やっぱり最高の感触だぜぇ……ふぅ
「何してんだよ全裸駆け回り小僧」
俺はそう言葉にしながら二人に近づいた。
「あ、真崎君!」
「……てめえは!」
相坂は俺を見た瞬間に奴……確か名前は
どうして今になって本渡が相坂に絡んでいるのかは分からないし、よくもまああんなことを仕出かしたのにこうして声を掛けられるなと感心する。
「ちょい頼りないかもしれねえが後ろに居てくれや」
「……真崎君」
ま、催眠に頼れなくても女にかっこいい所を見せたいのが男ってやつだ。
妙に感動した風というか、感極まったような様子の相坂を背に庇いつつ俺は睨みつけてくる本渡を見つめ返した。
相変わらずのイケメンっぷりだが、今の奴には全裸で走り回ったっていう絶対に消えない汚名が付いて回っているので、今まで積み上げてきた評価は根こそぎ地に落ちていることだろう。
「色々と噂は聞いてるぜ? 随分と凄いことやったみたいだな?」
正直、最近俺にとって良いことばかりが続いているので調子に乗っている感は否めない。
言葉もそうだし表情も随分と本渡を刺激するような煽りに見えたのか、奴は唾を吐き飛ばす勢いで大声を上げた。
「てめえ……てめえに会ってから何かがおかしくなった。てめえがしゃしゃり出たせいで全部おかしくなったんだよクソッタレが!!」
確かに俺が奴に声を掛けた後にあのようなことになったわけで、全く記憶に残ってないまでも俺が原因だと感じているのはビンゴだ。
とはいえ本渡自身もどうしてあんなことをしたのか理解出来ておらず、全ての原因を俺に擦り付けることでそう思い込みたいんだろうか。
「知らねえよ。お前が勝手に頭おかしくなってやったことだろ? つうかよくもまあ今になって相坂に声を掛けられたな?」
「……黙れよ。てめえには関係ねえ、これは俺と茉莉の問題だ!」
何が相坂との問題だよクソッタレって言いたいのはこっちの方だ。
これは俺の推測だが、おそらく今の本渡には何も残っておらず、かつての恋人で下に見ていた相坂なら頼りになるとでも思ったのだろう。
今の奴には何を言っても無駄だろうし、本当になんで充電を切らしてんだよと自分を殴りたい。
「そもそもなんでてめえが対等かのよう俺たちの間に居んだよ。身の程を知れよカス野郎が、茉莉に良い恰好でも見せてやりてえってか?」
さっきまでは怒りに身を任せていて少し落ち着いたかと思えば、俺に対してそんなことを言って余裕を滲ませている……本当にムカつく、マジで情け容赦なく人生終わりにするくらいのことをやらせてやろうかと思ったその時だった。
サッと相坂が俺の前に出たかと思ったら、パシンと音が響き渡った。
「……おぉ」
相坂が本渡の頬を思いっきり引っ叩いたのである。
その威力は凄まじくさっきまで好き勝手言っていた本渡が黙りこくってしまうほどだったらしく、更には俺でさえも怖いと思うほどの威圧感が相坂から放たれていた。
「いい加減にしてよ。それ以上真崎君に酷いこと言ったら絶対に許さない、どんなことをしてでもアンタを後悔させてやる」
「っ……クソ」
相坂の眼光に恐れを成したように本渡は背を向けて逃げて行った。
「……これ、俺居なくて良かったんじゃ?」
思わずそう言ってしまった。
まあ相坂が奴に絡まれていた時点で助けに入ることに変わりはなかったのだが、最初からああやって撃退出来るのであればしてくれよと思わないでもない。
その後、すぐに別れるかと思いきや近くの公園に立ち寄った。
『ちょっと話していかない? どうかな?』
不安そうに語りかけられたため俺は頷いたのだ。
二人分のジュースを買ってベンチに座り、渇いた喉を潤すようにゴクゴクと冷たいジュースを流し込む。
さっきまでの緊張が安らいだせいか、俺は軽口を叩くように口を開いた。
「さっきの相坂を見たら俺なんか必要ねえじゃんって思ったけど、ああいう時に男としてビシッと決められたら良いんだけどな」
「そんなことないよ。後ろに居ろって私を庇ってくれたの凄くかっこよかった」
「……そうか」
あまりにも綺麗すぎる笑顔でそう言われたため照れてしまった。
思えばあんな風に誰かの前に立って守ろうとしたことは初めてで、その前までは催眠アプリの安心感があった。
何もない状態で守ろうと体が動いたのはもしかしたら、本当に俺にも自信と度胸が付いたのかもしれない。
「あいつ、やっぱり今でも私を下に見てるみたい。どんなことをしても私なら何でも言うことを聞くって思ってたんじゃないかな」
「やっぱりか。でもさっきの一発で大分変わったんじゃないか?」
「そうだね、たぶんもう来ないよきっと。もしもまた来たら今度こそ警察に相談するのも良さそう」
ある意味前科持ちだからと相坂は笑った。
俺としてはもう本渡の呪縛から相坂は心身共に解放されていると思っている、しかし心に受けた傷がふとした拍子に再び開くとも限らない。
なのでさっきの本渡との邂逅がもしかしたら相坂のトラウマを呼び起こす可能性を考えたがその心配はなさそうで安心した。
「ふふ、ねえ真崎君」
「どうした~?」
たぶん、今の俺はとてつもない気を抜いていた。
「私、ずっと気になっていたことがあったの。彼があんな風になって、いきなり私の環境が変わったこと……もしかして真崎君が私を?」
「……………」
そんな答えづらい質問をされてしまい俺は固まった。
そもそもどうやって相坂を助けたのか、そもそも俺が助けたという事実を伝えていないし記憶には残っていないはずだ。
だから相坂自身も突然の変化に戸惑うことはしても、そこに俺への感謝があるわけがない――何故ならそれを知らないからだ。
「何のことだ? 俺は何もしてないって」
「じゃあどうしてあいつはあんなことを言ったの?」
……そうか、確かに奴の言葉から俺が関与していることはバレバレか。
とはいえ催眠のことを告げるわけにもいかない、かといってずっと黙っているのも無理だなと観念して俺はそれとなく伝えることにした。
「偶然見えたんだよ、お前の腕に傷があるのを」
「……そうなの?」
「あぁ。リストカットをしてるってことはとてつもない悩みを抱えている証だろ。これ以上酷くなったらどうなるんだと考えたら、居ても立っても居られなくなって俺に出来る範囲で迷惑かもと思ったが調べた」
「……………」
「それで街中でお前のことを悪く言う奴と女に出会って……あ」
そこまで口にして俺は重大な部分の説明が出来ないことに気付いた。
俺が相坂を助けようとした経緯の説明が出来たとしても、あの本渡の変化についての説明がどうしても不可能だ。
やっぱりあの直後でないと頭が働かないらしい。
「……ふふ、そっか」
しかし、相坂は今の答えで満足したのか前を向いた。
俺としては更に追及がされることを恐れていただけにちょっと肩透かしを食らった気分だ。
「真崎君が私の為に動いてくれたことだけは確かなんだよね? それなら伝えないといけない言葉があるの――ありがとう」
「……あぁ」
本当にその笑顔は反則だからやめてくれ、俺はやっぱり照れてしまって相坂から視線を逸らした。
元々お礼をもらうつもりはなかった、それに自分から伝える気もサラサラなかったのにどうしてこうなった……まあでも、こうして感謝の言葉をもらえるというのはやはり嬉しいものだ。
「ってなるとそうだなぁ……何かしてほしいことある?」
「いや、マジで気にしなくて良いから――」
「おっぱい、触ったりしても良いよ?」
「っ!?」
何言ってんだ、そう驚く前にその言葉を理解した俺の視線は彼女の胸に吸い寄せられてしまった。
いつの間にか上のボタンが二つほど外れており、その豊かな谷間がこれでもかと目に入る。
「どう?」
「……いやいや、流石にどうかと思うぞそれは!」
俺が触れていたのはあくまで催眠下の状態だからこそ出来たのだ。
実際に意識のある彼女に良いよと言われたらそりゃ触りたいと思うがそれはダメだろうと脳がストップを掛けてくる。
しかし俺の心は正直なようでどうしても目を離すことが出来なかった。
「触るだけだし減るモノじゃないよ。ほら、こうして私だって真崎君に触れてるし」
ポンポンと彼女は俺の肩に手を置いた。
「……じゃあ……良いの?」
「うん。どうぞ?」
この欲求には抗えなかった。
むしろ、こうして彼女の方からお許しが出たことそのものが変に興奮するというかテンションが上がる。
鼻の穴が広がり、息遣いも荒くなっている気がするがもう止まれない。
こちらも抜けねば無作法というもの、いざ参る!
「……おぉ」
「っ……♪」
俺にとっては懐かしくもなんともない感触、だがやはりとても大きくて柔らかくて最高の感触だ。
この時、俺はあまりにも夢中になり過ぎたせいで相坂の顔を見ていなかった。
彼女がどんな目で、どんな表情で俺を見つめていたのか……それに俺は気付くことが出来なかったのだ。
「……やっぱりこの手なんだ……この手が私を……!」
仄暗い想いは走り出し、もう誰にも止められない。
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