莉がポンと手を叩いた。


「ねえねえ、実は静かな場所があるんだけどみんなで行かない? そこからならこの喧騒から離れて花火も見れるし」

「そうなの?」


 行こう行こうと茉莉が先導する形で俺たちをある場所に連れて行った。

 その場所は見晴らしの良い高台なのだが、基本的に今日みたいな祭りの時にはここに訪れる人はそこまで居ないらしい……というか俺たち以外に誰も居なかった。


「今日みたいな祭りの時は他にも出し物とかあるでしょ? だからここにはあまり人が来ないんだよ見晴らしの割にはね」

「ほぉ……」


 なるほど、こういうことはこの先覚えておいて損はなさそうだぞ。

 静かな中で夜というのは少し怖いものの、傍に居るのが彼女たちとなるとそれもまた一つのスパイスだ。


「わぁ見てください!」

「綺麗だね」


 打ち上がった花火は本当に綺麗だった。

 思えば今まで祭りには良く来ていたけど、適当に飯を食って腹を膨らませたらすぐに帰ってたから花火を見るようなこともなかった。


「甲斐君甲斐君」

「う~ん?」


 綺麗な花火をのんびり見ていると、茉莉がある方を指さした。


「私ね? 昔にあそこの木の間でエッチをしているカップルを見たことあるの。それくらいあそこって穴場っていうか、バレないところみたいだよ」


 まるで女友達に話すような気安さに俺は茉莉の顔を二度見した。

 それを女の子が男に話すのってどうなんだという気持ちにもなったが、それを茉莉はどんな気持ちで見てしまったのかちょっと深く聞きたい気もしている。


(なるほどなぁ……あそこがね)


 しばらく花火は見たし……もう良いよな? 我慢しなくていいよな?

 俺は花火を楽しんでいた三人に心の中で謝り、スマホを手に取って三人を催眠状態にした。


「ふぅ……やっとこの時が来たなぁ」


 まずは隣に居た茉莉に手を伸ばした。

 浴衣の上から優しく触りながら、胸元の隙間から手を差し入れるようにして膨らみに手を当てた。


(え? あぁそうか、浴衣ってノーブラなんだっけ?)


 直に感じた肌の感触に俺は驚いたが、そういうものなのかと気を取り直す。


「ねえ先輩、待ってたんですよね?」

「私たち三人で癒してあげる」


 浴衣を汚す? ひよってんじゃねえよってことで俺は三人を連れて茉莉が教えてくれた穴場に向かおうとしたその時だった。


「そこまでよ!!」

「っ!?」


 突如聞こえたその声に俺はビクッと肩を震わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る