癒しを求めてるぜぇ!
「いやぁ良いねぇ」
「んだなぁ」
「最高だねぇ」
俺と晃、そして省吾は女子の集団を眺めながらそう呟いた。
今は体育の時間ということで、俺たちの視線の先では体操服に身を包んだ女子たちがバレーをしていた。
今日は隣のクラスとの合同体育ということで、いつもは見ることのない女子たちの姿も観察することが出来る。
「なあなあ、我妻ってやべえなぁ」
「何がとは言わんけど……やべえなぁ」
晃と省吾が目を向けるのは我妻だ。
茉莉と同じチームで楽しそうに会話を交えながら運動しているその様子に、俺はあんな風に笑ってくれるようになって良かったなと感じていた。
もちろんそんな感動とは別に我妻が動くたびに揺れる特大サイズの胸も当然のように見ているが……いやはや、本当に良かった良かった。
「合同ってのはこれだから良いよなぁ。人数が多いから必然的に休憩する面子も増えるしさ」
晃の言葉にそうだなと俺は頷いた。
合同体育となると人数が増えるのは当然、だからこそ俺たちのように休憩している生徒は男女問わず増えることになる。
なのでこんな風に好き勝手過ごしていても特に何も言われることはないのだ。
「……おっと」
そんな風に眺めていると思いっきりサーブをミスしたのかボールが飛んできた。
駆け寄ってきたのは隣のクラスの全く話をしたことのない女子で、俺は特に何も言葉を発することなくボールを手に取って渡した。
「ありがと」
「おう」
まあ普段絡みがないとこんなもんだ。
少し前までの俺ならもっと気の利いたセリフとか口にしろよ、なんて思ったかもしれない。
しかし今の俺にはそんなものは必要ない。
何故かって? くふふっ、茉莉たちが居てくれるからだよぉ!!
「……はっ、おもんな」
「なあなあ、マジで何があったんだよお前に!」
「うん?」
晃と省吾が何やら睨んできていた。
どうしたのかと思って彼らの視線を動かした場所に目を向けると、茉莉と我妻が物凄く分かりやすい大きな動きで俺に向かって手を振っていたのだ。
俺は自然と彼女たちに手を振り返したのだが、それすらも醜い男の嫉妬を集めることになってしまった。
「まあでも、晃と省吾くらい仲良ければ何も思わないんだけどな」
「……まああいつらはな」
「あれはもうダメだろ」
親しい間柄の二人なら全然良いのだが、クラスの陽キャ連中みたいにあまり仲の良くない連中に睨まれるのは気分が良くない。
あいつらまた家に強制送還してやろうかと悪戯心が芽生えるが、そんなものに貴重な充電を使うわけにはいかない。
「奴らに使うくらいなら俺は茉莉たちに使う……ふっ、俺にはつまらないモノを斬る趣味はないからな」
睨んでくる陽キャ連中から視線を外し、俺は改めて友人たちと女子のバレー風景を眺め出した。
そんな中、ふと晃がこんなことを口にした。
「そういや最近ハマった同人誌があるんだよ。催眠モノなんだわ」
「へぇ。中々業が深いな」
「……………」
ドキッと心臓が僅かに跳ねてしまった。
とはいえ晃が興味を持ったと口にした催眠モノの同人誌は俺を読んだことがあったので、ところどころ頷いたりしてはそれはどうなんだろうなと言葉を交わし合う。
「俺も催眠アプリとか使いてえよ。んで女の子に色んなことを……ぐへへ」
「キモイからやめろって。でも催眠かぁ……確かに悪くねえかも」
まあ普通の感性とは言わないが、空想上の力だからこそ催眠を使って女性に色々なことをしたいと妄想するのも変ではない。
彼らの話を聞きながらやっぱり俺はどこか優越感に浸り、ジッと茉莉と我妻の運動する姿を眺めるのだった……しかし。
「嫌がる女の子にさ。こう催眠を掛けて……」
「良くある奴だよな。んで途中で催眠を解いてやるとかさ」
「悪くねえなぁ」
「悪くないねぇ」
どうしてかその部分だけは共感できなかったのだ。
確かに催眠アプリのようなものを使う時点で相手の子の尊厳をどうこう口にする資格はないのだが、もしも催眠中で相手が本気で嫌がった場合は続ける覚悟が俺にはなかった。
佐々木や染谷が良い例だが……あそこまで泣かれてしまったら気分が萎えてしまうしこれは俺だけなのか?
