男を見せる時が来たぜぇ! ……おや?

「……お疲れ様ね?」

「あぁ……」


 ほぼ直下というオーバーだが、かなりの角度のウォータースライダーから見事俺は生還することが出来た。

 滑っている最中にフィアナに言われた通り、思いっきり彼女の胸を触ってしまったような感覚は残っているのだが、残念ながらその感触はあまり覚えていない。


(くそっ……俺としたことが誤算だぜ)


 最近の俺は知り合った彼女たちの柔らかさを堪能するために生きていると言っても過言ではないし、もはや俺にとって彼女たちの存在は切っても切り離せないほどになっている。


「……………」


 友人たちと遊ぶフィアナを微笑ましそうに見つめる愛華とジッと見つめると、彼女も俺に気付いて視線を向けてきた。


「……ジッと見てどうしたの?」

「いや、相変わらず綺麗だなって」

「あら……ふふ、お世辞が上手いんだから」


 お世辞ってわけでもない、それくらいにやはり彼女たちは綺麗だと思っている。

 しかしこうやって歯の浮く台詞を口にするのはどうともならないのに、何故俺はさっき茉莉たちの水着姿を見て鼻血を出してしまったのか……ってそうだ!


「つい夢中になっちまった。俺戻るな?」

「あ……そうね。あの子たちと遊びに来ていたんだものね」


 立ち上がった俺を見て愛華が残念そうにしたような気もするが、それもこうして親しくなったからこそ抱いてくれる感情なのだろうか。

 今日俺たちはこうして偶然出会ったわけだけど、お互いにお互いの友達が居るのでそれを放置するわけにはいかない。


「同じ学校って羨ましいわね。男性が居ないから女子校で安心しているけど」

「俺からすれば女子校ってどんなとこなんだろうかって未知の領域だけどさ」

「そう? お嬢様学校ってよく言われるけど、ほとんどの子は座っている時は大股開いてるし帰りはファミレスに寄ってバカ騒ぎばかりよ?」

「……えぇ」


 どうやら俺の抱いていたお嬢様学校の印象とはだいぶ違うようだ。

 俺的にはお姉さまだとかそういう呼び方が普通で、挨拶はごきげんようが定番だと思ったんだが。


「確かにそう言う人も居るわ。まあ先生くらいかしら」

「……なるほど。マリア様は見てねえんだな」

「??」

「何でもない」


 ポカンとした愛華に首を振りつつ、俺はフィアナにも声を掛けてその場を去るのだった。

 嬉しいことにフィアナも残念そうにしてくれたので、俺としても確かに残念だがやっぱり嬉しい気持ちの方が強かった。


「あ、居た居た……?」


 三人とも元居た場所から動いてなかったのだが、彼女たちは三人だけでなく知らない男二人に囲まれていた。


「……ナンパか。まあ気持ちは分かるけど」


 美人でスタイル抜群の彼女たちの傍に男の影が無ければ声を掛けるのもある意味道理というものだ。


「……でも面白くないよな」


 俺は彼女たちの誰かと付き合っているわけでもなく、他の男とどんな関係になったとしても文句を言える立場にはないし意見も言えない。

 それでもこうして親しくなったことで俺の中に独占欲のようなものが生まれているのは認めよう……正直、独占欲とか何様だって感じだけどな。


「なあなあ、男が居ないんなら一緒にどうよ」

「つまんないだろ? だからさぁ」


 なるほど、ああやって声を掛けるのかなんてどうでも良いことを思いながら俺は茉莉たちの元に近づいた。

 声を掛けている男性二人はおそらく俺たちよりも年齢は高く、二十代半ばくらいではないかと思われるが、それにしても良く鍛えているのか体はとても引き締まっていた。


(エロ漫画とかだとああいうのが竿役になるんだろうなぁ。体だけ見ればすげえ鍛えてるし、そういう意味では女の子に声を掛けるための努力はしてるのかね)


 まあそれでも俺が間に入らない道理はない!


「すまん、遅くなった――」

「あ、甲斐君!」

「先輩!」


 俺の連れに何の用だ、なんてかっこよく言うつもりだったのは確かだ。

 こういうことは何事も勢いが大事、ナンパ男たちにとって相手の男が気弱そうだとか思わせた時点で調子に乗らせるだけだからだ。

 ……そう、かっこつけるはずだったのに彼女たちは強かった。


「この通り、大切な友人と来ていますので」

「とっととどっかに行ってもらえますか?」


 茉莉と絵夢が俺の傍でいつもは聞かない冷たい声でそう言った。


「……いや、でも――」

「そんなパッとしない奴が?」


 パッとしない奴で悪かったな……。

 学校でも陽キャ連中に似たことを言われてもイラつきはするが、それを今初めて会ったばかりの名前も知らない人に言われるのはそれ以上に嫌な気分だ。

 手元にスマホがあったならそれはもう凄いことを命令してやるんだが、生憎と相棒はロッカーの中なので頼ることも出来ない。


(……まあいつも相棒が傍に居てくれるわけじゃない。なら俺でも、少しは一人の男として女の子のことくらい守れるようにならないと)


