うっひょ~~~! やっぱりこれだぜ!!
「その節はありがとうございました」
「いえいえどうも……えっとぉ」
ある喫茶店の一角にて、俺は佐々木と染谷の二人と向き合っていた。
あの後すぐに別れるものかと思っていたのだが、染谷が俺の手を離さずに居たのを見ていた佐々木がお礼をしたいと言い出した。
『いや良いよ。それじゃあ俺は……』
そう言って逃げようとしたが……まあ結局その誘いに乗ったわけだ。
こうして俺を捕まえた以上、もし中途半端な形で逃げたらまた出会った時に何かしら声を掛けられる可能性もある。
俺としては彼女たちのような極上の美女から声を掛けられるのは嬉しいのだが、それでも手が出せないと分かっている時点で何もメリットがないのである。
『二人ともおっぱいでけえなぁ……』
紅茶を飲みながら俺はそんなことばかり考えている。
以前に裸になった二人を見ていたのでそのスタイルを余すことなく知っているわけだが改めて見ても本当に破壊力がある。
まず佐々木に関しては茉莉と同等くらい、そして染谷に関しては才華と同じくらいな気もする。
「実は元々あの時のお礼がしたかったのは事実なの。あなたに会えたら必ずお礼をしようってフィリアとは話しててね」
「そうだったのか」
「うん。だからありがとう」
「……どういたしまして」
いやはや、やっぱり美人の笑顔は良いモノだ。
さっきは彼女たちに対して一切何もやる気がないとは言ったものの、やっぱりこのまま逃がすには惜しい逸材だ。
ついついスマホに手が伸びそうになるが、どうにかそれを鋼の精神で抑え込む。
しかし何かこう……彼女たちから好意的な言葉をもらったり、或いは行動をされると別に良いんじゃねえかと思ってしまうからどうしたものか。
「でも本当に良かったんだぞ? わざわざ君たちが苦手な男である俺にお礼を言うためとはいえさ」
「え?」
「どうして私たちが男性が苦手だって知ってるの?」
思わず俺は心の中で馬鹿野郎と自分を罵倒した。
彼女たちが男に対して恐怖心を抱く百合カップルというのは紛れもない事実だが、それを俺が聞いたのは催眠状態の彼女たちからだ。
つまり、今俺がこの話題を出したのは彼女たちからしたら違和感を感じるはずだ。
「何となく……仕草っていうか、あの時めっちゃ怖がってただろ? だからそうじゃないかって思ったんだ。俺の思い込みなら悪い」
そう無難な答えを口にすると佐々木はそうなのねと頷いた。
ただ染谷に関しては別に疑っている様子は見えないのだが、ジッと俺を見つめる視線は固定されたままだった。
「謝らないで。でもそれは間違ってないの……過去に色々とあって、少し苦手意識を持っているだけだから」
「……そうか」
「あぁでも、誤解しないでほしいのはあなたに苦手意識を持っているわけじゃないからね?」
「それはつまり、俺は男だと思えないほどに頼りないってか?」
「ち、違うわそうじゃないの!」
ちょっとだけ今の空気を払拭したくて口が滑ったわけではない。
しかし俺の言葉に慌てる彼女の様子に、俺だけでなく染谷もクスクスと肩を震わせるように笑った。
「あはは、でも珍しいなぁ。愛華がそんな風に異性と話をしてるのすっごく久しぶりに見たかもしれないねぇ」
「フィリア!」
「めんごめんご~」
おうおう、百合カップルがイチャイチャしてやがるわ目の前で。
というか佐々木はともかく染谷ってリラックスすると結構話し方が間延びするような感じになるんだな。
「……良いねぇ」
異国の血が混ざった巨乳美女は結構なオタク趣味でのんびりした性格、こういってはなんだが解釈一致みたいな部分があった。
以前はやっぱり催眠下ではあってもかなり緊張していたんだろうことが分かる。
染谷に対抗する佐々木は純日本人らしい黒髪だが、こうして二人が並んでいると黒と銀で本当に綺麗だ。
「けどフィリアだってそうじゃない。あの後から家族以外の異性と今まで手なんか全く握ったことなかったじゃないの。だから私はあんなに驚いていたのよ?」
「え? そうなのか?」
やり取りにニヤニヤしていた俺だったが流石にそれは気になった。
染谷に目を向けると彼女はどこか照れながらも頷いた。
「実はそうなんだよぉ。私、もうしばらくお祖父ちゃん以外の異性とは手を握ったことがなかったの。女子高だから学校でもそんな機会はないからね」
「……ふ~ん?」
そうなってくるとどうして俺なら大丈夫なんだと疑問が残る。
最初は俺が彼女たちに触れた時には拒絶されたし、彼女たちに対して俺が明確に何かをしたということもない。
今回のお礼の発端となった出来事を鮮明に覚えていたのは予想外だけど、だからってたったあの一回のことで信頼してくれたってのか?
