次なるターゲットはお嬢様だぜぇ

「今日もまた、一人の勇者がお亡くなりになられたようだ」

「悲しいことだな……アーメン」

「誰も死んじゃいねえよ」


 昼食を食べながら俺は晃と省吾にそう返した。

 もはや恒例の名物と言っても良い本間に対する告白劇、誰一人として成功しないその告白が本日も行われたようだ。

 しかも俺たちのクラスの男子ということで、今その男子は仲間たちに囲まれて慰められていた。


「くそぉ……この前ちょっと話が出来て行けると思ったんだ……行けると思ったんだよおおおおお!!」

「むしろそれだけで行けると思うなよ……」

「ていうかアンタみたいに顔の良い奴でも断るんだ本間は」

「ちょっと生意気じゃない最近」

「ね~」


 おっと、これは少し不穏な空気かもしれない。

 まあ確かにモテすぎる女ということで、出る杭は打たれるというわけではないが生意気に思われるのもある意味仕方ないのかもしれない。


「ほら、そういうことで後輩の子を悪く言わないの。告白されたからって好みじゃなかったら付き合わないのは当たり前、本間さんが断ったことは別に何も悪いことじゃないでしょ」

「茉莉……そうね。確かにそうだわ」


 このまま不穏かと思いきや、相坂がそう言葉で彼女たちを諭した。

 クラスの中心と言っても過言ではないグループに所属する相坂だからこそ、他の女子たちもそんな彼女の言葉には逆らわないし意を唱えることも少ない。

 彼女たちも頭が悪いわけではないので、生意気だからと後輩をイジメたところでマイナスにしかならないことはちゃんと理解しているのだ。


「二年の中だと間違いなくトップと言っても良い美貌の本間だもんなぁ?」

「そんな本間が最近はお前に良く話しかけてくるよなぁ?」

「……………」


 うぜぇ、とは言葉に出さなかった。

 本間が俺を見つけて声を掛けてくるのはちょっと前からだし、俺もそのことについては嫌な視線を浴びることはあっても不快には思わない。


「……くふふ」


 何故なら俺しか知らない彼女の秘密、そして俺だけが今彼女の体を好き勝手に出来るという優越感があるからだ。

 話しかけられて羨ましい? 笑顔を向けられて羨ましい? 馬鹿を言うんじゃねえよ俺は既にその遥か先の領域に足を踏み入れてんだ!


「マジで最近怪しいよな。お前、もしかして魔法でも使ったのか!?」

「あるわけねえだろ」

「いいやあるね。今まで非モテだったお前がいきなり女子から声を掛けられるようになったのには秘密があるはずだ!」


 流石俺の長年の友人たち、当てずっぽうだが良い線を突いている。

 とはいえやはり催眠アプリというものは二次元の中でしか存在しないものという認識は本当で、俺が彼らに実は催眠アプリのおかげなんだよと言っても乗ってはくれるだろうが信じてはくれないだろう。


「実は俺、彼女たちを操ってんだぜ?」

「マジかよ教えてくれよ~」

「そんなこと出来たら毎日ハッスルしまくりじゃねえか!」


 ほらな、全く信じた様子もなく俺のネタに付き合ってくれただけだ。


「何を話してるの?」

「甲斐が女を操ってんだとさ……?」

「羨ましいよなって……お?」


 あれ、今お前たちは誰と話をしているんだ?

 というか俺の後ろから最近よく聞く声が聞こえたような……ギギギっと壊れたブリキのように俺は振り返った。


「やっほ、楽しそうな話をしてたから来ちゃった♪」

「……相坂か」

「相坂じゃないでしょ? 茉莉って呼んでよ」

「……茉莉」

「うん♪」


 ニコッと可愛い笑顔をありがとうございます。

 あの日、本渡から庇ったあの時から相坂が俺に声を掛けてくる日が増え、ついには名前呼びまでするようになってしまった。

 こうして名前を呼ぶと相坂が笑ってくれる後ろで陽キャ男子がめっちゃ睨みつけてくるし、晃と省吾も言わずもがなだし……でもこの嫉妬が快感で最高に気持ち良いのも本当だ。


「それで甲斐君が女の子を操ってるって?」

「あ、あぁ……」

「みたいだぜ……」


 何だよバッチリ聞いているんじゃないか。

 その操られている女子筆頭の相坂……茉莉は少しばかり考えた後、こんなことを笑うようにして口にした。


「エッチだなぁ甲斐君は。女の子を操っておっぱいを揉んだりしてるの?」

「……やめてくれ」


 いざ女子にそう指摘されると心に傷を負ってしまうんだ俺は。

 今俺はあの出来事を通してこうやって茉莉と仲良くなったわけだけど……もしも催眠アプリを使って俺がしていることを白状したら彼女はどんな反応をするんだろうなと考えることは多くある。

 もちろん本間も我妻もそうだ……でもやめられない、それだけの魅力が催眠アプリには備わっているからだ。


(でも最近はもう恥ずかしさっていうか、そういうのをあまり感じなくなってきたからなぁ。それだけ慣れてきたってことか?)


 最初の内は体に触れるだけでうるさいくらいに心臓がドクドクしていたのに、今はもう触れることが俺の日常の一部になったかのように平常心で居られるのだ。

 どうやら俺もようやく漫画に登場する催眠屑野郎に更に近づいたようだった。

 そうして時間は流れお楽しみの放課後、今日は本間を味わう予定だ。


「くくくっ、いやぁ良い光景だぜ本間」

「っ……ご主人様、ずっとこうなのですか?」


 完全にプレイの一環というか、キャラに入り込んでいる本間が目の前で縛られながらおもちゃを咥えている。

 氷の女王やら色々と言われている凛とした本間の見る影はなく、催眠状態というのもあって彼女は俺の意志に従うタダのドMだ。


「どうしようか……なあ本間、どうしてほしいんだ?」

「そのスイッチを……」

「スイッチを?」

「最大まで強く……」


 恥ずかしそうにしながら懇願する本間の姿、俺は頷いて彼女の要望に応えるのだった。

 そしてその後に軽く奉仕を受けた俺は本間の体を抱きしめていた。

 やっぱり事が済んだ後、頭がスッキリとしている時はこうやって美少女の体を抱きしめると本当に心が癒される。


「……時々、こういう時に催眠を解いたらどうなるんだって興味はあるんだよな」

「催眠?」

「おっと何でもねえさ。今日も本間はエッチだったなって話、マジで外面とギャップありすぎだろ」

「先輩が私をイジメたからです」

「嫌なのか?」

「嫌じゃないです……でも一つ、困ったことがあります」


 困ったことがある、その言葉に俺はサッと意識が切り替わった気がした。

 最近はこうして好き勝手をする相手からこういう発言が飛び出すと身構えることが増え、何かあったのかとすぐに聞くようになった。


「まさかまたストーカーか?」


 ストーカーがまた出たのか、或いはまた別の問題か……そう俺は心配になったがそれは全くの杞憂だった。


「一人では満足できなくなりました。先輩にイジメてもらわないともう私は……」

「……ほう?」


 これは喜んでいいことなのだろうか?

 まあある意味俺が居ないとダメだと言われているようで気分は良い、俺はついつい本間の頭を撫でた。


「同級生とはまた違って後輩だからか可愛いんだよな」


 後輩だからこそ感じる愛らしさというものも本間には感じている。

 その愛らしさという幻想を粉々に砕く性癖も俺からすればエロいの一言で全然良いと思うし、これからもこいつには俺もたくさん楽しませてもらうぜ。


「もう……先輩から離れられないです」

「よし、もう一回イジメてやる」


 その後、また楽しんで俺は本間の家から出た。

 催眠アプリのおかげで本当に充実した日々の連続で、いつか揺れ戻しがあるのではと怖くなるがあまり気にし過ぎても仕方がない。


「……つうかモバイルバッテリーマジでゴミかよ」


 外で充電出来ることを考慮して持ち歩くようになったモバイルバッテリーなのだが全然使い物にならない。

 ただのスマホの故障かと思ったがそうではなく、どうもその日に一度でも催眠アプリを起動すると充電してくれなくなるというファンタジー現象が起きている。


「もう毎日このアプリを起動してるようなもんだからなぁ……困ったもんだぜ」


 まあこれも代償の一つかと俺は苦笑した。

 しかし、こうして三人の美少女を好き勝手しているとはいえそろそろ新しい刺激が欲しくなってきたなと俺は品定めの為に外部の人をターゲットにしようと考えた。


「最低だなマジで。でも上等、俺は外道だ」


 くくくっと笑って俺は街中に出向き、そして見つけてしまった。


「……ひゅ~♪ 良いねぇ」


 俺が見つけたのは二人の女子、しかも見たことがある制服で確かアレはかなり歴史のある女子高のものだ。


「正真正銘のお嬢様学校とも言われてたっけか……尚更良いじゃねえか」


 二人とも相坂たちに負けず劣らずの美人で同級生くらいではなかろうか、お互いに大切な友達なのか手を握って歩く姿は何とも微笑ましい。


「二人同時に行ってみるか」


 許せ二人とも、次は君たち二人を好き勝手させてもらおう。

 でもさ、流石に二人とも何か抱えてるなんてことないよね? いやいやまさか他所の女子高の生徒まで地雷を抱えているわけがない、もしもまたそんな外れくじを引いたら俺もう小遣い全部出して宝くじ買うわ。

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