小さな悩みだぜぇ。悩むくらいなら揉む!

 ガシッと手を握りしめられ、そして見るからに様子がおかしくなった茉莉の様子に俺は困惑した。

 催眠アプリについてのもしかしてを考えてしまい、今日はちょっと気分が乗らなかったため今回はしないと伝えたのだが……茉莉の様子は一変し、まるで捨てられてしまった子犬のような目をしていた。


「……………」


 いや、子犬ならまだ可愛らしい。

 彼女の瞳は俺だけを見据え、今この場に限らず世界そのものに俺以外存在しない、だから頼れるのは俺だけだと……俺が自意識過剰なだけかもしれないが、彼女の瞳からそんな大それたことを俺は感じ取った。


「茉莉……その、どうしたんだ?」


 彼女は俺の催眠下なので何を聞いても答えてくれるはずだ。


「嫌だよ……ねえどうして? どうして何もしないの? 飽きちゃったの? 私の体魅力ないかな? どこがダメ? どこが好みじゃない? 直せるところ全部直してみせるから……ねえ……ねえねえねえねえ?」

「こ、こええ……」


 正直かなりシリアスというか、変な空気感なのは否めない。

 しかしながら彼女がまず催眠状態であることと、そんな彼女に対して俺の方が絶対的上位者であることを考えるとおどけることが出来るくらいには余裕があった。


「……えっと」


 茉莉からのこのような反応は初めてだったのでどう反応すれば良いか困ったが、俺は目の前で涙を流す彼女の体を抱きしめた。

 そのままどうにか安心させるようにと頭を撫でながら言葉を伝える。


「何も直さなくていいし飽きたなんてことはねえよ」

「……本当?」

「あぁ本当だぜ。その証拠にほらよ」


 飽きたなんてことはあり得ない、それを証明するために俺は茉莉の胸を両手で揉みしだいた。

 いつもよりも少し力を込めたが茉莉は満更でもなさそうだ。

 胸を触っている俺の手に自らの手を重ね、ずっとこうしてほしいと言わんばかりに力が込められた。


「……なんつうか、色々あって気分が乗らなかっただけなんだ。だから今日だけって意味だったんだけど……あ~」


 気分が乗らなかった……そのはずなのにこうして茉莉の体を触っていたことでムクムクと発散したい欲が沸き上がってきた。

 茉莉もそれに気付いてチラッと視線を向けたと思えば、再び俺に視線を戻し顔を近づけてきた。


「キスするぞ茉莉」

「うん♪」


 やっぱり、悩むのは俺の性に合わないようだ。

 そもそもあったかどうか分からない話を気にして何になるのか、そんなものはこの豊満な感触の前にはあまりにも小さな悩みだったわけだ。


「ぅん……はぁ……好きぃ……好きなの」


 俺にとって他に気にしなければならないことはいくらでもあったはずだ。

 先ほどの茉莉の様子から今までの変化のこと、もちろん彼女だけでなく本間や我妻についてもだ。

 しかしやっぱり俺は単純な奴だった。

 こうして幸せな感触に包まれていればどうでも良いとさえ思ってしまうのだから。


「それじゃあ茉莉、予定通り俺を癒してくれよ」

「任せて。色々と勉強したんだよ?」

「……勉強?」


 勉強とはなんだ、それを気にする間もなく俺は茉莉の奉仕を受け入れた。

 その後、俺は素晴らしくも充実した気持ちと共に大変スッキリした顔で彼女に膝枕をされていた。


「どうだった?」

「……どうだったって俺の顔を見ながらしてただろ? 満足に決まってんだろうがよこいつめが!!」

「きゃん♪」


 ぺしっと目の前にぶら下がる巨乳を優しく叩いた。

 ぽよんと跳ね返すような弾力はやはり素晴らしく、更に聞こえた茉莉の可愛い声も俺的にかなりポイントが高い。

 ポケットに入れているスマホがかなり熱くなってしまっているが、まあまだ充電は十分だろうし問題はないだろう。


「……あ~」


 極楽極楽、本当に素晴らしい時間を経験させてもらった。

 練習したっていうのが良く分からなかったのだが、何をされたかを詳しく説明すると挟むのと吸うのをコンボ攻撃としてお見舞いされたのである。


「クセになるなこれは。またお願いして良いか?」

「もちろんだよ。もっともっと上手になるし、それに……ふふ♪」


 一応、最初に見た不安定な情緒は既に見られなかったので安心した。

 もしもこの機嫌が直った原因が俺との行為にあるのだとすると、それはそれでちょっと興奮というか悪い気分にはならない。


「そうだなぁ……なあ茉莉」

「どうしたの?」


 催眠状態だし良いか、俺はそんな軽い気持ちで彼女に話すことにした。


「実はさぁ、昨日の夜に催眠アプリのことについて色々と調べたんだわ。それを調べる中で一人の男が複数女性への性的暴行で捕まったってのを見つけてさ」

「うん」

「その捕まった男が催眠アプリ云々って口にしてるが誰も信じちゃいないってのを見つけたんだよ。本当かどうかはともかくとして、それを気にしちまってちょい乗り気じゃなかったんだ」


