捗るぜぇ! 最高だぜぇ!!

「お待たせしました。こちらをどうぞ」

「ありがとうございます」


 スマホの充電が勝手に少なくなることに違和感を感じたが、別に気にすることではないかなと思っていた。

 しかしそれでも催眠アプリを起動している時にもしもがあってはマズいと思ったので、色々と考えた結果俺はこうしてスマホショップに訪れていた。


「一通り調べましたが特に故障している個所などはありませんでした。どこかが劣化しているわけでもなさそうなので、ひとまずは安心して良いかと思います」

「なるほどっす」


 なら別に安心して良さそうか。

 まあそれでも茉莉や才華と一緒に居た時に充電が減ったことは事実なので何かあることは確定なのだが……まあ実際に店に持ってきてこう言われてしまってはどうしようもない。


「ありがとうございました~」


 スマホショップから外に出るととてつもない暑さが襲い掛かる。

 八月の半ばを前に本当に気温が上がってきて嫌になるがこれも夏の証、しばらく我慢すれば涼しい季節がやってくるから耐えるしかないよな。


「……うん? あれは」


 当てもなくブラブラと街中を彷徨い、特にやることはないかなと思っていると見覚えのある後姿を見かけた。


「絵夢じゃん」


 そう、俺の前をちょうど歩いているのは絵夢だった。

 涼し気なワンピースに身を包んだ彼女も当てがなく歩いているように感じるが、俺はそんな絵夢を見てぐふふと気持ち悪く笑ってしまった。

 結局次は絵夢だと宣言したものの、彼女に連絡を取ることはなかった。

 それがまるで示し合わせたようにこうして外で出会うということはつまり、運命そのものが絵夢に手を出せと言っているようなものだ。


(クッソ最低だわ。でもやっちゃうんだなぁこれが)


 何かを見つけたのか立ち止まった絵夢の背後から俺は声を掛けた。


「絵夢?」

「えっ!?」


 その後姿はやはり絵夢だったわけだが、彼女は物凄く肩を震わせてビックリしたのでどうしたのかと気になった。

 絵夢はハッとするように俺の手を取って歩き出した。


「せ、先輩奇遇ですね! こうして会ったのも何かの縁ですし――」


 そう言われて俺は引っ張られていくのだが、その間にチラッと見えたのはちょっとハードな大人の玩具のポスターだった。


(……あ、そういうこと?)


 確かに俺はお世話になったことはないが、あの近くにはそういった類の玩具を数多く扱っている店があったはずだ。

 もしかしたら絵夢は今日そこに用があって出掛けていたのか……ならば俺が絵夢を見つけたせいで台無しになどさせたくはない。


「大丈夫だぞ絵夢」

「え?」


 俺はすぐさまスマホを取り出し絵夢に催眠を掛けた。

 いつものようにボーっとしてジッと見つめてくる絵夢に満足し、今日過ごそうと思っていたことをそのまましてほしいと伝えた。


「分かりました。では行きましょうか」

「おう」


 その後、絵夢に連れて行かれたのはやっぱりそのいかがわしいお店だった。

 絵夢がそういう趣味を持っていることは知っているし俺も色々と楽しませてもらっているのだがあくまでもそれは催眠状態の彼女なので、素の状態の彼女が焦ってあんな風に恥ずかしがるのもおかしな話ではない。


