百合百合鑑賞会だぜぇ!!

 放課後になると俺の過ごし方は大体限られてくる。

 友人たちと遊ぶか、適当に一人で出歩くか、家に帰ってのんびりするか、そして催眠に掛けた彼女たちとイチャイチャするかのどれかだ。

 最近では彼女たちと過ごす時間の方が圧倒的に多いわけだが、それは今日も同じことだった。


「……いやぁ良いねぇ」

「そう?」

「あ、ちょっとくすぐったいよぉ愛華」


 俺の目の前では仲良く体を絡ませる二人の美女、佐々木と染谷の姿があった。

 そもそも今日は彼女たちと会う約束はなかったが、佐々木の方からまたお茶でもどうかと連絡をもらったのである。

 以前に話をした喫茶店でちょっと会話をした後、俺は彼女たちを催眠に掛けてこうして染谷の家に転がり込んだわけだ。


「麗しき百合の園……リアルで見る美少女の絡みも良いもんだぜ」


 佐々木も染谷も男に対し大きな恐怖心を持っている、そのことがあまりにも大きくて忘れていたが彼女たちはお互いに付き合っている百合カップルだ。

 なので二人っきりの時はどのように過ごしているのか見せてほしい、そんな提案をした俺の目の前で二人は見事実演しているのだ。


「ちょ、ちょっとそんなことまでやるの?」

「何言ってるのよ。今更でしょうこんなの」


 俺の視線があるからか、若干恥ずかしそうに染谷は佐々木の手を受け入れている。

 佐々木の細い指が染谷の胸に沈んでいき、染谷の体がビクンと震えては俺を興奮させてくれる。

 俺自身が触ったりしているわけではないのに、こうして実際の百合カップルの姿を見れるというのは悪くないものだ。


「なんか……百合の間に挟まる男は許されないって言葉は再認識したわ」

「ネットとかでよく言われてるわねそれ」

「ぅん……指、冷たいよぉ」


 冷静に答えてくれた佐々木とは違い、染谷の悩まし気な声がやけに色っぽい。

 この先をもっと見せてほしい、それこそ二人で愛し合う極地の姿が非常に気になるがこれ以上見ていると俺自身が耐えられなくなりそうだったのでやめてもらった。


「愛華ったらノリノリで揉んでくるんだもん」

「良いじゃないの。だってこれを真崎君も期待してたんだし」


 大いに俺は頷かせてもらった。

 しかし……確かに彼女たちの絡みは最高だったし、何ならずっと見ていたいと思わせる芸術的な美しささえあったように思える。

 だがああやって同性で想いを繋いだ根底にあるのは男への恐怖、そしてその恐怖を埋め合わせるための結果だと思うと何とも切ない気もしてきた。


「どうしたの? なんか浮かない表情だけど」

「うんうん。悩みでもあるのかなぁ?」


 気分の沈むことを考えていたからか気にさせてしまったようだ。

 俺は何でもないと頭を振り、用意してもらったお菓子を口に含んでモグモグとその味を楽しんだ。

 二人とも開けた服を直す気は更々ないらしく、俺の両隣に座った彼女たちは目のやり場に困る状態のままジッと俺を見つめてきた。


「……悪くないねぇやっぱり」


 とはいえ、先ほどまでイチャイチャしていた百合カップルに挟まれるというのもやっぱり悪い気はしない。

 ぐふふと気持ち悪い笑みが出そうになったのを何とか堪え、俺は以前にも聞いたことがある問いかけを再び彼女たちにした。


「二人は家族関係は良好なんだよな?」

「えぇ。全然大丈夫よ?」

「うん。パパもママも凄く優しいよ?」

「そっか。なら良かったぜ」


 親しくなった三人の内二人が家族関係に問題を抱えていたので、どうも彼女たちに対してもそれを警戒してしまうのだ。

 今の彼女たちは俺に嘘を吐くことは出来ないので、彼女たちが家族との問題を抱えていないことは証明された。


「他は? 何かないのか?」

「困ってることはないわ」

「強いて言えば……まだ真崎君とどう接すれば良いのか分からないくらいかなぁ」


 それに関しては慣れてくれとしか言えなかった。

 とはいえ催眠状態の彼女たちからはやはり俺に対して拒絶の意志は見られず、胸元などの恥ずかしい場所を凝視ししてもちょっと恥ずかしがるくらいなのは大きな進歩と言えるのではなかろうか。