 ここまで話しても良いのかって思うだろ? でも全然問題ない、何故なら催眠状態の彼女たちにいくらこの時の話をしたところで記憶に残らないことは毎度言っているが既に分かっていることだからだ。


「俺もお前らにやり過ぎると捕まっちまうところまで行くんじゃないかって不安になったんだよ。ま、茉莉の胸を触ってたらそんな不安を吹き飛んだわ」


 あっはっはと笑う感覚で俺はそう告げた。

 本当に大した悩みではなく、気にするだけ無駄な小さな悩みだと分かった途端にこれなのだから俺は本当に単純な男だ。


「……そうだったんだ」


 小さな茉莉の呟き、だが俺はそれよりもかなり眠たかった。

 昼休みが終わるまで後十五分程度……よし、少しだけ昼寝をさせてもらおうか。


「茉莉、十分くらいこのまま寝ても良いか?」

「良いよ。このまま続けてあげるね」

「サンキュー」


 出し切ったせいか疲れもそこそこで、後は微妙に昨日の夜更かしが祟ったのかもしれない。

 美少女の膝枕という最高のシチュエーション、そして優しく頭を撫でられる感触と共に俺は眠りに就くのだった。


“一定時間の操作無し、及び使用者が睡眠に入ったことにより催眠アプリの起動を一時停止します。再び使用者が目覚めたら再開します”


「……あ……甲斐君?」





 さて、時間は流れて放課後だ。

 あの後、約束したように茉莉はずっと膝枕をしてくれていたらしく、昼寝の後の目覚めは最高だった。

 何もエッチなことをすることなく、ただただああやってのんびり過ごすのもそれはそれでアリだなと新たに考えた次第だ。


「じゃあな甲斐、また明日」

「おう」

「そんじゃな~」

「あいよ~」


 友人たちと帰る予定ではあったのだが、少し先生に呼び出しを受けていたので先に帰ってもらった。

 まあ何かを仕出かしたとかそういうわけではなく、単純に意識調査みたいなものでこの高校三年生にもなってくると増えてくるものだ。


「よし、これで大丈夫だ。真崎は成績もほどほどだし、これからもっと頑張ればきっと良いところまで行けるぞ?」

「マジっすか? 頑張りまっす」


 担任の先生にここまで言われれば気分も良くなる。

 鼻歌を口ずさみながら教室に戻ったのだが、既に誰も居ない思っていた教室に一人だけポツンと影があった。


「え? 茉莉か?」

「あ、お帰り甲斐君」


 待っていたのは茉莉だった。

 どうして一人だけ残っているのかと思ったが、彼女は鞄を肩に掛けて俺の傍に近寄ってきた。


「一緒に帰らない?」

「……まさか待ってたのか?」


 彼女は頷いた。

 一緒に帰らないかという発言に若干驚きはしたものの、断る理由はないので俺は頷いた。

 玄関から外に出ると部活動に勤しむ生徒たちの声が聞こえてきた。

 そんな声が聞こえる中を俺と茉莉は並んで歩き、ある程度学校から離れたところで俺はまさかと彼女に声を掛けた。


「もしかしてまた何かあったのか?」

「え? ……あ、変に心配させちゃったかな?」


 一応催眠抜きに彼女のことは知っているし、それを彼女自身も知っていることだ。

 こうして一緒に帰らないかと言われたことに対し、俺はもしかしてまた何かをされて不安になり誘われたのかと思ったがどうやら違うらしい。


「あはは、ごめんね。全然そういうんじゃないの。ただ、甲斐君と一緒に居たかったの。もっと一緒に過ごしたかったの」

「……そか」


 心配が無用だったことに安心したのも束の間、満面の笑顔でこんなことを言われると照れてしまう。

 こいつはまた催眠状態に落として別れ際の甘い時間を……なんてことを考えて頭が馬鹿になっていた俺、そんな俺に茉莉がこんな問いかけをした。


「甲斐君は本当に心配してくれるんだね?」

「え? 当たり前だろ。他ならぬ茉莉のことだぞ? 心配するし何かあったら助けたいって思うだろうが」


 いつもその豊満なおっぱいとか好きにさせてもらってるからな!

 これくらいお安い御用だっての。


「つうわけで催眠!」

「……あ♪」


 その後、俺は茉莉を人目の付かない場所に連れて行きまた発散させてもらった。


「……ふぅ」


 茉莉と別れ、賢者タイムとなった俺は一人帰路を歩く。

 色々と悩むことも大切だが、やはりこの催眠アプリについてあまり心配する必要はなさそうだししても疲れるだけだと思い知った気分だ。


「やっぱり小さな悩みだよなぁ。目の前にあんな大きくて柔らかいものがあったら気にしても仕方ねえよ」


 そもそも、俺は好き勝手にこの力を使うと決めたはずだ。

 ならこの欲望を胸に突き進むのみだ。


「待ってろよまだ見ぬ美女たち」


 茉莉や本間、我妻だけではない更なる刺激を求めて俺は歩き続けるのだ。

 目の前に沈みゆく夕暮れの明かりに突き進むように、俺はまだ立ち止まることはしないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る