狩りの時間よ!!

「高校生最後の夏休み……くぅ! 勉強漬けってのも嫌だよな」

「そりゃそうだけど仕方なくね? 普通に就職するにもそうだし、そこそこ良い大学に行こうと思ったらやっぱり勉強は大事だろ」


 あと数日もすれば夏休みがやってくる。

 期間にしておよそ一カ月は自由になる時間をもらえるわけだが、今年で高校を卒業する俺たちにとってはある意味大変な時期とも言えるかもしれない。


「ま、高校生最後の夏休みだからこそ勉強もそうだけど思い出作りの為に遊んだりするのも大事だろうな」


 目の前で話していた晃と省吾に俺はそう告げた。

 確かに将来を見据えて勉強をすることも大切だが、やっぱり高校生最後の年だからこそ楽しく過ごしたいという気持ちはあるのだ。


「……まあそうだよな」

「都会の有名大学とか目指さないなら死ぬ気で勉強する必要もないしな。適度に勉強して適度に遊ぶのが良さそうだ」


 まあ結局遊ぶことの方が俺たちにとっては嬉しいのである。

 まだ将来のことに関しては明確なビジョンが立っていないものの、うちの家族みんなは俺が大学に行こうが就職しようが構わないというスタンスだ。

 自由な選択肢をくれたことには当然感謝しているものの、姉ちゃんが大学生活はそれなりに楽しいと言っているので俺としても進学の方を考えている。


(……なんつうか、父さんと母さんにはマジで頭が上がらんよな。子供二人に大学のことまで考えさせてくれることにマジで感謝だわ)


 事あるごとにそれとなくお礼は口にしているが、父さんも母さんも察してしまうのか子供なんだから気にせずに居てくれだなんて言ってくれるので、俺はいつもそんな二人の笑顔を見せられるとちょっと感動してしまう。


「どうした? なんか世の中の全てに感謝してるような顔してるけど」

「うるせえよ。感謝してんだよ世の中に」


 俺ほど感謝を忘れない人間は居ないと思うぞ。

 家族への感謝然り、催眠アプリへの感謝然り、俺の欲望を受け止めるだけでなく発散してくれる彼女たち然り、俺はこの世界の全てを愛しているぜ。


「……ちょっとキモかったわ今の」

「どうした?」

「??」


 何でもないと二人に伝えて俺は席を立った。

 今の時間は昼休みということで、今日も今日とて俺は空き教室に向かう。


「お、来てたか才華」

「うん」


 今日俺の相手をしてくれるのは才華だ。

 既に待ちきれなかったのか胸元を開けさせて俺の興奮を煽るスタイルで、こうして彼女と会えば会うほど段々と大胆というかエッチになっていくように思うのは俺の気のせいではないはずだ。


(……ほんと、最初の内はこうして才華がこんな風になるなんて思わなかったぜ。まあ見た感じ大人しそうな子がもしかしたらエッチなら、なんて願望がなかったわけじゃないんだけど)


 動かずにジッとしていたのが気になったのか才華がすぐ傍に近づいた。

 そのまま俺の手を取って引っ張っていき、いつも使っている椅子に俺を座らせるのだった。


「それじゃあ早速――」

「いや、ちょっと待ってくれ才華」

「え?」


 もう少し俺はこの興奮を高めたかった。

 椅子に座った俺の上に才華を座らせ、正面から学年一と言っても過言ではないその素晴らしい感触に顔を埋める。

 くすぐったそうに身を捩るが決して離れない才華に感謝をしつつ、俺は己の欲望をこれでもかと発散するように好き勝手した。


「なんかさぁ」

「なに?」

「才華って段々エッチになってない? 俺の気のせい?」

「そう思うならきっと甲斐君のせいだよ。私、甲斐君以外にこんなことしたくないし君だから喜んでほしいんだし」

「……真っ直ぐ言われると照れるんだけど」

「言うよ。この気持ちを伝えることに我慢する必要なんてないし……何より私は甲斐君の為に生きているの。君が喜んでくれることを率先してやるのは私の生きる意味、そもそも甲斐君が俺の為にって言ってくれたんだよ?」

