ちょっと不穏な気配がするぜぇ?
「……くっそぉ、赤点は回避したけどキツイって」
俺の目の前で晃が頭を抱えていた。
今日は一通りのテストが返ってきたということで、教室は正に阿鼻叫喚といった様子だった。
しっかりと勉強した結果が出て喜んでいる者、勉強はしたが振るわなかった者、はたまた点数が足らずに補習が決まって悲鳴を上げる者と様々だ。
「おい省吾はどうなんだよ」
「ふっ、完璧な仕上がりだ」
「なん……だと?」
省吾は比較的勉強が出来るタイプなので余裕そうだった。
俺も結果を見せてもらったのだが、赤点なんて全く縁がないほどに高い点数だったのは言うまでもない。
悔しそうに晃は睨んでいるが、そもそも学力では勝てないと分かっているらしくすぐにため息を吐く。
「んで? 余裕そうにしてるお前はどうなんだよ」
「よく聞いてくれたじゃねえか」
余裕そうにしていたつもりはなかったがどうもそう見えたらしい。
俺は自信を持ってテスト用紙を二人の前に出すと、省吾は驚いた表情になり晃は信じられない様子で俺を見つめた。
「お前……そんなに勉強できたっけ?」
「忘れたか? 俺は茉莉と才華の二人と勉強したんだぜ?」
そう言うと二人はハッとしたような表情になり睨んできた。
「リア充がよお!」
オラァと声を上げて背中を叩かれたもののそんなものは痛くも痒くもない。
余裕な表情を崩さない俺を見て省吾がこんなことを聞いてきた。
「女子と勉強をするとやっぱりそんな風に結果が出るのか……なあ、実際の所どうなんだ?」
「モチのロンだぜ。二人に教わった公式や解き方が問題を見るだけで浮かんでくるんだよ。やっぱり勉強とはいえ楽しい記憶ってのはしっかりと脳に刻まれるらしいわ」
本当に今言葉にした通りだと思っている。
もちろん分からない問題はあったものの、しっかりと二人に教わったことをこうして結果に残すことが出来たわけだ。
(煩悩は世界を救うのかもしれねえなぁ)
どんな公式だったか、それを思い起こす時に俺の脳裏に浮かんだのは二人の豊満な肉体だった。
勉強を教わる傍らで視界の全てが幸せだったのだ――そんな環境の中で勉強して結果を出せないなど男ではない。
「……?」
友人たちと言葉を交わす中、ジッと茉莉が見つめてきていることに気付いた。
俺の様子からテストの結果が望んだ形だったのは気付いているはずだが、ああやって気にしてくれるのも本当に嬉しいことだ。
俺はグッと親指を立てると茉莉はクスッと笑みを浮かべた。
「……なあ甲斐」
「う~ん?」
「お前が相坂たち仲が良いのは悔しいけど……何かあったら言えよ?」
「分かってるよ」
ほんと、何だかんだ二人は優しい最高の友人だよ。
さて、何故今二人が俺を心配してくれたのかを説明すると今日の朝にとあるものを二人に見られてたのだ。
学校に来る途中で一緒になりそのまま下駄箱まで来たのだが、また俺の靴箱の中に紙が入っていた。
“身の程を知れクソ野郎が。これ以上調子に乗ったらタダじゃ済まさねえ”
なんてメッセージが書かれた紙だった。
以前に書かれていた文字と書き方が同じだったので同一人物だとは思っているのだが、まあやっぱり心に余裕があるからこそ気にはならない。
「……つってもな」
まあとはいえ、こうして俺が気にしなくても友人たちが心配してくれるのだから早々に何かした方が良いのは間違いない。
「ま、何かあったら必ず言うからさ」
「分かった」
「絶対だぞ?」
次にまたこのようなことをされたら動くことにしよう。
正直なことを言えば高校生にもなってこんな陰湿なことをするんじゃないと思わなくもないが、相手が誰か予想出来るだけマシか。
(今も睨んでるしなぁ……絶対あいつらだろ)
なんかこうやって睨まれ続けるのも飽きてきたしな……やっぱりそろそろ夏休みに入るわけだし、その前に区切りはどうにか付けておくか。
その後、俺は特に彼らのことを気にすることはなかった。
そうして時間が過ぎ昼休みになったわけだが、やはりこうしてテスト結果が返ってきたからこそ二人と話をすることに。
「茉莉、才華もマジでありがとな」
「ううん、全然良いよ」
「むしろ力になれてこっちがありがとうって気分」
昼休みになってすぐ俺は二人を食堂に誘った。
二人とも快く応じてくれ、俺たちは三人とも弁当を持参しているにも関わらず広いということでここに来たのだ。
「めっちゃ点数良かったんだよ。ここまで点数が良かったのは初めてだ」
「そうなんだ?」
「なら、またこれからも時々勉強する?」
才華の言葉に茉莉がそれいいねと頷いた。
