一日一回パイタッチ、みんなやるだろぉ!?

「甲斐〜?」

「どうした〜?」


 ついにやってきた夏休み、その初日から俺は部屋でのんびり過ごしていた。

 床に大の字で寝転がる俺を部屋に入ってきた姉ちゃんが呆れたように見つめ、簡単に用件を伝えてきた。


「今日大学の友達が遊びに来るの。ちょっと騒がしいかもしれないけどごめんね?」

「全然良いよ」

「ありがと」


 どうやら姉ちゃんの友達が遊びに来るらしいのだが、俺にとって特に絡みのある人たちではないので気にはしない。

 姉ちゃんの友人ということでどんな女性たちなのか見てみたいものだが、鉢合わせするのも面倒なので外に行くとするか。


「晃と省吾は用事あり、他の友達も軒並み予定ありとかツイてねえなぁ」


 俺はそう言ってため息を吐き、姉ちゃんに出掛けてくると伝えて家を出た。

 街に向かう途中、三人組の女性を目にしたがもしかしたらあの人たちが姉ちゃんの友達かもしれないな。


「……一人だけめっちゃ好みのお姉さん居たわ良いねぇ」


 二人は姉ちゃんほどではなかったが小さい人たちだったが、残った一人は物凄くスタイルの良い女性だった。

 黒のボブカットの中に赤メッシュが入ってるというあまり見ない感じの人だが、気の強さを感じさせるエッチなお姉さんってのも悪くない。


「……おっと、俺としたことがついスマホに手を伸ばしちまってたぜ」


 ペチペチと手の甲を叩き、俺は止まっていた足を動かすのだった。

 一応昼食も済ませるつもりなので適当に歩くとして、どこに行こうか少々悩んだ。


「ふむ……」


 果たしてどうするか、それを考えていた俺の背後から声が聞こえた。


「真崎くん?」

「うあ?」


 突然名前を呼ばれてビクッとしてしまったが今の声には当然聞き覚えがあった。

 振り向くとそこに居たのは染谷で、彼女は夏ということもあり何度も涼しげなワンピース姿だった。


「染谷か。ちっす」

「ちっす!」


 うん、やはりこの子はノリが良い。

 俺の挨拶に合わせるように動作を入れたせいで豊かな胸元が揺れたのだが、夏休み一番にその素晴らしい景色を見せてくれた染谷に俺は心の中で感謝した。


「こうして街中で会うのも珍しい気がするねぇ? あ、そうかそっちも夏休みなんだ?」

「今日からだな。染谷の方もか?」

「そうなんだよぉ」


 どうやら染谷も今日から夏休みらしい。

 別に彼女と街中でバッタリ出くわすことはおかしなことではないのだが、いつも傍に居るはずの佐々木の姿が見えない。

 チラチラと辺りを見回す俺を見て染谷は察したのか口を開いた。


「今日は私一人なんだぁ。愛華はお家の用事なの」

「そうなのか」

「うん。真崎くんは?」


 姉の友達が家に来るから抜け出したことを伝えると、そうなんだと染谷は笑った。

 しかし、こうして染谷を見ているとやっぱりエッチだ。

 才華と同等程度のバストというのはやはり国宝級なので今すぐに催眠アプリを使って楽しみたい気分にさせてくる。


「お互いに一人だし、良かったら一緒にお買い物とかしない?」

「良いぜ」


 まあ特にやることは考えてないので染谷の言葉に頷いた。

 買い物といっても色々とあるわけだが、オタクの染谷だからこそ本屋に行きたいと言ったので付いていくことに。

 店の中に入った瞬間、俺たちの体を冷たい風が癒してくれた。


「あ〜涼しい♪」

「だな……ってこら!」

「??」


 服の胸元部分に手で触れてパタパタと揺らしていたのでつい声を上げてしまった。

 とはいえ見ていたのは俺だけで周りは一切気にした様子もなく、気にしすぎたかと恥ずかしくなった。


「ふふん、真崎君はエッチだなぁ?」

「うるさいよ」


 よし決めた、後で絶対にそのたわわを好き勝手してやるぜ。

 胸の内に野望を秘め、俺は染谷と別れて漫画を物色し始めた。

 しばらく経って合流すると染谷は大量のロボット物漫画を抱えており、流石は金持ちの家系だなと俺は苦笑した。


「これは今日帰ったら一気読みだぁ!」

「寝不足とかにはなんなよ?」

「夏休みは寝不足になってなんぼでしょ。今日は寝ないもんねぇ」


 この様子だと本当に今日一日眠らなそうな勢いだ。

 俺は特に考えることなく、ただただ染谷を心配するようにこう言った。


「寝不足はお肌の敵とか言うだろ? すげえ綺麗な肌してるんだからそういうところ気を付けろよな。まあ俺が何言ってんだって話だけど」


 俺はもう染谷の裸を見たことがあるからこその言葉だけど、本当に染谷の肌は白くて神秘的な美しさをしている。

 シミ一つない綺麗な肌、おまけにはスベスベしてて触れてても気持ちが良いんだ。


「私の肌?」

「……あ」


 俺は自分の失言に気付きうっかりしていたと焦った。

 そもそも彼女の裸を見たり触れたりしたのは催眠状態の時なので素の状態の彼女からすれば何のことだって話だし、何より気持ち悪いと思われても仕方ない。


「も、もういきなり何を言うのぉ?」

「……すまん」


 染谷は顔を赤くして照れるだけだった。

 正直キツイ罵声の一つは覚悟していたわけだが……それにしても、やはり俺がこうしてアプリの力で知り合った人たちは現実世界でも本当に俺に対して友好的になってくれるなと改めて不思議に思った。


