初めて萎えちまった……あ~あ

「っ……やめ……」

「怖いよ……触らないで……」

「……………」


 相も変わらず二人の胸に手を添えたままの俺だが、催眠下の状態であっても涙をボロボロと流す二人を見ているともっとイジメたくなる気持ちが沸いてこなかった。

 茉莉や本間、我妻とは異なる二人の反応に俺は手を離した。


「……またか。またなのか神よ」


 ゴッド、あなたは最低だと心の中で罵る。

 催眠下の無表情で涙だけを流し嗚咽を漏らす佐々木と染谷の様子、それは俺にというより男そのものに恐怖を抱いているような感覚だ。


「何があったんだ?」


 正直、もう彼女たちに触れようとは思わなかった。

 まあこうして彼女たちの瑞々しい全裸姿を眺めているわけだが、それくらいは外道の俺の為に許してくれや。

 何があったのか、その質問に対し答えてくれたのは佐々木だった。


「二年前、私たちは襲われかけたのよ」

「……おぉ」


 俺が言うのも何だがハードな話題が飛び出したぞ。

 当時のことを思い出したのか染谷がビクッと肩を震わせ、それを無意識に心配に思ったのか彼女の手を佐々木が握りしめた。

 催眠状態であっても互いを思いやる絆の強さ、愛の強さに俺は百合の中に挟まる男は許されないという言葉を改めて実感していた。


「相手は大学生の男五人で、私たちは街中で声を掛けられて連れて行かれた。大きな声を出しても誰も助けてくれなくて、みんながみんな見て見ぬフリをして……」

「……………」

「そのまま密室に連れて行かれて衣服を剝ぎ取られて……もうダメかと思ったその時にやっと外で騒ぎを聞きつけていた警察の人が助けてくれた」


 襲われかけたということはつまり、その体が汚れる前に助けられたということだ。

 彼女たちにとって大切なモノを失う前に助け出されたわけだが、二年前となると高校生になったばかりの頃……か。


「つまりトラウマになったってわけか?」

「えぇ。普段はそうでもないし、男性ともちゃんと言葉を話せるの。でもこうやって服を脱ぐことを命令されて触られるとどうしても……あの時のことを思い出してしまうのよ」

「……………」


 体を震わせながらもその言葉はハッキリとしたものだった。

 正直そんな彼女たちの様子なんか一切気にせずに好き勝手しちまえばいいじゃないか考える心はあるのだが……茉莉たちと違って、こうも明確に拒絶の意志を見せられると萎えてしまった。

 さっきまで俺の刀はビンビンだったのにもうダメだこりゃ。


「その男たちはもう?」

「どうなったか知らないわ。知りたくもない……男なんてみんな屑なんだから」

「そうだな。俺みたいなのはマジで屑だよ」


 佐々木と染谷に目を付けてその気が萎えた今でも、それなら次の刺激を求めれば良いと考えているのだ俺は。


「これで解決してなければ詫びに色々とやらせてもらったけど、既に解決してるなら俺の出る幕じゃねえな。二人とも服を着ろや」


 二人は俺の命令に従うように服を着た。

 その間、俺は改めて染谷の部屋を見渡しているとあっと声を上げてあるものを手に取った。

 それは女の子が買うにしては珍しい男の子向けの漫画で、お色気たっぷりの人気作品だ。


「珍しいな。こういうのを女子が買ってるんなんて……いやそれも偏見か。にしても懐かしいなこれ。前は読んでたけど今は読んでねえわ」


 それからしばらく俺はジッとその場に座りながら漫画を読み耽った。

 本来の目的からかけ離れた漫画を読むという行為、一体何をしているんだと正気に戻って俺は漫画を見ていた視線を彼女たちに戻し……そして悲鳴を上げた。


「のわあああああっ!?」


 どうして悲鳴を上げたのか、それは染谷が至近距離で俺を見つめていたからだ。


「な、なんだよ……」

「その漫画、君も読むの?」

「読むって言うか読んでたんだよ昔、この表紙のヒロインじゃなくて二巻から出てくるこの子がめっちゃ好みでさ。その時くらいかな」

「あ、分かる。凄く可愛いよね。それに――」


 おや……何やら不穏な空気が消えた代わりに染谷がイキイキとしだしたぞ。

 俺はその後漫画についてマシンガントークを繰り出す染谷の話を延々と聞き、時にどうにかしてくれと佐々木に目を向けたが当然彼女が助けてくれるわけもない。


(この催眠アプリちゃんと機能してんだよな? 確かに俺の命令に忠実ではあるけどこうやって自分の話をするのも茉莉たちからは見れていた……う~ん)


 彼女たちの瞳というか表情で催眠に掛かっているのは分かるのだが……まあもしも催眠状態でないのだとしたらこうやって会話が成立する前に彼女たちのトラウマを刺激した俺は警察に通報されているはずだ。


「……って、後十パーセントしかねえ」


 危ない危ない、後数十分こうしていたら大変なことになっていた。

 目を付けた美少女二人に手を付けれなかったのは残念だが、少しとはいえその豊満な胸の感触は味わったので良しとするぜ。


「染谷、俺はお前を襲おうとしたんだぞ? それなのに自分の好きな漫画を読んでたからってそんな風に距離を詰めるとか馬鹿か?」

「……それは」

「なんだよ、俺のこの発言に間違いがあるなら言ってみろよ」


 あれ? なんで俺強気になってるんだろう……。

 俺の言葉に染谷は下を向き、理解したのかサッと佐々木の元に戻った。


「……違うの」

「は?」

「確かに怖かった……でも、悪い人じゃないんだろうなって思ったの。漫画のことについて話をする君の笑顔は悪い人の笑顔じゃなかった……だから」


 なるほど、どうやらこいつは正真正銘の馬鹿らしい。


「チョロすぎんだろお前……佐々木、しっかりと手綱を握っとかないとまた襲われちまうぞこいつは」

「そうね。でもこの子が言ったことは何となく分かるかもしれない。途中からあなたは私たちのことを気遣うように声色が優しくなった。どうにか出来ないかと考えているような素振りだった……もしかしたら、今までに何度か誰かを助けたことがあるんじゃないの?」

「……………」


 馬鹿らしいしアホらしいしで調子が狂ってくる。

 俺はその後、すぐに染谷の家から出て駆け足で離れるのだった。


「……ふぅ……はぁ」


 乱れた呼吸を整えるように深呼吸をした後、何とも言えないため息が漏れた。

 佐々木と染谷の境遇については同情もするし、あんな風にトラウマを刺激してしまったことに関しては申し訳なさを感じた。

 とはいえあの二人に好き勝手するために昼休みを我慢したというのに……それだけはちょっと文句を言いたいぜ。


「真崎君」

「っ!?」


 その時、突然背中から声を掛けられたことで俺はビクッと肩を震わせた。

 サッと背後を振り向くといつの間にか後ろに居たのは我妻で、彼女はポカンとした様子で俺を見つめていた。


「我妻? なんでここに……」


 夏ということで日が落ちるのは遅いのだが、それでも時間的には遅い。

 そんな中でまだ制服姿の彼女がここに居るというのは珍しいと思ったが、よくよく考えればこの先に彼女が今住んでいる祖父母の家があるので珍しくはなかった。


「真崎君こそ、どうしてここに?」

「帰りだよ。色々とあってな」

「そう」


 我妻は下を向いてそのまま俺に近づいた。


「おい、どうした?」

「……少し、一緒に過ごさない?」

「まあ別に良いけどよ」


 俺は我妻の家に向かうまで、彼女と一緒に過ごすことにした。

 どこか様子がおかしいとは思ったものの、あの二人のことがあったし今日は一度も発散していないのもあって脳が冴えていなかった。

 我妻との会話はもっぱら他愛もない世間話、しかし服の上からでも分かるその胸を見ているとやはり元気が出てくる。


(……よし、数分だな。数分間だけ揉んで満足させてもらおう)


 周りに人が居ないことを確認し、それとなく我妻を陰に誘導した。

 そして瞬時に催眠アプリを起動して我妻を催眠状態にし、俺はその豊満な胸を揉みしだいた。


「くぅ! やっぱりこれなんだよなぁ! 我妻、マジで気持ち良いわ」

「それだけで満足、出来るの?」

「出来るわけないだろ! 明日の昼休み、また空き教室に来い」

「分かった。約束だから」


 まあ揉むだけじゃ満足は出来ないので思いっきり顔を押しつけて挟んでもらった。

 ぎゅうぎゅうと頬に感じる柔肉の感触に俺はもう元気いっぱい、寝る前にしっかりとこの感触を思い出して頑張るとするか。


「……選ばれて……満足させられない奴に……渡さない」

「なんか言ったか?」

「何でもない、明日……絶対に約束」

「おうおう! 可愛いなぁ本当に」


 あの二人に関しては残念だったけど、やっぱりこうして忘れてしまうことが俺にとっては大切なんだろう。

 しかし本当に良いタイミングで我妻に会えた。

 俺はそれから時間ギリギリまで、我妻にその感触を思う存分楽しんだ。


 あ、そうそうちゃんと宝くじは買ったぞ。

 もちろん全部外れだったけどな!

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