才華が持ち上げすぎて困るぜぇ!
「甲斐君?」
「……おう」
目の前で首を傾げている才華と俺は目を合わせることが出来なかった。
才華に催眠を掛けていつものように好き勝手していた俺だったが、その後に疲れて眠ってしまったみたいなのだ。
(……まさかあんな夢を見るなんて――)
夢、俺はそれをどうやら朧気に見たようだ。
才華の部屋に来て、正真正銘彼女が傍に居る状況で……俺は思いっきり彼女とやってしまう夢を見たわけだ。
夢の中でもしっかりとゴムを手放さなかった自分を褒めたいくらいにしっかりした夢ではあったものの、彼女が傍に居る状況でそんな物凄い夢を見たことに僅かな罪悪感のようなものがあったわけだ。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だ……マジで大丈夫!」
まあいくら夢とはいえ彼女たちとそういうことをする夢なんていくらでも見たようなものだ。
しかし基本的にエッチな夢を見る時って現実世界にも大事な部分が元気になるという現象が発生するわけだが……そんな恥ずかしい所見られてないよな?
「なら良かった」
「……おう」
才華の表情を見る限り大丈夫そうだ。
催眠状態の彼女は既に見慣れているようなものだし勝手に触って弄ったりしてくるくらいだけど、流石に素の状態の女子となると引かれるだけだ。
とはいえ、そんな夢を見たというのに何故かスッキリしているのも謎だ。
(これは茉莉の時にもあったな……あぁあれか。彼女たちに奉仕してもらった後だからスッキリしてるだけか)
あ、それなら寝ている時に凄いことにはなってないかも? そう考えるとかなり気分が楽になってきた。
「甲斐君は……」
「どうした?」
「何か秘密とか持ってるの?」
「……どうしたいきなり」
何か秘密とか持っているのか、そう問われるとたくさんあるとしか言えない。
催眠アプリを持っていることも含めてそうだし、才華を含めた色んな女性たちに手を出したことだって秘密にしなければならないことだ。
「たくさんあるぞ?」
まあでも変に隠したり動揺しないことが秘密を抱える上で一番大事なことだというのは理解しているので、俺は自信を持つというわけではないが胸を張って彼女に答えた。
「そっか。いずれ聞いてみたい」
「ま、機会があればな」
ごめん才華、たぶん催眠については一生話すことはないと思う。
それから俺はしばらく才華と一緒に居たのだが、いつもに比べて才華の機嫌が本当に良かった。
無表情が常の彼女ではあるものの、今までは頬が緩んだり姿は見たことがあったが今の彼女は本当に分かりやすく笑っている。
「なんかよく笑うな今日は」
「そう? ならきっと甲斐君のおかげじゃないかな」
「……そっか」
「うん」
笑顔を浮かべられるのが俺のおかげだって、そんなことを言われたら今度は俺の方が口元ユルユルになってしまうぞ。
「……ふぅ」
しかし、本当にこうして同学年の女子の家に遊びに来るってのも凄いことなのにましてや部屋にまでお邪魔出来るようになるとは思わなかった。
才華だけでなく茉莉も絵夢も最初は催眠での命令が始まりだった。
それがこうして素の状態の彼女たちと過ごすことが出来るなんて本当に幸せなことだと思う。
「ちょっとおトイレ行ってくるね」
「あいよ~」
トイレの為に部屋を出て行った彼女を見送り、俺はふとスマホの画面を見た。
いつもと変わらない俺のスマホ、ただ充電がかなり減っており残り二十五パーセントほどにまで低下していた。
どこか故障しているのか、或いはバックグラウンドで大量にアプリを起動しているのかと怪しんだがその形跡はなさそうで良く分からない。
「……………」
近いうちにスマホショップにでも行こうかなと少し考えながら俺は催眠アプリを起動した。
別に誰かに催眠を掛けたりするわけではなく、単純にアプリの中を見てみようと考えただけだ。
「……そう言えば最近はこの画面を見てなかったな」
その画面とは俺の名前に色んな線が繋がっているものだ。
黒い線も僅かに増えており相変わらず不明だが、黒いモノとは別にピンクの線は増えていないもののかなり太くなっていた。
最初に見た時からあったピンクの三本の内二本はかなり太く、ドクンドクンと脈を打つかのように光っていた。
「増えた二本のピンクも前よりかなり太くなってるな」
俺の名前に繋がる五本のピンク線と残りはズタズタにされている黒い線……日を追うごとに増えているのは俺が何かのアクションをしたからか? それとも何か別の理由があるのかはやはりまだまだ分からない。
「相棒が何を伝えようとしているのか分かればなぁ……ま、それをアプリに言ったところで仕方ないか」