「でも……ふふ、やっぱり真崎君は優しい人ね」


 ポンと佐々木が俺の肩に手を置いた。


「優しい?」

「えぇ。だって今の問いかけは私たち二人のことを心配してくれたからでしょ?」

「……それは確かにそうだけど。だからって優しいとはならねえだろ。それを帳消しにすることを今こうしてやってるわけだからな」


 まあもう何も遠慮なんかするつもりはないって感じにはなってきているけどな。


「にしても二人ともやけに素直だな。茉莉たちもそうだったけど」

「茉莉?」

「誰、その名前」


 俺はまた何でもないと首を振った。

 二人とも気になったのかジッと見つめてくるのだが、特に染谷の視線がどこか圧を感じさせる。

 それでも俺が何も言わないと分かったのか小さくため息を吐き、机に置かれていたジュースを飲んだ。


「……ふぅ、まあでも何となく分かるかなぁ。真崎君の優しさを受けた女の人の名前ってところかな?」

「だから優しさとかねえんだって」


 そう何度も優しさって言葉を使わないでほしい、今までやってきたことは全部俺が優しいからだと勘違いしてしまいそうになるからだ。

 俺の様子に隣でクスッと笑った佐々木が言葉を続けた。

 その続いた言葉はある意味、俺にとって少しばかり気になる内容だった。


「私たちが素直だって真崎君は言ったけど、単純に疑えないのよ。目の前に居るあなたは決して私たちに酷いことをしない、逆に包んでくれる何かを秘めているって思わせているから」

「……どういうことだ?」


 佐々木は言葉を続けた。


「上手く言葉にすることが出来ないけれど、今の私たちは真崎君の持つ本質を見ている気がするの。普通は人の心なんて読めないし何を考えているのか分からないのが普通だけど、何故か今だけは真崎君がどんな人なのか分かるの」

「……えっと」

「ごめんなさい。私も何を言っているのか分からないわ。でもね、この人には心から信頼しても良いって何かが囁くの。だから今の私たちはこうしてあなたに全幅の信頼を置いている」


 それはあまりに都合の良い考え方ではないかと思ったが……俺からすれば特にマイナスな意味は込められていないので普通に照れてしまった。

 つまり今の状態の彼女たちはどうしてか俺のことを全面的に信頼しており、何をされても許せると思っている……そういう解釈で良いのか?


「催眠の影響か? まるで洗脳と言えなくもないけど……でも悪い感情を持たれるよりは良いのかな」


 それはついつい考えに考えた一言だった。

 だがその一言に対し佐々木は首を振り、染谷に関しては強く言葉を放った。


「洗脳だなんて言わないでよ。心から信頼していることに対して、そんな安っぽい一言で片づけてほしくない」

「お、おう……」

「愛華も言ったけど私たちだって良く分からない。でも目の前の真崎君は嘘を言っていなくて、本当に心の底から私たちのことを心配してくれたことは分かるの。それだけで今は十分じゃん」

「……つまり難しいことは考えるなって?」

「そういうことぉ♪」


 それで良いのかよ、なんて思ってしまうが二人から香る甘い匂いに流されるように本当にどうでも良くなってくる。


「……あっつ!」


 ただ、俺はポケットに入れていたスマホが猛烈に熱くなっていることに気付いた。

 端末が熱くなること自体は慣れっこなので気にすべきは残りの電池量だが、十二パーセントということでそろそろ終わりが近い。


「そろそろ帰ら――」


 ないと、そう言葉を続けようとした時両方の耳元で囁かれる。


「ねえ真崎君、今からやりましょう?」

「早速私たちに男性に慣れるためのこと、してほしいなぁ?」


 彼女たちの言葉に俺はギリギリまでここに居座ることを決めた。

 諸々のことを一通り高速で済ませた後、俺はすぐに染谷の家から出た。


「……ふぅ」


 いやぁ大変良き時間を過ごさせてもらった。

 百合の間に収まる男は許されん、だが俺なら許されるのだと無理やり納得してしまえば何も思うことはない。

 そもそも二人が俺を挟んできたのだから仕方ないと言える。


「流石に奉仕をしてもらうのはまだ早そうだけど……なんで二人ともあんなにエロいんだろうたまんねえなぁ」


 俺は先ほどまでのことを思い返しながらホクホク顔で家に帰るのだった。

 もちろん姉ちゃんにどうしたのかと気味悪く思われたのは言うまでもない。

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