「あ~そうだったなぁ。くぅ! 良い心がけだぜ才華ぁ!!」


 その後、俺はしばらく才華の感触だけを楽しんだ。

 そうなると当然溜まりに溜まった欲望を解き放つ必要があるため、才華に頼むと伝えるだけで彼女は何をすべきかを理解しているように動いてくれた。


「……ふぅ」


 今日も今日とて大変満足出来た。

 まだ昼休みが終わるまで十分程度あるのだが、才華はずっと俺の腕を抱くようにして身を寄せてきている。

 まるで恋人同士のイチャイチャ空間と言えなくもないが、流石に夏ということもあって若干暑い。


「ねえ甲斐君」

「なんだ~?」


 それでもこの気持ちの良い感触から離れることは出来ない。

 完全に気を抜いていた俺の耳元で、才華はこんなことを聞いてくるのだった。


「どうして本番はしないの?」

「え? ……あ~」


 どうして本番をしないのか、思えばこうしてこの問いかけをされたのは何気に初めてかもしれない。

 以前に本番する? なんてことを言われはしたが、その時はすぐにするつもりはないって流したようなものだしな。


「しないよ。なんでかは……まあ色々と理由があるんだけど」

「なに?」


 グッと才華は顔を寄せてきた。

 どうしてそんなに食い気味なんだって気はしないでもないが、俺としては近くに居る彼女から香る匂いが良すぎて特に深く気にはしなかった。


「いや、俺も興味はあるんだぞ? やっぱりこういう力を持ってて好き勝手すると豪語したからにはやる価値のある行為だと思う……でもなぁ」

「でも?」

「もしも万が一があった時、俺にはまだ責任を取る能力はないし何より……お前たちに悪いと思うからだ」

「……悪くないよ」

「そう言ってくれることは分かってる。でも今の状態だからこそ、だ」


 正直なことを言ってしまえば、今の状態の彼女たちにとって俺が何をしたところで問題がないことは分かっている。

 それでもやっぱり引くべき線引きは必要だと思うのだ。


「ま、今更俺が何を言ってんだって感じだとは思うけど。それでもやっぱりそこだけは線を引かないとな?」

「……私がこんなことをしても?」

「お、おい!?」


 俺から離れて才華は立ち上がった。

 そのまま正面に立った彼女はスカートを脱ぎ、下着さえも取り払ってしまった。


「こんなになってるのに? 今の私が望んでいるのにダメなの?」

「っ……」


 ごくりと目の前に広がる秘境に唾を飲んだ。

 たとえ催眠状態であっても彼女の体は刺激を感じるし、何なら俺との行為を通してその体が反応を見せるのも当然だ。

 絵夢に関してはおもちゃを使う関係上良く目にしては居ても……むむむっ、やはり俺にはまだこれは刺激が強すぎる。


「……ヘタレ」

「うるさい!」

「ヘタレ!」

「うるさいって!! マジで襲うぞお前!!」

「来て?」

「……………」


 この子、あまりにも強すぎる。

 一応その後も似たやり取りを続けたが何とか俺は自分を抑え込み、才華からの猛攻を潜り抜けることは出来た。

 とはいえ……才華だけではなく茉莉もこうやって似たアピールをしてくることは増えてしまった。


「……俺、本当に我慢できるのか?」


 やっちまっても良いんじゃねえか? なんて心の中の悪い俺が囁くこともないわけではなく、何かきっかけがあったら俺は自分の中で敷いたレールを飛び越えそうになるので怖い。

 それもこれもあまりに彼女たちが魅力的過ぎるのが悪い。


「またね?」

「……おう」


 マズイ、変に意識しだすと才華の一挙手一投足に色気を感じてしまう。

 発動した賢者タイムというバフを更なる興奮というデバフで打ち消してきた才華に僅かな恐怖を抱きつつ、放課後になったことで俺はすぐに学校を出た。


「……?」


 そんな時、ふとスマホが震え誰かと思ったら姉ちゃんだった。


『ちょっと買い物するんだけど付き合ってくれない?』


 そのメッセージに俺は良いよと即答した。

 待ち合わせ場所は駅前で、それなりに早く向かうと姉ちゃんがスマホを弄りながら待っていた。


「姉ちゃん!」

「お、待ってたよ」


 姉ちゃんに呼ばれたらすぐにでも参上しますとも。

 それから当初の目的である買い物になるわけだが、流石姉ちゃんも女性ということで買い物は長かった。


「次はこれと……あれもかな。ねえ甲斐、アンタ退屈じゃない?」

「退屈だけど最後まで付き合うから大丈夫」

「……そう。ありがと」


 クスッと姉ちゃんは笑って買い物を再開した。

 そうして俺は姉ちゃんの買い物を見守りつつ、ちょっとトイレに行きたくなったので席を外した。

 少しして姉ちゃんの所に戻った時、俺はおやっと首を傾げた。


「……誰だ?」


 姉ちゃんは知らない男の人と話をしていた。

 ただ……姉ちゃんの様子はどこか嫌そうというか、相手の男に対して嫌な感情を持っていることが何となく俺には分かった。


「姉ちゃん?」

「甲斐? おかえり」

「うん? 彼は誰だい?」

「アンタには関係ないでしょ」


 姉ちゃんはすぐに俺の傍に駆け寄った。

 一体この人は誰なのか、そう疑問に思った俺に姉ちゃんが教えてくれた。


「彼、大学の同級生なのよ。最近やけに話しかけてきて面倒で……嫌ね、まさか甲斐の前で会うことになるなんて思わなかったけど」

「ふ~ん?」


 どうやら知り合いらしい。

 まあ知り合いとはいえ知り合いたくない相手なのは間違いないらしく、姉ちゃんはただでさえ小さい体を縮めるように俺に寄り添った。


「真崎さん、彼とはどういう関係だい? まさか恋人なんて言うんじゃ――」


 あ、こいつ面倒なタイプだなとすぐに思った。

 こいつに対して色々と思ったわけだが、あの姉ちゃんをここまで嫌そうな顔にさせる時点で俺にとっては敵同然だ。

 それに……姉ちゃんに向けるこいつの視線にどこかいやらしいものを感じた。

 まさか姉ちゃんに対し何かしようと考えているのではないか、そんな考えに至った時には既にスマホを構えていた。


 相棒、狩りの時間だ。

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