スマホをポケットに仕舞ってゴロンと横になった段階で才華が戻ってきた。
リラックスしている俺を見て才華はクスッと笑い、またさっきまで居た場所に腰を下ろした。
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんもまだまだ甲斐君と話がしたいみたい」
「なんか凄い気に入られたなぁ」
「それだけ甲斐君の人柄が良いってことじゃない?」
「……なあ才華、頼むからあまり調子に乗らせるようなことは言わないでくれ」
俺の表情筋が緩んで戻らなくてなるから本当にやめてほしい。
そもそも才華はとにかく俺のことを持ち上げることが多い気がする……まあ彼女からすれば俺も恩人みたいなものではあるんだろうけど、それにしては俺のこと良く考え過ぎだ。
「私はとても素直な気持ちで伝えてる。だから何も恥ずかしくなんてないし遠慮をする必要もない」
……とのことだ。
俺自身決して嫌な気持ちではないため、才華の言葉は嬉しいということで大人しく受け取ることにしよう。
その後、しばらく才華と一緒に過ごしてからお暇することになった。
お爺さんとお婆さんにも見送られ、家を出た少し先まで一緒に歩こうと言って才華が付いてきた。
「今日はありがとう甲斐君」
「え? いや礼を言うのは俺の方だと思うんだが」
「そんなことないよ」
才華は両手で俺の手を包み込んだ。
胸の前まで持ってくるようにして才華は言葉を続けた。
「何となく甲斐君のことをもっと知れたから。そして何より、甲斐君に大切なモノをあげることができたから」
「??」
結局、才華が何を言いたいのか分からなかった。
彼女と別れて考えることはやっぱりさっきまで傍に居た才華のこと、実を言うと今になって鮮明に夢の内容を思い出してしまった。
「……夢で良かったって思うよな。あんなの現実でやったら引かれるぞ」
思い出した夢はやっぱり才華としている夢だ。
だが才華のとあるお願いごとに俺の中に火が点き、それはもう凄いことを口走ってしまった。
『甲斐君。お願いがあるの……甲斐君の方からもっと正直に私を求めてほしい。私の体をどうか好きに求めて?』
『才華……っ! なら遠慮はしないぜ! 才華は俺のモノ! 俺だけの女だあああああああああ!!』
こんなんアホやぞマジで……。
恋人でもない女の子に対して大声を上げながら求め思いっきり体を重ねる夢なんてどれだけ欲求不満なんだと思いたくなる。
確かに俺も男である以上そういうことをしたい……むしろストッパーを全部外して今以上に好き勝手したい。
「ま、そんな日は無さそうだけどな!」
正直今の段階でも満足出来ているのだから良いかな別に。
それにしても私服姿の才華もエロかったし、匂いとか感触も感じられて今日は最高の一日だった。
茉莉の時にも同じことを言ったけどやっぱり女の子と過ごす日ってのは最高だ。
「次は絵夢だな……くくくっ、待ってろよぉ!!」
近いうちに絵夢と連絡を取り合うことにしよう、そう俺は邪悪に笑った。
「……?」
その帰り道のことだが、俺は街中で奴を再び見た。
茉莉を不幸にした張本人であるあの幼馴染、奴は何とも派手そうな女と一緒に歩いていた。
「まああんなことがあっても立ち直り早そうだしな。別の女を作ったってことは茉莉にちょっかいを出すことはもうなさそうだ」
奴と寄り添っているのはいかにも尻軽そうな女と……別に悪く言うつもりはないけどお似合いに見えた。
どうか末永く奴はあの女性と仲良くしてほしい、そして二度と茉莉に近づくんじゃねえぞ。
俺はそう思いながら彼らに背を向けるのだった。
ソレがしたことは何も変わらない。
ただただ提案をしたのと、そのやり方が違うだけだ。
『甲斐君♪ もっともっと♪』
『このクソが……なんで私がこんな奴に!!』
相反する二つの感情、決して相容れることがないほどにかけ離れたそれは全く別の様相を醸し出す。
ソレが彼女たちに提案した時期は二人とも同じ、だというのにここまでの差があるというのは何とも興味深いモノだ。
片や奇跡的に心を救い、片や奇跡的なまでに更に心を追い詰めたわけだ。
ただソレにとっても一つだけ誤算があった。
前任者については強い憎しみが忘却を乗り越えたわけだが……まさか今回に関しては好きという気持ちが強すぎて忘却があまり意味をなさないのは想定外だ。
「……………」
だがまあ、そこに笑顔があるのならそれでいいのではとソレは考えた。
幸せならオーケーです、そんな言葉もあるくらいなのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます