麗しくも卑しき少女たちの座談会
女も三人寄ればなんとやら、それを体現する光景が夏休みのとある日に目にすることが出来た。
そうはいっても場所は茉莉の家になるわけだが、甲斐の居ないその空間に集まった三人が何を話しているのか――それはやっぱり彼のことだった。
「ねえ二人とも……その、やったの?」
「やった」
「はい!」
やった、何をと第三者が居たら聞きたいはずだ。
自分が問いかけたことではあったものの、問いかけに頷いた二人を見て茉莉はショックを受ける……ということはなく、どこか嬉しそうに笑った。
「そっか。二人とも甲斐君と出来たんだね」
「でも茉莉はズルい」
「そうですよ! 抜け駆けですよ!」
「ご、ごめんね?」
ここまで来たら先ほどの会話が何を意味していたか分かるだろう。
つまり甲斐と本当の意味で繋がることが出来たかどうか、その話を今三人はしているわけだ。
甲斐にとって記憶に残っていない出来事ではあるものの、三人の記憶にはバッチリと情事のことは刻まれていた。
そして同時に甲斐が隠していた秘密も知ることが出来た。
「まさか催眠アプリなんてものがあるなんて思いませんでした」
絵夢の言葉に二人は頷く。
甲斐が扱っている催眠アプリ、もちろんそれは世に出ていると言われるほど認知されているものではなく、こうして実際に使われた身の彼女たちですら俄かには信じがたい類いのものだ。
しかし、実際にそれを使われただけでなく使った茉莉も居ることから信じる他なかった。
「今まで感じていたあの不思議な感覚は甲斐君が私たちに催眠アプリを使っていたからってこと。段々と記憶に残るようになったけど、所詮私たちにはそんなモノが存在しているとは思えないから夢と思う他ない」
「そうだよね。でも……そんな夢が私たちにとっては嬉しかったんだよね」
嬉しかった、それが正に三人の女の子の共通認識だった。
催眠アプリによって使用者の心がどんなものなのか、それは直感のように催眠を受けた彼女たちは感じることが出来る。
確かに甲斐は好き勝手やるという信念の元に最初は彼女たちの胸を触ったり、時には奉仕という形で多くの行為をしたわけだが、それでも彼女たちが甲斐に嫌悪感を抱かなかったのは彼の行動が大きい。
「確かに最初はフワフワした気持ちの中で先輩に色々なことをされました。でも不思議と先輩に嫌な気持ちは抱きませんでしたし、何より先輩は助けてくれました。凄く優しいことが分かっていましたから……身を委ねてしまいたくなるんです」
「うんうん」
「ね」
絵夢の言葉に茉莉と才華は強く頷いたが、甲斐の優しさに触れ助けられたという意味では彼女たち二人の方がもっと上だ。
ただでさえ心がどうしようもなくボロボロで不安定だった時、そんな折に現れた甲斐の優しさにダイレクトに触れた挙句多くのことを解決してくれた……そして何よりこれからは俺の為に生きろ、俺の傍に居ろとそんな言葉を無防備だった心に打ち付けられたらもう我慢出来るわけがない。
「二人とも、甲斐君の傍から離れたくない?」
「当たり前じゃん」
「当たり前ですよ」
才華の言葉に二人は即答した。
もちろん才華も既に甲斐から離れるつもりは一切なく、これからの人生は全て彼に捧げるつもりだ。
手が差し伸べられなかったら死んでしまっていたかもしれない自分、そんな自分を生かし必要としてくれた彼に報いることこそが才華の生きる意味だからだ。
「あの人たちもきっと甲斐君が催眠を掛けたんだよねきっと」
「あ、佐々木さんと染谷さんですね」
「……………」
愛華とフィリアと出会った時、彼女たちから自分たちと同じものを感じ取った。
甲斐に催眠を掛けられただけではなく、自分たちと同じように甲斐に救われその心に触れたからこそ惹かれていることすらも理解した。
自分たちと同じだからこそ彼女たちは敵にならない、それも理解している。
「こう考えると甲斐君って本当に罪作りだよね」
「そうですよね。アレで悪い奴だって気取ってるのも……その、やってることは良くはないんでしょうけど」
「よくある同人ものとかだと、催眠アプリを手に入れた男って基本的に女をヤリ捨てするのが主だしね」
そういう点では本当に甲斐はしっかりしていた。
絵夢が言ったようにやっていること自体は世間一般からすれば許されることではないが、しっかりと最後の一線だけは守り続けていた。
「……はぁ♪」
「先輩♪」
「……♪」
三人集まった場だというのに、少しでも黙ってしまえば想像するのは甲斐のことだった。
日常の中で救われたことを知ったのは基本的に後になってからではあるものの、催眠状態で甲斐の心がどんなものか明確に感じ取れるようになっているその状況で優しい言葉を掛けられたり、本心から心配してもらえたらそれはもう嬉しい以外の言葉が見つからない。
『俺は正義の味方なんかじゃない。お前たちの体を好き勝手しているただのクソ野郎だよ』
そんな言葉もまた、彼が心のどこかに申し訳なさを感じているからだろう。
人によってはおかしいだろとか、どう考えてもクズだろとか言う人は必ず存在するはずだ――しかし実際に催眠を掛けられた彼女たちがその相手を求めており、恋をしているのだから何も問題はないのである。
「どうするの? 甲斐君に言ってみる?」
「冗談。言わないよ」
「言いません」
「だよねぇ。言わずにいようか。じゃないと……」
相手が催眠のことを知っていると分かれば、きっと甲斐は変わってしまうだろう。
それどころか二度と体に手を出してもらえなくなる可能性がある……甲斐はきっと優しいから、何だかんだ最低なことをして最低なことを口にしても根があまりにも優しすぎるが故にきっとそうなると断言できる。
「でもあの催眠に掛かる感覚って気持ち良いよね。不思議ではあるんだけど何だかこう……ほら、一人でやるより気持ち良いっていうかさ」
「あ、分かります!」
「たぶん、通常の時よりも感じやすいとかあるんじゃない?」
甲斐も催眠アプリの全てを理解しているわけではないので不明な部分だが、ある意味彼女たちの感じたことと推測は当たっていた。
催眠状態の彼女たちは相手である甲斐に絶対服従とも言える状態で、つまり体全体が彼に屈服していることを意味しており、与えられるモノを制限なしに体が受け止めているのが原因だった。
「おっぱいに触れられるだけでも凄いし……」
ふと呟いた茉莉の一言に二人は力強く頷いた。
そしてボソッと才華がこんな一言を漏らす。
「でも甲斐君もちょっと鬼畜だよね。そんな状態の私たちを昂らせるだけ昂らせて自分の処理をさせて……どれだけ体が疼いているのか甲斐君は理解するべき」
「そうそれ! それで満足しちゃうけどほら! もう少し私たちのことも弄ってほしいよね!!」
そこから茉莉と才華の凄まじい会話が幕を開けた。
ただ絵夢だけは自分がMだということが甲斐に知られている影響か、玩具を使って体をイジメられることに大変満足しているのでそっぽを向いていた。
とはいえ、このように三人が集まって話をするのは貴重な時間だ。
甲斐のことを含めてこれからのことをたくさん話せる時間でもあるからだ。
「その内、あの二人ともコンタクトを取って仲良くなりたいかな」
「そうですね。一緒に甲斐先輩を支えていくために」
既に茉莉たちの中では愛華とフィリアも仲間になってくれることを確信している。
ただ彼女たちはまだもう少しだけ甲斐と親しくなる必要がありそうだとは思うが、それでも甲斐のことだからすぐに彼女たちのことももっと夢中にさせるだろうことも予想出来た。
「なんか包囲網みたいだなぁこれ」
甲斐がどれだけの女性に対しちょっかいを掛けるのか分からないものの、こんなにも夢中にさせたのだから責任は取ってほしいと茉莉は笑った。
もう絶対に離れない、周りになんと言われようとも彼を慕う人たちでずっと傍に居るだけだと……茉莉は愛おしい者を思い浮かべながら満面の笑みを浮かべた。
こうして甲斐を囲む包囲網は完成していく。
これはある意味甲斐が齎した結果であり自業自得、蒔いた種が芽を出した結果に過ぎない。
催眠アプリを使うことで己は屑であると自覚しながらも、結果的には彼女たちを普通に恋愛するよりも夢中にさせてしまったことの罰とも言える。
これからどうなるのか……まあ少なくとも、甲斐にとって色んな意味で彼が望んだパラダイスが待っていることだけは確かだ。
【あとがき】
ということで二章終わりみたいな感じです。
近衛さんについては次回から出てきてどんな風に接するかを書いていくことになると思います。
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