俺にだって出来ることがあるんだぜぇ!
「……なあ愛華」
「どうしたの?」
今俺は何とも言えない気持ちになっていた。
何とも言えないというのは悪い意味ではなく、どうすれば良いのかと若干困っているような感覚だ。
「甲斐君の手は温かくて好きぃ。もっと触って良いんだよぉ?」
「……おう」
早速二人に対して催眠アプリを起動し、俺はこうしてフィリアの体を思う存分楽しんでいるわけなのだが……まあその様子をジッと愛華が見ているわけだ。
二人同時というのも捨てがたいが、やっぱりこうして一人に集中して悪戯をしたくなるという気持ちもある。
「本当に俺がフィリアに何をしても大丈夫なのか?」
「えぇ。甲斐君のこと、信用してるから」
「……そうか」
まあお互いに俺が何をしたところで受け入れてくれることは分かっている。
それでも何度も聞いてしまうのも仕方ない、だって彼女たちは恋人同士でもあるのだから。
でもそうか、こうやって彼女たちが受け入れてくれるのであれば俺が変に意識したところで仕方ないよな……よし、今後は聞かないことにしようか。
「本当に遠慮なんて要らないのよ? そうやってフィリアが甲斐君に悪戯されるってことは、私も同じようにしてくれるってことでしょ? まさかフィリアだけして私には何もしない……なんてことは言わないわよね?」
「も、もちろんだ!」
何だろう、愛華が口にした言葉の後半に何とも言えない圧を感じたぞ……。
「ふふ、愛華ったら妬いてるんだよぉ。愛華よりも先に私だったからぁ」
「……ほう」
なるほど、つまり嫉妬してくれたということか。
それも俺ではなく愛華に対して……なんか逆だろって気がしないでもないけど、それならと俺の中の悪戯心がそれはもう暴れ出した。
「フィリア」
「あ……」
少しだけ手の力を強くすると分かりやすくフィリアの体が跳ねた。
こちらに顔を向けたフィリアに顔を近づけると、彼女は待ってましたと言わんばかりに唇を押し付けてきた。
フィリアとキスをしながらチラッと愛華を見ると……彼女は切なそうな表情で俺を見つめていた。
「……これ耐えられんって。フィリア、悪いけど選手交代」
「そうだねぇ。おいで愛華ぁ」
「っ! えぇ!!」
フィリアと入れ替わるように愛華が飛び込んできた。
ニヤニヤと楽しそうに見てくるフィリアと違い、愛華は俺の膝の上に腰を下ろし両足で俺を逃がさないと言わんばかりに絡めてきた。
「っ……あむ」
(……激しすぎじゃねえか?)
まるで小鳥が啄むようなキスを愛華はしてきた。
こういうのが似合うのはフィリアで、愛華はどちらかといえば落ち着いている印象が強いだけにこれほど求めてくれるというのは結構グッと来てしまう。
「私も混ざっちゃおっと」
背後からフィリアが抱き着き、そちらもまた俺の耳を舐めだした。
美人百合カップルに挟まれるこの状況……おそらく、見る人が見れば百合の間に挟まる男は死んじまえと思うだろう。
だが、今の俺を見て果たして死んじまえと言えるかな? むしろ羨ましいそこを代われって気持ちになるはずだ絶対に!
(……よし、ちょっと次の段階を試してみるか)
以前に俺は愛華とフィリアの二人はゆっくりと段階を踏んでいき、奉仕をしてもらうのももう少し後になるかもしれないと考えていた。
しかし思いの外催眠状態の彼女たちはノリノリだし、俺に対しても完全に心を開いてくれているのを感じるので……たぶん行けると思っている。
「なあ二人とも」
「なに?」
「どうしたのぉ?」
もしかしたら彼女たちのトラウマを刺激するかもしれないが……二人とも許してくれ、俺ももう我慢の限界なんだ。
一旦体を離した二人、俺は自分の体の一部分に指を向けた。
「これ、良かったら慰めてくれねえか?」
「あ……♪♪」
「っ……♪♪」
反応は果たしてどうだ?
そう少しばかりビビっていたのだがどうもそれは杞憂だったらしく、二人はほぼ同時に俺のズボンに手を伸ばすのだった。
そしてそれからある程度の時間が過ぎた後、俺は両手で愛華とフィリアを抱くようにしてのんびりしていた。
「あんな感じなのね」
「うんうん。なんか……凄く興奮したぁ♪」
二人の会話を聞きながら俺は完全に夢見心地だった。
恐る恐るな部分はあったものの、二人ともしっかりと俺が言ったようにしてくれたし自分から進んで多くのことも実践してくれた。
二人とも本当に可愛くて……もうマジで最高だった。
「ねえ甲斐君、ああいうのをあの子たちともしてるの?」
「まあなぁ」
「なるほどねぇ。あんな風に甲斐君が嬉しそうっていうかぁ、気持ち良さそうにしてくれると嬉しくなっちゃうよぉ。そんなのしてあげたくなるよねぇ」
「……それはつまり、これからもしてくれると?」
「え? 当然でしょ」
「もちろんだよぉ!」
言質は取った、俺は心の中で盛大に雄叫びを上げてガッツポーズをするのだった。
そんな風にテンション爆上げ状態の俺だったが、ふと愛華がこんなことを口にしてきた。
「ずっと私たちの頭を撫でながら心配もしてくれてたわよね? あれはたぶん、この行為を通じてトラウマを呼び起こすかもって心配してくれたんでしょ?」
「え? あ、あぁ……」
確かに俺はずっと二人の様子が変になったらすぐに止めるつもりだった。
これもある意味男への恐怖心を消すための触れ合いでもあるのだが……結果的には上手く行ったようで良かった。
「心配はした。まあでも、心配するくらいなら最初からするなって話だけど欲望に負けちまった」
「それだけ私たちが魅力的ってことぉ?」
「当たり前だろ。二人とも魅力あり過ぎてヤバい、つうか二人に魅力がないとか言い出す男が居たらこの力でゲイバーにでも突撃させるぞ俺は」
大事なことなので力強く宣言しておいた。
「……そう」
「えへへ♪」
二人からほぼ同時に頬にキスをされた。
その後、俺は心行くまでこの状態のまま過ごさせてもらい、スマホの充電に余裕があるうちに催眠を解除した。
二人とも元に戻った瞬間は辺りをキョロキョロとしていたが、これについても茉莉たちで見慣れていたので誤魔化し方に関しても大丈夫だ。
「さてと、それじゃあそろそろ帰るか俺は」
「そう? なら私も帰ろうかしら」
「二人とも今日はありがとぉ! 本当に楽しかったよぉ!!」
俺も二人から最高の思い出をプレゼントさせてもらったぜありがとよ!!
フィリアに挨拶をして愛華と一緒に外に出た後、せっかくだから彼女を家の近くまで送ることにした。
「……うふふ♪」
「どうした?」
「ううん、同年代の男の子に送ってもらうのは初めてだなって思ったの」
「そうか」
女子校に通っていたらこういうことはなさそうだもんな。
とはいえ本当にフィリアもそうだけど、愛華も俺に対しての警戒心がなくなってくれたようで感慨深い。
こうして彼女たちと仲が良くなったことを実感すると、決まって思い出すのがあの一番最初に泣かせてしまった記憶だ。
(……あの時は本当に申し訳なさヤバかったもんな)
その時のことを思い出していると、隣に居た愛華が俺の手を取った。
「甲斐君、私……最初の時泣いちゃったけどもう大丈夫よ」
「え? そうか?」
「うん。もう大丈夫……だから……ってあれ?」
「……うん? はっ?」
あれ? 今俺たちは何の話をしているんだ?