(本当に現実としての記憶には残ってないはずだ……まあだからといって催眠状態の彼女たちにやってることは最低なわけだけど)


 使えば使うほどその魅力に捕まり、同時に分からないことが増えていく我が相棒についてはこれからも大いに頭を悩ませそうだ。

 とはいえあの衝撃的な出会いがあった染谷がこんな風に俺に対して無防備で居てくれることは何と言うか、ちょっと感慨深いものがあるのは確かだ。


「ていうかさ、今ふと思ったんだけど俺と一緒に居て良いのか?」

「え?」


 これは話題を変える意味もあったが、ふと気になったのは確かだ。

 染谷は同性とはいえ佐々木と恋人という関係であるため、彼女が知らないとはいえ俺と一緒に居て良いのかと言う問いかけだ。

 それを説明すると染谷は目を丸くし、クスクスと肩を震わせて笑った。


「もしかして気にしてたのぉ? なら大丈夫! 確かに今こうして真崎君と一緒に居ることを愛華は知らないけど、あの子も真崎君のことを凄く信頼してるからねぇ」

「……割と思うのが一度助けた程度で人を信用しすぎなんだよお前らは」

「知ってる」


 俺の言葉に頷いた染谷は真剣な表情になっていた。

 向かい合っていた俺は問答無用で背筋を正すような形になり、彼女から伝えられる言葉をジッと待つのだった。


「私と愛華も良くは分かってないよ? でも真崎君のことは信用できる、だから難しいことは考えない。というか真崎君も嬉しいでしょ? 疑われるよりは信用される方がさぁ」

「そりゃそうだけどさ」


 ならそれでいいじゃんかと染谷はまた微笑んだ。

 俺はしばらく考え込んでしまったが、染谷と佐々木がそれで良いのなら良いかと俺も考えることを止めた。

 その後、本を買って店を出た俺たちは当てもなく商店街を歩いていた。

 そんな中、俺と染谷の目に留まったのはくじ屋だ。


「一等賞は温泉旅行だって!」

「本当だな。って当たっても行く相手が俺には居ねえよ」

「あはは♪ 私は愛華と行きたいかなぁ」


 おい、その間に挟まらせろよと言っても良いか?

 ニコニコと妄想を始めた染谷から視線を外し、以前に宝くじは外れたがまたやってみるかという気持ちで近づいた。


「やるの? ここ、結構当たらないって評判だけど」


 どうやら当たらないと評判らしい、それでも一度やると決めたら逃げないのが男というものだ。


「まあやってみるさ。分の悪い賭けは嫌いじゃない」


 そう、こういうのは当たらないと思っているからこそ気が楽に出来るのだ。

 ちなみに今の台詞は染谷も読んでいる漫画のキャラが口にするセリフだが、やはり染谷はオタクでありノッてくれる良い子だった。


「ぱおぱお~ん!!」


 その声を合図に俺はくじを引いた。

 結果はティッシュの詰め合わせだったので染谷と仲良く二人で分けた。


「いやぁ今日は楽しかったねぇ」

「そうだな。けど……一応最後のお楽しみはさせてもらうぜ」

「ふぇ?」


 俺は催眠アプリを起動し、染谷を連れて建物の陰に連れて行った。

 街中なのは変わらないので喧騒は耳に届くが、それでもここまで入って来る人はそうそう居ない。


「……やわらけぇ」

「気持ち良い?」

「おうよ!」


 ずっと染谷と一緒に居る間は我慢していたんだ。

 その我慢を一気に開放するように俺は染谷の体を楽しんだ。


「最初に比べて全然体が震えなくなったな?」

「うん。きっと真崎君だからだよ。逆にこうやって触れられてると体がポカポカして凄く安心するんだぁ♪」

「可愛いことを言ってくれるじゃんか。それじゃあもっと楽しむぜ!」


 天使のように染谷が微笑んでいるからこそ、俺も心からこの感触を楽しめるのだ。

 そんな風にして染谷とイチャコラしていると、不意に染谷が俺の肩に手を置いてそのまま引っ張った。


「どうした?」

「少しジッとしてて」


 そのまま俺は染谷の胸元に優しく頭を抱かれるのだった。

 どうしたのかと思っていると、誰も来ないと思っていたこの場所に近づく足音が聞こえてきた。

 ヒールの音なのでおそらくは女性みたいだ。


「……居た。あなたたち……え?」

「何ですかぁ? 今、彼とラブラブしていたんですけどぉ」

「えっと……あれ?」

「邪魔なんで行ってもらって良いですかぁ?」

「っ……」


 段々とその足音は遠くなった。

 しばらくして染谷は俺を解放してくれたが、どうやら催眠状態の彼女はいち早くさっきの女性に気付いて誤魔化すことにしてくれたのだろう。


「ありがとな染谷」

「ううん、全然良いよぉ。でも……あの人嫌い」

「知ってる人か?」

「知らない人。でも私と真崎君の時間を邪魔しようとしたし……何より」

「?」


“何となく、あの人は敵のような気がしたの”


 見たこともない冷たい表情を浮かべながら染谷はそう口にした。

 その後、俺は染谷と別れて帰路に着いたが……少しばかりさっきの染谷の表情はどうしたんだと気になるのだった。

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