 催眠アプリを使っているとはいえ、俺は彼女たちの体を好き勝手にしている。

 記憶が残らないなら良いじゃないか、覚えていないなら良いじゃないかと考えることもあるがどうも俺はそこまで割り切ることは出来ないらしい。


「この子たちに声を掛けたい気持ちも理解は出来るけど、今日の彼女たちの時間は俺が予約してるんだ。悪いけど諦めてください」


 しっかりと彼らの目を見て俺はそう伝えた。

 生意気だと思われはしても誠意は伝わったのか、二人とも互いに顔を見合わせて勢いを失くしたようだ。

 そんな二人に才華が近づき、こんなことを口にした。


「さっきの彼の姿を見ても、パッとしないなんて言える?」

「あ……」

「……なんつうか、悪かったな」


 男性二人は早々に去って行った。

 俺はホッと息を吐き、特に危ないことにはならなかったなと安心した。


「……ふふ」

「えへへ」

「?」


 両サイドで微笑んだ茉莉と絵夢に首を傾げていると、何を思ったのか二人が飛びついてきた。


「ちょっ!?」


 それは抱き着くという行為に違いはないのだが、その勢いに押し出され背後のプールに背中から落ちてしまった。

 水面から顔を出すと同じくプールに落ちていた二人は悪戯が成功した子供のように笑っていたので、俺もやり返そうと思って手を伸ばそうとした。


「……いやいや、今はヤバくねえか」

「どうしたの?」

「先輩?」


 やり返すとはいっても体に触れるのはマズイ、そう思った俺だったが背後からぬるりと腕が伸びてきた。


「捕まえた」


 それは才華だった。

 脇の下に腕を通すようにして俺のお腹に腕を回し、そのままピッタリと才華が抱き着いてきたのだ。

 背中に張り付く才華の肌、そして圧倒的なボリュームの柔らかさが背中に感じ俺は一瞬にして臨戦態勢になるのを感じた。


「さっきのかっこよかった。でもすぐに戻ってこなかったから罰ゲーム。しばらく甲斐君はこうして私たちに悪戯をされるの」

「悪戯って……」


 あかん、むにゅっとした背中の感触に血液が一か所に集まりやがる。

 茉莉と絵夢にプールに落とされて良かったなと、俺は才華に抱き着かれながら思うのだった……しかし。


「才華ずっる~い!」

「私たちも行きましょう!」


 背後から才華、両サイドから茉莉と絵夢に抱きつかれ俺は更に興奮した。

 しかし、どうやら多くの人たちが遊びに来ているこのレジャー施設で元気になっていた俺に対し神様からの罰が下ったのだろう。


「甲斐君!」

「先輩!」


 もっと密着しようとしてくれたのか、二人が若干姿勢を変えた時に彼女たちの膝が俺のアレを蹴った。

 それは見事なクロスプレイ、俺はきっと今までに浮かべたことのない表情をしていたに違いない。


「……っ……~~~~~~~~~~~っ!!」


 声にならない叫びとはこのこと、俺は三人に心配されながらも相変わらず元気なソレの姿にちょっとだけ安心するのだった。






 甲斐が知り合った女の子たちとプールで遊んでいた時、とある病院の一室に一人の女性が駆け込んだ。


「お祖父ちゃん!!」

「うん? おぉ来てくれたのか」


 ベッドの上で元気そうにしているお爺さんを見て女性はホッと息を吐き、すぐに表情を険しくした。


「いきなり電話が掛かってきてビックリしたんだよ!? 軽い発作が起きて事故をしたって……本当に心配したんだから!」

「すまんなぁ。でもこの通り、儂は元気じゃから安心してくれ」


 ついさっきまで女性は仕事の最中だったのだが、突然のその報せに家を飛び出したのである。

 電話でもお爺さんの無事だからと聞いては居たものの、やはりそれなりの歳ということもあって女性は本当に心配したのだ。


「これお爺さん、ちゃんと謝りなさい。孫にこんなに心配かけたのだから」

「そうじゃのう。すまんかった」

「……もう良いよ。無事だったのならそれで」


 ただ体の発作についてはしっかりと薬を飲んだから安定したものの、ある程度遅れていたらもしかしたら危ない状況だったかもしれないだったらしい。

 女性にとって若いうちに両親を亡くしたこともあって今会える肉親はこの老夫婦しか居ないのだ……だからこそ、本当に無事で良かったと息を吐く。


「実は事故をしたお爺さんの傍に居てくれた男の子が居たそうなのよ」

「男の子?」

「あぁ。救急車も呼んでくれての。ずっと傍で励まし続けてくれたんじゃ」


 その男の子については名前も何も聞いてないので誰かは結局分からない。

 とはいえ女性からしても老夫婦からしてもしっかりとお礼を伝えたい相手であるのは違いなかった。


「……取り敢えず無事で良かった」


 元気に笑っているお爺さんを見て女性――近衛那由はやっと笑顔を浮かべた。

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