お互いに何を話しているのか分からなくなったようにポカンとしてしまい、その表情が少し間抜けだったせいかどちらからともなく笑ってしまった。
「私たちったら何を話してたのかしら」
「だなぁ」
そうしてまた俺と愛華は歩き出した。
ただ……俺はそこでようやく、二人とお楽しみをする前に感じていた胸騒ぎのことを思い出した。
(そういえばあの胸騒ぎは何だったんだ?)
特に心配するほどでもない小さな胸騒ぎ……あれは一体何なのか、それを考えていた時だった。
「……え?」
「どうした?」
愛華の家に向かう途中でのこと、突然に愛華が足を止めてしまった。
どうしたのかと思って視線を向けると彼女は前を向いて大きく目を見開いており、段々と体を震わせ始めた。
「……?」
愛華が目を向ける先に居たのは一人の男だ。
その男は俺たちに気付くと……否、正確には愛華を見てハッとするような顔になってこちらに駆け出してきた。
「っ!?」
「おい愛華!」
いよいよ尋常ではない様子に流石に俺も慌てた。
自らの体を掻き抱くようにして何かに恐れる愛華を背中に庇い、俺は向かってくる男と視線が交差した。
「……何だアンタは」
「お、俺は……」
初対面の相手に対して言葉遣いが悪いというお叱りは受けてやってもいい、けどこの愛華の怯えようを見ているとそんな余裕は持てそうにない。
「その人……あの時……私を……私たちを……」
「……まさか」
俺は瞬時に愛華と男を対象に催眠アプリを起動した。
愛華は俺の背中に引っ付いたままで動かないが今はそれで良い、俺は男に何者だと質問をした。
「俺は以前に彼女を襲おうとしたグループの中に居た。再会したのは偶然だけど、もしまた会えたら謝ろうと思っていたんだ」
「……謝る?」
その言葉に俺が呆れたのは言うまでもない。
確かに謝るというか、謝罪は大事なことだとは思うもののこの男がしたのは愛華やフィリアに大きなトラウマを植え付けたわけだ。
こんなにも怯えている彼女を見れば分かる……謝ることよりも、二度と彼女の前に現れないことこそが一番の謝罪ではないのか?
「……でもやっぱり」
「あん?」
この催眠状態になったということはやはり、本心を隠すことは出来ない……男はさっきの様子と一変して更に言葉を続けた。
「やっぱり良い体してるよなぁ美人だし。また捕まっても良いから相手してほしいもんだぜ」
「……………」
もはや呆れは通り越した。
俺は男に茉莉の幼馴染にした命令とほぼ同じことを反射的に口にすると、男は意気揚々と走り出して姿を消した。
男は居なくなったけどまだ愛華は震えていた。
「……大丈夫だ愛華」
「甲斐……君」
「何があっても俺が守ってやる。だから泣くな」
「あ……」
震える彼女を抱きしめ、その頭を優しく撫でた。
こういうことを素の状態の彼女にしてやれるとかっこいいんだが……まあ今だからこそ出来ることだよな。
愛華がこうなるってことはフィリアも同じ状況になったらと思うと不安になる。
俺に彼女たちを心配する資格なんてあるのか分からないが、それでもこうして俺の言葉で震えが無くなるのであればいくらでも安心させてやるさ。
「ほら笑えって。愛華は超絶美人なんだから泣くより笑う方が似合ってる」
あぁくっせえくっせえ、こんなの今日寝る時に思い出して悶えるやつじゃん。
頬が思いっきり熱くなっていくのを感じたが、その恥ずかしさを犠牲に愛華は段々と落ち着いていつもの様子に戻ってくれた。
「……甲斐君♪」
「うん、その笑顔だ」
「えぇ♪」
その後、俺は催眠を解いて愛華を家まで送り届けた。
別れ際、妙に離れることを渋られてしまったが……今度は愛華の家に行くことを約束して俺は別れるのだった。
ちなみに例の男だけど……まあまた警察のお世話になったそうだ。
「また一人の人間の人生を台無しにしちまった俺は最低な奴だなぁ」
そうは言っても俺の心は満足していたので、更に最低の二乗だなと俺は笑った。
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