「でもあなたのことは……良く分からない。分からないけど……なんでかな、信用して良いって思えたの」
「それは……なあ染谷、お前騙されやすいって言われない?」
「酷いなぁ真崎君!」
今度は俺と言い合いを始めた染谷を見て佐々木が笑った。
俺としてもまさかあんな出会いだった彼女たちとこんな風に和やかに話が出来るとは思わなかったのでどこか嬉しい気持ちだった。
(……けど、こんな風に笑ってはいても一度犯罪の被害者になるかもしれなかった子たちなんだよな。俺がゲームとか友達と遊ぶばかりだった頃にこの子たちはそんな大変な目に遭っていたわけだ。ほんと、この世の中ってこういう子たちにばかり牙を剥くよなマジで)
茉莉にしても絵夢にしても才華にしても……傲慢な考えかもしれないけど、本当に彼女たちの境遇に気付くことが出来て良かった。
「ふふ、良いわねこういうの。でもフィリアが信用していいかもって言ったのは私も同じよ。フィリアと同じでどうしてかは分からないけれど、でも真崎君のことは信用できると思うわ」
「……お前もお前だ。マジで騙されないように気を付けろよ?」
「分かってるわよ」
俺、彼女たちのことがちょっと心配ですわ。
その後、他愛無い話を二人と交わしてから店を出た。
「久しぶりに同年代の異性とこんなに話したなぁ。真崎君もカム兄さんが好きなことも知れて良かったよぉ」
カム兄さんというのは俺と染谷が読む漫画に出てくるキャラクターのことだ。
以前に助けに入った時の台詞もそのキャラクターのものであるため、染谷とはその話で少しばかり盛り上がった。
『……私もちょっと読もうかしら』
会話に参加できなかった佐々木がちょっと可哀想だったが、これを機に漫画のことを知ってもっと染谷と仲良くなってもらいたいものである。
「ねえ、もう少しだけお話しよぉ?」
「そうね。これも良い機会だし」
というか二人とも、ちょっと距離間バグってないか?
今日一日話したにしては妙に仲良くなりすぎている気もする……とはいえ、こんな風に仲良くなってしまうと俺としても抑えていた悪戯心がムクムクと顔を出しそうになってくる。
(……ま、ちょっとだけお触り……ちょっとだけな)
二人とも、俺のことを信用してくれてありがとう。
でも俺はやっぱり催眠アプリを手にした外道野郎なんだ……だから許してくれと心の中で呟き俺は催眠アプリを起動した。
「あ……」
「……っ」
二人ともしっかりと催眠状態になったようだ。
ちょうど近くに公園があるということで、俺は二人を連れてそこに向かい木陰に移動した。
俺を見つめたまま全く身動ぎしない二人を交互に見ながら、やはり綺麗で豊満な体をしているなと頷いた。
「なあ佐々木に染谷、さっきは俺のことを信用できるって言ってくれてめっちゃ嬉しかったぜ。けど俺ってこういう奴だから悪いな? まあでも、ちょっとだけしか触らないから許してくれ。服の上からだぜ」
「えぇ」
「分かったよ」
二人とも頷きはするが、やはり染谷は喋り方が緊張したものに変わったな。
お触りの許可が出たということで俺は二人の胸元に手を近づける……だがもちろん少しでも嫌そうな雰囲気を感じたら止めるつもりだ。
「……おぉ」
ゆっくりと服の上から触れてみた。
やはりとても柔らかくそして温かなその感触は素晴らしいもので、今日は休日ということもあって茉莉たちに触れられないと思っていた分感動してしまった。
「くすぐったいわ」
「うん。それに恥ずかしいよ」
「……あの時みたいに泣いたりしないんだな?」
そう問いかけると二人は頷いた。
「大丈夫よ。言ったでしょ?」
「真崎君のことは信用してるって」
胸を揉まれながらの二人ではあるが、俺を真っ直ぐ見てそう口にした。
少しだけ力を強くしても二人は決して嫌がったりはせず、俺にされるがままで一度たりとも文句を口にすることはなかった。
「……もしかしたらこうやって男に慣れるために触れる機会を増やすのもありか?」
「それは……是非お願いしたいわ」
「そうすれば真崎君ともまた会えるよね?」
「お、おう……」
二人ともそうは言ってくれたが残念ながら記憶には残らないので残念だ。
その後、まさかの染谷から直に触っても良いと言われたものの流石にこれ以上は俺の方が発散したくなるので遠慮しておいた。
「ねえ、せっかくだし連絡先交換しよぉ?」
「私も良いかしら?」
別れ際、彼女たちからそんな提案を受け連絡先を交換した。
その日の夜、俺はアドレス帳に載った女子たちの名前にずっとニヤニヤして姉ちゃんに気持ち悪いと言われるのだった。
“催眠状態の相手は嘘を吐けないため、あなたにどこまでも正直です。
しかし、そんな相手を前にしてあなたはどうですか? あなたの前には絶対に言うことを聞いてくれる相手が居るのです。
そうなるとあなたは嘘を吐く必要もないですし良い姿を見せようと格好つける必要もない……そうなるとあなたもこうはなりませんか――正直な姿に。
催眠状態の相手は逆らうことは出来ない、そしてそんな相手を前にしたあなたにはきっとあなたの持つ本質が貌を出すことでしょう。
その貌はどこまで行ってもあなたの本当の姿……そのあなたを催眠に落ちた相手はどこまでも見ていますよ?”
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