「でも……」


 とはいえ、やっぱりこういう店はとても緊張する。

 中には数多くの玩具が並んでおり、絵夢の部屋にある物と似通ったものもそうだが全く知らないものまで置かれていた。

 明らかに高校生が足を踏み入れてはいけない場所なのだが、この店はある意味穴場でもあるので学生もそれなりに訪れるというのは風の噂で聞いている。


「先輩は何か買うんですか?」

「……まあちょっと見てみるわ」

「分かりました」


 こんな玩具を前に女子から何か買うのかと言われることの破壊力は凄まじい。

 俺は若干タジタジになりながらも、何とか絵夢にそう伝えて周りを見始めたわけだが他の利用客は俺と絵夢を見て微笑ましそうに笑うので本当に恥ずかしい。


「これは……ダメですね。こっちは良さそうです……ふふ♪」

「歴戦の猛者やんけ……」


 表情一つ変えずに玩具を吟味する姿は戦士のそれだった。

 もちろん女性のみのもではなく男性が使えるものなんかもあったが……まあ特に惹かれるものはなかった。


「何か良いモノはありました?」

「何にも。だって絵夢たちにされた方が気持ち良いのにわざわざこんな玩具を買ったところでなぁ……」


 これが俺の嘘偽りない言葉だった。

 正直こんな玩具に頼るより、絵夢に言ったように彼女たちに奉仕をしてもらった方が圧倒的に気持ち良くなれる。


「……先輩♪」

「お、おう……」


 絶対に催眠状態ではない彼女たちに言える言葉ではなかったが、今の言葉を聞いた絵夢は嬉しそうに俺に抱き着いてきた。

 こういう場だからこそ抱き着いているところを見られたとしても微笑ましく見られるだけで、後ろを通った女性には可愛いわねと笑われていた。


「そんな風に言ってくれるなんて嬉しいです」

「……まあなんだ。それだけ絵夢たちが素晴らしいってことだ」


 俺だけでなく誰でも同じことを言うだろう。

 玩具のように意志のない無機物よりも、ちゃんと命と意志を持った相手にしてもらった方が絶対に良いということを。

 言葉にはしなくてもそれはやっぱり絵夢に伝わっているのか、卑猥な形をした玩具を手にしながらも嬉しそうに俺に抱き着いたままだ。


「取り敢えず……絵夢はどうするんだ?」

「あ、買ってきますね」


 絵夢はレジに向かって歩いて行った。

 その後、買い物袋を手に戻ってきた絵夢と共に店を出たのだが……よくよく考えたらこの玩具がある状態で催眠を解くことは難しそうだ。


「スタンプいっぱいになったので次はサービスしてくれるみたいです」

「あ、そうなんだ」


 つまり今まで何回も来ていたということですね分かります。

 店を離れた俺と絵夢だが、当然のように俺は絵夢と一緒に近くの建物の陰に向かった。


「さあ絵夢、頼むぜ?」

「分かりました」


 流石に家まで行っていたらそれこそ充電が死んでしまう。

 だからこそ店に行った影響で色々と元気になっていたものを絵夢に発散してもらわなければ困るわけだ。

 跪いた絵夢はいつものように俺のズボンに手を掛けた。


「……さてと」


 一応もう一回スマホの確認はしておくか。

 絵夢から齎される刺激に気分を良くしていると、画面を見つめた瞬間に頭がボーっとしてきた。


「なん……だ……これは?」


 まるで才華の時と同じ感じがする……しかし、そんなボーっとする感覚も一瞬のことだった。

 一際強い刺激を受けて俺は限界を迎え、絵夢も俺の顔をこちらに向けた。


「凄い……ふふ……先輩♪」


 取り外されたぶよぶよとしたそれに口を近づけ、溜まったそれをまるでラーメンを啜るかのように飲み干していく。


(……待て、俺は何をやっているんだ? 何を……あれ?)


 やっぱりおかしい、ボーっとする感覚はないがどこかおかしかった。

 目の前で満足した様子の絵夢を見つめながら、俺はそろそろ良いかと思ってちゃんと荷物を持たせて彼女を先に帰らせた。

 そろそろ良いかと考え催眠を解いたわけだけど、そこでやっと全てがハッキリとしだした。


「……ふぅ、やっぱ絵夢も良いよなぁ」


 俺は絵夢に奉仕してもらったことを思い出し今日も最高だったと満足していた。

 偶にはこんな風に絵夢に催眠を掛けてあのショップに向かうのも良いなと思い、また機会があれば絵夢と一緒に来るのも面白そうだ。


「今年の夏休み……最高に充実してやがるぜぇ」


 茉莉、絵夢、才華と濃厚な時間を過ごせたことで本当に最高の夏休みだ。

 もちろんこれだけでは飽き足らず、俺はまだまだ彼女たちとこういうことをやっていくつもりだ。

 そしてここに愛華とフィリアも加わってくれればもっと最高な時間が俺を待っているだろう。


「くくくっ、良いねぇ悪くないねぇ」


 なあ相棒、俺たち二人の時間は始まったばかりだ。

 だからこれからも俺に力を貸してほしい、愛してるぜ相棒。


「……?」


 今一瞬、スマホの画面が光ったような気がしたが気のせいか。

 その後、俺は家に帰るために帰路を歩いていたのだが……家の前でまさかの出会いが俺を待っていた。


「あれ?」


 とある家の前で話をしていたのは近衛さんと以前に事故をしてしまったお爺さんだった。

 どうして近衛さんと一緒なのかはともかく、あのお爺さんが元気になったようで俺は本当に安心していたのだが……お爺さんが俺を見た。


「おや……おぉ! 君はあの時の!」

「あ、どうもっす」

「真崎君?」


 頭を下げた俺に近衛さんも気付いた。

 そして、お爺さんは俺に指を向けながら近衛さんにこう伝えるのだった。


「あの子じゃ。あの子が儂を助けてくれた男の子じゃ!」


 助けたのは俺じゃなくて救急隊なんだけど……まあでも、こういってなんだが何か良いことが起きそうな予感が俺の中にはあった。

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