(善人ぶってるわけじゃねえ……ただそう感じるだけだ。茉莉たちにとっても本意じゃないだろうに、催眠中の彼女たちが逆に俺に対して積極的だし良い子たちだから流されてる部分もあるんだが)
その部分に関してはふとした時にまだ疑問に思う。
催眠アプリはしっかりと起動して俺の意のままに操ることが出来るのだが、最近はずっと催眠中だというのに意思の疎通は本当に簡単だ。
俺が何を言わなくても自分から喋るし、何をすれば良いか、或いはこれをしてあげると言って奉仕してくれる……疑問は尽きないが俺にとっては至福の時間なので気にするだけ無駄だ。
(正直なのも良いよなぁ。おかげで茉莉たちのカウンセリングというか、何か身近で起きてないかの確認もスムーズに出来る。心配を掛けないようにと黙って抱え込むなんてこともさせずに済みそうだし)
二度目になるが俺は善人ぶるわけじゃない。
それでも彼女たちの体を好きにしている以上、俺にとっても既に彼女たちは色んな意味で特別な存在でもある。
なら俺に出来る範囲で気に掛けて心配するのは当然だ。
(それに今は俺は本番をしてないけど、たぶんこの力が一生無くならないとしてもすることはなさそうだ)
本番行為、それだけはするつもりはなかった。
まあ今更何をって気持ちもあるにはあるが、やはり今の俺に万が一があったら責任なんて取れないし背負うことも出来ないからだ。
童貞だからこそ茉莉たちの体に触れ、彼女たちに本番ではない部分で満足させてもらっているからこんな考えなのかもしれないが。
「お、終わったぞ」
「みたいだな。俺たちも行こうぜ」
気付けば体育の時間は終わりを迎えていた。
途中まで茉莉と我妻に注目していたはずなのにいつの間にか考え事に夢中になっていたようだ。
「今日はどうする?」
「無難にカラオケとかボウリングとか?」
「良いじゃん行こうぜ」
高校三年生ということで勉強はもちろん頑張っているが、時にはこうやって友人たちと遊ぶのもまた大切な瞬間である。
今日の昼休みは茉莉に癒してもらったし、本当に文句のない日々が続いている。
放課後になるとすぐに俺たちは下駄箱に向かったのだが、そこで俺は普段目にすることのなかったモノを見つけた。
「なんだ?」
靴の上に一枚の紙が置かれていた。
まさかラブレターかと思ったものの、こんな風に味気なく置くラブレターなんてないかと思い内容を確かめた。
“あまり調子に乗んじゃねえぞクソ野郎”
「……………」
ある意味これも熱々のラブコールみたいなものだろうか。
明らかに乱暴に書き殴ったその字は間違いなく男子のものであり、おそらく近いうちにこれくらいのことはされるんじゃないかと予想はしていた。
「どうした?」
「いやなんでも」
何となく誰の仕業か分かる辺り俺も冷静というか、本当に心に余裕があるんだなとちょっと安心出来る。
俺は紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨ててから外に出た。
これから予定通り友人たちと共に遊びに出掛ける……はずだったのだが、それから数分後俺は一人で出歩いていた。
「まさか二人とも親から電話が掛かるなんてな」
学校を出た段階でちょうど二人は親から電話が掛かって来たのだ。
内容は食材の買い出しということで、結構量があるとのことで断れなかったらしく結局二人は先に帰ってしまった。
残された俺は特に用はないものの、すぐに家に帰るのも味気なかったので街中をブラブラとしていたというわけだ。
「……あ」
当てもなく歩いていた時、ふと目の前の女性が段差に突っかかった。
そのままポーチの中に入っていた化粧品が少し落ちてしまったようで、偶然傍に居合わせていた俺は転がってきたモノを拾った。
「落としまし――」
落としましたよ、そう言おうとした瞬間サッと俺の手の中にあったそれは女性に取られていた。
返すつもりだったので取られたという表現はおかしいのだが……それでも礼の一つもなしというのは逆に唖然としてしまう。
「触らないでよ男のくせに」
「……………」
そう言って目付きの悪い女性は歩いて行ってしまった。
しばらく呆然としていたが、俺の中にあったのは怒りよりもなんだあの女はという感情だった。
「は~やだやだ。人がせっかく拾ってやったのに」
今から追いかけて催眠に掛けてやろうとも思ったが、見た目からしてあまり好みではなかったのでどうでも良いや。
けどこの何とも言えない気持ちはどうにか癒したい、そう思っていた時に通りがかった喫茶店で俺は見つけた。
「あ」
仲良さそうに話をする三人の女子、彼女たちもまた俺に気付いて視線を向けた。
「茉莉に本間、それに我妻か」
何の偶然か俺にとって関わりのある三人の女子が一堂に会していた。
果たして何を話していたのか気になるところだが……まあ、こうしてこのような場面に出くわした時、コミュ力化け物の茉莉が取る行動は一つだったようだ。
「甲斐君! 一緒にお話しよ?」
「おう」
求めていた癒しを手にするため、俺はその申し出に頷いた。
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