俺の物語は終わらねぇ!!
「それでね。私と才華が学校を出た時にちょうど絵夢ちゃんと出会ったんだ。それでこれから一緒にどうかなって」
「はい。お誘いいただいてとても嬉しかったです」
どうして三人が一緒に居るのか、その経緯について聞いていた。
三人の共通点が俺というのも烏滸がましい話ではあるのだが、こうして三人が揃って仲良くしている姿というのはやっぱり良いモノである。
俺にとってもはや他人とは言えない美少女三人が並んでいると……もうね、目の保養としか言えない。
「茉莉と我妻はともかく、本間とも本当に仲良くなったんだな」
「そうだね。私たちは三人とも甲斐君に助けてもらったから♪」
そう言ってくれるのは嬉しいのだが、やはり俺の中では彼女たちを助けたと言っても恩を売ったとかそういうことは考えていない。
そりゃ年頃の男子なので心の中に少しでも打算がなかったわけではないが、それでもやっぱりこうして彼女たちが笑っているだけで俺は満足していた。
「まあ何もしてないわけじゃないけど……って、三人ともどんなことがあったのかはお互い具体的に話したのか?」
「はい。茉莉先輩と才華先輩からは既に聞いています」
「うん。何と言うか、ポロっと自然に話した感じ」
どうやら助けられた事実だけでなく、どんなことを経験していたのかも簡単に話しているようだ。
どんな風に話をしたのか、それを俺が聞くことはない。
どんな些細なことにしろ、既に終わったことであったとしてもそれが彼女たちに刻まれた小さなトラウマを呼び起こすことになるかもしれない。
本間のストーカーの件も大きな出来事だが、やっぱり茉莉と我妻に関しては心を病むレベルだったからな。
(……俺が現状やっていることはそれはそれでクズだけど、まあでもこんな風に彼女たちが笑ってくれるだけで本当に――)
そこまで考えて頼んだケーキをパクっと口に運んだ時、俺はジッと見つめてくる三人の視線に気づいた。
俺の向かいに茉莉と本間、隣に我妻が座っているのだが彼女たちは何故か俺に視線を固定したまま動かさない。
「えっと……どうした?」
困惑しながらそう問いかけると、先に口を開いたのが茉莉だった。
「ううん、ただ甲斐君は優しいなって思ったの」
「どういうこと?」
「だってさっき優しそうに笑っていたから。たぶんだけど、私たちがみんな笑って今この場に居ることが嬉しいって思ってくれたんじゃない?」
「っ!?」
まさかそこまで見透かされるとは思わず、俺は驚きよりも恥ずかしさが前面に出てきてしまって下を向いてしまった。
当然俺がこんな風に反応すると茉莉の言葉が正しいことを意味するので、彼女だけでなく本間と我妻もクスッと微笑んでいた。
「やっぱり先輩は凄く優しい人です」
「うん。凄く優しくて頼りになる。真崎君はそういう人」
「や、やめてくれ……」
背中が痒くなるから本当にやめてほしかった。
褒められ慣れていないというか、そもそもこんな風に感謝してくれる彼女たちに色んなことをしているため逆に申し訳なさもあるというか……ええい、俺は好き勝手すると決めたはずだろう! でも……ねぇ?
「……ふぅ」
一旦気分を落ち着けるため俺は小さく深呼吸をした。
こんなことで恥ずかしがる領域は既に踏み越えているだろうと自分を納得させると不思議と落ち着き、俺は真っ直ぐに彼女たちの顔を見つめ返すことが出来た。
「三人に何もなくて良かったよ。俺自身が出来たことはそんなにない、でもまあ……うん。三人がこうして笑ってくれてマジで良かった」
「あ……」
「先輩……」
「真崎君……」
あ、ごめんなさいやっぱり恥ずかしいわ。
俺は熱くなった頬を誤魔化すようにして再び紅茶を飲もう……っと思ったがカップの中には空で何も入っていなかった。
そうなるとまた三人と見つめ合うことになり、誰からともなくクスッと肩を揺らして笑い合うのだった。
(この空間……めっちゃ良い匂いするし幸せなんだけどヤバいね。何がヤバいとか分からんけどヤバいね!)
ちなみに、さっきからずっと俺の空いている手を我妻が机の下で握っていた。
茉莉と本間が気付いているかどうかは分からないが、我妻はずっと俺の手を握りしめていたのだ……それも貝殻結びで凄くドキドキする。
「……はぁ♪」
「……………」
しかも肩がくっ付くほどに近いので我妻の悩ましい吐息と言いますか、それがダイレクトに聞こえてくる。
きっと我妻に他意はないと思っているのだが、何とも下半身をイライラさせてくるサキュバスのような女だ我妻は。
(催眠掛けたい! 今すぐ我妻だけじゃなくて三人で色々やりてえええええ!)
しかし残念かな、既に昼休みに使ったのもあって充電が心許ない。
これは寝る前に三人の裸と体の感触を思い浮かべて頑張るしかなさそうだ。
「そうだ。ねえ真崎君」
「なんだ?」
色々と考え事をしていた時だった。
名前を呼ばれたので我妻に視線を向けると、彼女は俺にこんな提案をしてきた。
「茉莉だけ名前呼びはズルいと思う。私もそうだし、きっと絵夢だって名前で呼ばれたいでしょ?」
「あ、もちろんです! というかずっと言おうと思ってたんですよ。茉莉先輩だけどうして名前呼びなのかって」
「……あ~」
茉莉に目を向けると彼女は俺を見つめながらクスクス笑っていた。
俺にとって彼女の名前を呼ぶきっかけになったのあの日、再び彼女の元カレである幼馴染とのいざこざがあった時だ。
まあ名前呼びなんかよりも素の状態の彼女の胸を触ったことの方が衝撃的な記憶だが……でも二人とも名前を呼んでほしいというのなら別に考える必要はないか。
「じゃあ呼んで良いのか?」
二人が頷いたので俺は少し緊張しながらも名前を口にした。
「絵夢と……才華?」
「っ……うん」
「……呼び捨て……良い♪」
我妻……じゃなくて、才華はともかく本間……でもなくて絵夢の反応はちょっと良く分からない。
とはいえ、これで俺は知り合った彼女たちの名前を呼ぶことになるのか。
それを考えるとちょっと感慨深いというか、催眠アプリを通してここまで親しくなれるなんて思わなかったな普通に。
「……くふふっ」
おっとマズイ、ついつい気持ちの悪い笑みが素で出てしまった。
茉莉と絵夢は気付いてないようだが、今も見つめ続けている才華には見られたかもしれない。
「……才華?」
「うん。見たよ?」
「……ごめん、キモかったな」
「そんなことない。大丈夫」
はぁ優しすぎかよこの子は……。
そんな風にしてその後も他愛無い話をしながら過ごしていたのだが、ちょっと不思議な客が俺たちに近づいてきた。
「ちょっと失礼します」
「え?」
「なんですか?」
喫茶店で他所の客に喋りかける人というのはそうは居ないので、俺たちは揃ってその客に目を向けた。
ピシッとスーツを着込んだその女性はとてもスレンダーな美人だった。
(……小さいな)
俺、小さいよりも大きい方が好きな変態外道だから彼女には興味がなかった。
知らない人間が近づいてきたからなのか、才華が少し身を寄せてきたので腕に伝わる胸の感触にしか意識が向かない。
(……う~ん?)
というよりも、俺の気のせいでなければこの女性は俺を見てはいない。
俺を最低限に認識しているような様子で主に視線を向けているのは女子三人だ。
「……そんな馬鹿な……失礼するわ」
「はぁ……」
何故か最後に置き土産かのように俺をキッと睨みつけた女性はそのまま店を出て行くのだった。
睨まれたことに関してはさっき街中で会った女の人みたいに気分は良くないものの気にしても仕方ない。
「何あの人……嫌い」
「ですね。私も嫌いです」
「……………」
どうやら三人からの印象も最悪だったみたいだ。
特に才華に至っては女性が出て行った出口の方をジッと見ているくらいだし、それだけ意味もなく俺を睨んだことに怒ってくれている証なんだろう。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「は~い」
ケーキも紅茶もなくなったし後はもう出て行くだけだ。
なので俺はトイレで用を足すため向かい、スッキリしてから外に出るとちょうど才華がそこに居た。
「才華?」
「うん。私もトイレ」
そうかと頷いた俺だったが、何故か胸元のボタンが二つほど外れていたのでその胸元の谷間が僅かに見えていた。
さっきまではボタンは止まっていたはずなのに……とはいえ、俺は深く考えずにもう辛抱たまらないと催眠アプリを起動した。
「あと七パーセント……ちょっと揉むくらいで終わりだけど仕方ない」
「揉んで?」
「え? お、おう……こい才華!」
「うん」
本当に僅かな時間、俺は才華の胸の感触を楽しむのだった。
その後、俺は彼女たちと別れて帰路に着いたのだが……その間、俺はずっと充電の無くなったスマホを見つめていた。
「本当に催眠アプリのおかげで色々と変わったなぁ……これからも頼むぜ相棒。俺は好きに生きていくぅ!」
まだまだ俺の夢は終わらねぇ、もっともっと楽しむんだと期待を膨らませた。
ただ……街中で出会った女性と店で見た女性、二人とも俺に……否、男そのものに対する憎悪のようなものを感じたことだけは謎のままだ。
アレは佐々木や染谷ともまた違った強い感情だったが、まあ会うことはないだろうなと俺は特に気にしなかったのだ。
【あとがき】
ここまでで一章が終わりかな、って感じです。
この小説が少しでもみなさんに楽しんでいただけているなら幸いです。
これからもよろしくお願いします!
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