俺としても今回の定期テストだけでなく、三年生なので将来に向けての勉強もしていかないといけない時期なのでその提案に頷きたかった。
「良いのか?」
「私は良いよ」
「私も良い」
俺と彼女たちの勉強会はまだまだ続きそうだ。
しかし彼女たちとの勉強会となるとどうしてこうもエッチな響きに聞こえるのだろうか……それはきっと俺の心が薄汚れているからに違いない。
「次は絵夢ちゃんも誘う? 範囲は流石に違うけど、みんな同じ空間で勉強できるのも良いと思うし……何より寂しがりそうだから」
「うん。絵夢も誘おう」
ということで絵夢も加わることになりそうだ。
「……しっかし目立つな」
やはり茉莉と才華の二人と居たらどこでも目立つのは同じらしい。
教室よりも食堂の方が圧倒的に人の数が多く、二人と俺がどんな関係性なのか気になるような視線もいくつかあった。
俺はそんな視線を受けながらも食事の手を進めた。
「どうした?」
そんな時、俺は二人がどこかソワソワしたように俺を見つめることに気付いた。
こうして二人と一緒に居るから分かるように、今日は誰にも予約催眠を使っておらず奉仕してもらう時間は設けていない。
なのでこのまま弁当を食べ終えたらそれまでなのだが……どうしたんだろうか。
「ねえ甲斐君……えっと」
「今日はしないの……? って、どうしてこんなことを?」
どうも二人とも要領を得ない様子だ。
茉莉も才華の様子に俺は首を傾げながらも、こうやって二人と時間を作ったのに何もしないのはダメだなと俺は考えを改めた。
次の授業が始まるまで時間の余裕があるため、俺は意気揚々とスマホを取り出して二人を催眠状態にした。
「よしっと。それじゃあ空き教室に行くか」
「うん♪」
「行く♪」
二人とも俺の言葉に頷いて立ち上がった。
そのまま俺は二人を連れていつもの空き教室に向かうのだが、やっぱり催眠状態とはいえどこか嬉しそうにしてくれると俺も気分が良い。
荷物を手に持ったまま空き教室に入るとすぐに奥の方へ手を引っ張られる。
「キス、しよ?」
「したい。早く」
「待て待て、落ち着けって二人とも」
いやぁこうして二人に求められるのは本当に悪くない気分だ。
しかし最近になって良く思うようになったことがある――それは催眠状態の彼女たちは確かに正直な言葉を口にするが、まるで普通の時に比べて何か開放的になったように見えなくもない。
「お、おぉ……」
両サイドから二人に抱き着かれ、頬にちゅっちゅとキスの雨を降らされることに俺はとてつもない興奮を覚えていた。
気になることはどんどん増えていくとはいえ、やはり今はこうして彼女たちから齎される至福の時間に浸るだけで良い。
「……ふぃ~」
椅子に座る俺の前に膝を突く茉莉と才華、こうして彼女たちを見下ろすと妙な征服感を抱いてしまう。
だが今までのやり取りを考えると征服感なんてものは場違いで、ただただ彼女たちと触れ合うこの瞬間に俺は幸せを感じている。
「なあ二人とも」
「どうしたの?」
「??」
顔を上げた茉莉、口いっぱいに頬張りながら目線だけを上げた才華……二人の顔を見ながら俺はこんなことを聞くのだった。
「すげえ今更なんだけど、この行為を嫌だと思ったことはないのか?」
「ないよ?」
「ない」
「そ、そうか……」
あまりの即答に俺は面食らってしまった。
驚いた俺を見つめながら二人は更に言葉を続けた。
「最初の内はどこか困惑はあった……と思う。でも今は違うよ?」
「そう、この時間が好き。だから甲斐君は何も気にしなくていいの」
何も気にしなくていい、その言葉にちょっと俺は弱いぞ?
ポジションを変わるように才華がしていたことを茉莉が引き継いだ。
「甲斐君、本当に気にしなくて良い」
心地の良い刺激を受けながら才華が呟く。
「何かを心配に思って私たちに何もしなくなったらそれこそダメだよ」
「才華?」
「こんな風にしたのは甲斐君で、私たちもそれを望んでいるんだから……だからどうか、これからも甲斐君の世界に私たちを居させてほしい」
それは正にとてつもない誘惑を孕んだ言葉だった。
まるで彼女たちの方から俺を逃がさないと言わんばかりの言葉に、俺はただただ浸ることを選んだ。
「物好きだな。こんなクズにそんなことを言うなんて」
そう伝えると何故か才華はクスッと笑った。
そして何かを思い付いたようにこんなことを彼女は口にした。
「本番、する?」
「しない」
そこだけは流されない俺は紳士なんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます