不安なんてもんはないぜぇ!

 どこかのマンションにて、一人の女性が悲鳴を上げて目を開けた。


「っ……はぁ……はぁ」


 荒く息を吐きながら目を開けた彼女はうっと声を漏らして口元に手を当て、そのまま嘔吐をするかと思われたがなんとか堪えた。


「くそ……またあの夢……」


 彼女が見たのは不思議な夢であり、同時に実体験した悍ましい記憶だった。

 かつて街中で話しかけてきた一人の男、その男との出会いが全ての始まりだった。


『くくくっ、中々良い体をしてるなぁ。ちょいと俺のおもちゃになってもらおうか』


 耳障りなネットリとしたその声に嫌悪感を抱く間もなく、彼女は男の持つ何かしらの力によってその体を蹂躙された。

 元々自分が何をされたのか、どのようなことをしたのか覚えてはいなかったものの、無意識にでも体が抱いた嫌悪感が段々と彼女の意識を確かなものにしたのだ。


『本当に最高の力だぜ。なあお前、お前は何も覚えてねえだろうがなぁ。俺を一目見て見下したお前は今俺のおもちゃなんだぜ? お前が知らないうちにその体は俺が好き勝手してんだよ。知らねえうちに俺のものをその体の中に受け止めてんだよ!」


 意識がハッキリしたとしても彼女は抗えなかった。

 やめてほしいと言葉にしたくても喋れず、ただただ齎させる気持ち悪さを永遠に耐えているだけだった。

 しかしその苦痛の日々は当然終わりを迎え男は警察に逮捕され、彼女は似た境遇を味わった女性たちとの繋がりを得た。


『あれは一体なんなの?』

『分からない。でも誰も信じてはくれない。あの男が不思議な力を使ったって言っても信じてくれない!』

『そうよ! 明らかに私は正気じゃなかったもの。普通ならあんな底辺男に体を触らせたりしない!』

『気持ち悪い……男なんてみんな気持ち悪い死んでしまえ!』


 それは正に怨嗟の声だった。

 彼女を含め女性たちが味わったのは間違いなく尊厳の蹂躙と屈辱だ。

 何が原因であのようなことになったのかを解明出来ていないし、男が何をしたのかもやはり不明のままだ。


「くそ……くそ!」


 だからこそ彼女は憎み続ける。

 そして同時に思う、もしかしたらこの世界のどこかに自分と同じような境遇を味わっている女性が居るのかもしれないと。


「もしも見つけたら許さない……女を不幸にする力を持った男なんて絶対に許さない。必ず後悔させて地獄に叩き落としてやる!」


 彼女はそう強く宣言した。

 まあとはいえ、彼女のような境遇の人間がこのようになってしまうのは仕方ないことではあるのだが、この出来事が彼女にとって少しばかり面倒な考えを植え付けた。


「男なんて屑よ。そんな男に媚びへつらう女も同じ……たとえ私みたいな状態でなかったとしても」


 彼女が思い出したのは数日前のことだ。

 ある喫茶店にて一人の男子高校生に対し三人の女子が親し気に話していた光景を目にしたのだが、その時に彼女は女子たちに対して親近感のようなものを感じた。

 それが何であるかまでは分からなかったのだが、もしかしたらと思った気持ちが完膚なきまでに裏切られたのである。


「あの子たちだってきっとそうよ。私みたいな状況になれば嫌でも男に対して嫌悪感を抱いてあんなこと出来なくなる……きっとそうなのよ」


 男への憎しみはもちろんだが、そんな男と仲良くしている女にまで憎しみを向ける辺り彼女は相当だ。

 だがやはり彼女をこうさせたのもまた一人の犯罪者であり、誰も彼女のことを悪くいうことは出来ないのだ。







「……はっくしょい~~~や!!」

「わお。特大のくしゃみだね」

「風邪?」


 目の前に座っている茉莉と才華に心配されたが、ちょっと鼻がムズムズしてくしゃみが出ただけなので問題ない。

 以前みたいな風邪の兆候もないし、もしかしたら誰かが俺の噂をしているのかもしれないな……最近モテモテだしぃ?


「……はぁ」


 何がモテモテだよ馬鹿野郎、そんな気持ちを込めて俺はため息を吐いた。

 催眠アプリを使って茉莉たちの体を好き勝手する中、彼女たちと意思疎通が図れるだけでなく俺に好意的なせいもあってモテモテだと勘違いしそうになる。

 まあ今日みたいに茉莉の家に集まっている時点でリア充なのかもしれないが。


「……ふわぁ」


 ちょっと気を抜くと今度は欠伸が出てしまった。

 さっきも言ったが今俺は茉莉の部屋にお邪魔しており、才華も交えて一つのテーブルに勉強道具を広げて向かい合っている。

 夏休み前の定期テストに向けて勉強をしているというわけだ。


(まさか誘われるなんて思わなかったな。まあでも、こうして美少女に誘われるなら勉強でもなんでも嬉しいもんだぜ)


 勉強はそこまで好きではない、だがこうして目の前に俺にとって特別とも言える二人と一緒に時間を過ごせるなら話は別だ。

 俺よりも頭の良い二人に教えてもらうのも良いことだし、何なら二人から香る匂いに浸るも良し勉強をするフリをしながら極上の体を眺めるも良し……いやぁ良いねぇ最高だぜこの空間!


『私も先輩たちと混ざって勉強したかったです……でも範囲もそうですし学年も違いますからね』


 実は絵夢も一緒に勉強をしたかったみたいだが、流石に学年の違いなどもあって遠慮されてしまった。


「進捗はどう?」

「どこか分からないところはある?」

「……え?」


 そんな風に少し考え事をしていた俺だったが、ふと気づけば二人が俺の両隣に移動していた。

 制服姿の才華はともかく、茉莉は私服で結構肩を出すタイプの服だった。

 両肩を出す服……こういうのを何と言うのかは知識がないものの、ギャルっぽい彼女に似合った露出度とも言えるだろうか。


「ねえ、大丈夫かな?」


 なんてことを言いながら体をくっ付けてくるものだからその胸の感触がダイレクトに腕に伝わってくる。

 ええい、これは明らかに挑発しているものだと俺は感じ取った。

 確かに俺は彼女たちと仲が良くなったものの、ちゃんとした意識のある状態でエッチなことをしようとすれば嫌われるのは必至……なればこそ出番だ相棒!


「起動!」


 手元の近くに置いてあったスマホを手に取り、催眠アプリをワンタップして起動させた。

 すると二人はジッと俺を見つめて命令を待つように大人しくなった。

 こうして両隣に二人の巨乳美女が居るとなるとやることは一つ、俺は両腕を広げて二人を抱くようにした。


「……あ~最高」


 誰か一人に対して徹底的に悪戯をするのも全然ありだが、やっぱりこうして複数にちょっかいを出すのもクセになりそうだ。

 こうして両腕に彼女たちを抱え、手の平には彼女たちの胸の感触……たまらん、まるで王様になった気分で本当に最高だ。


「右手にFカップのおっぱい、左手にHカップのおっぱい……二人とも、めっちゃ最高だわ。語彙力無くなるくらい最高だわ」


 さっきから最高しか言ってないもんな俺って。

 女の子からすれば明らかに気持ち悪いことを言っているにも関わらず、当然催眠状態の彼女たちは俺に苦言を呈するようなことはなければ離れていくこともない。


「甲斐君、キスしよ?」

「甲斐君、私ともキスしよ?」

「おうよ~!!」


 両耳からそんな風に囁かれたら我慢なんて出来るわけがない。

 俺は最初に茉莉へ、そして才華の順にその唇に飛びつき改めて柔らかいなぁなんてことを思うのだった。


「でも……いつまでこの力って使えるんだろうなぁ。いつか突然使えなくなったとしたら……まあそれはそれで良い思い出を作れたと思って笑うんだろうか」


 俺一人だけ笑って彼女たちは何も覚えていない、それはそれでクソみたいな結末だが悪くはないのかもな。


「でもなぁ……この感触、手放したくねえよ……ずっと茉莉や才華、絵夢とこういうことしていたいなぁ」


 そんな我儘を口にした瞬間、俺は茉莉に思いっきりキスをされた。

 いつもは俺の方から顔を寄せることが多かったのでビックリしたが、更に才華が俺の耳をペロペロと舐めてくる。


(お、おい!?)


 二人とも決して何も言わず、ただただ俺の体に舌を這わせているだけだ。

 もっともっとと、そう感じさせるほどに体も押し付けてくるので更に俺は彼女たちの体の柔らかさを感じてしまう。


「唇はあげる。でもこっちは私がもらうよ?」


 どういうことだ?

 疑問に思っていた俺の唇から顔を離した茉莉は頷き、こう言葉を続けて再び顔を近づけてきた。


「良いよ。でも途中で変わってよね?」

「分かってる」

「……うほっ!?」


 キモイ声を出してごめんなさい、言い訳をさせてもらえるなら物凄く気持ち良かったので仕方ないんだ。

 さて、こんな風に俺はまだ催眠アプリの力を使っている。

 いやねぇ、悪いとは思ってもやっぱりやめられない魅力がこのアプリにはたくさんあってもうダメだわ麻薬と一緒だわこれ。


「……この香り好き」

「うん。甲斐君だから好き……もっと欲しい」


 二人の声を聴きながら勉強できないな、なんてことも苦笑しながら思うのだった。

 あぁそうそう、以前に俺は催眠アプリについて不安を口にしたことがあったのだが正直もうそんな気持ちになることはあまりない。

 何故かって?


「甲斐君♪」

「……甲斐君♪」


 不安になる瞬間がないと言うか……なれないよね逆に。

 俺は仕上げに二人から抱き着いてもらい、その胸の頭を挟まれながらそんなことを考えるのだった。

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