ひゃっほう! こいつはやべえ!!

「……?」


 それは改めてアプリの説明を眺めている時だった。


“このアプリは決して万能ではなく、使い方によっては相手に強い気持ちを抱かせます。それが憎しみか、或いは好意になるかは貴方次第ですが、くれぐれも気をつけてください”


 そんな一文に俺は首を傾げた。

 催眠状態の記憶は残らないはずなので、もしかしたら催眠の力によって相手の気持ちを無理矢理に変化させるとそうなるよという注意書きではなかろうか。


「ま、俺には関係ねえな。確かに女の子に俺への好意を無理矢理持たせるのもそれはそれでそそられるけど、生憎と俺は好き勝手出来ればそれでいいしな」


 つまり何の問題もないということだ。

 俺はただこの催眠アプリを使って好き勝手に生きていくだけであり、流石に人の気持ちまで操作するのは外道の所業だろうさ。


「……って今更だわそれこそ」


 やれやれ、それはどうなんだと考え始めると気分が萎えそうになるのも俺の悪い部分だなと再認識だ。

 昨日の相坂との行為、あそこまでやったのだからもう俺に怖いものはないんだ。

 だから堂々としてればいい、誰にもバレはしないのだから。


「トイレ行こうぜ」

「おう」


 晃に声を掛けられ、俺は彼と共にトイレに向かった。

 そしてその帰りのこと、俺は一人の女子生徒に目を向けた。


「……あれは」

「うん? あぁ地味子じゃん」


 晃が口にした地味子、それは隣のクラスに在籍する我妻あがつま才華さいかという女子だ。

 腰ほどまで長い黒髪がとにかく目立ち、目元すら隠しているほどで少しばかり不気味である。

 いつもクラスで一人らしく、自己主張も少なく周りと関わりを持たないので地味子と揶揄われていた。


「イジメられたりしてんの?」

「いや、流石にそこまではいってないだろ。でもエスカレートすればそうなりそうだってのはありそうだ」

「なるほどな」


 晃もそうだろうが俺も我妻とは一度も話したことはないし、彼女のクラスでの様子も時折人伝に耳に入る程度だ。

 特に興味はなかった存在だけど、ちょっとばかし催眠アプリが手元にあることで興味は出てきた。


「……でもなんか闇が深そうな気がするぜ」


 地味子と言われる所以はその見た目だけでなく、おそらくは彼女が抱える暗い雰囲気もあるのだろう。

 他者を拒絶しているわけではないようだがそれでも一人が好きそうな感じはする。


「ああいうのが気になるのか?」

「別に。まあでも顔立ちは整ってると思うけどな」


 髪の間から見えた顔立ちは結構整っている方だとは思う。

 いつも猫背っていうか、姿勢の悪さとかで全部マイナスにしている印象はやはり拭えない。


「まあでも良さそうだなぁ」


 あんなタイプでも女の子、彼女のことも好き勝手する候補に入れておくとしよう。

 その後、俺と晃は教室に戻りいつも通りの時間を過ごした。

 そして待ちに待った放課後、俺は校門で自然体を装いながら本間が現れるのを待っていた。


「あ、真崎君じゃん」

「うん?」


 俺に声を掛けてきたのは相坂だ。

 実は今日は相坂を呼び出しておらず、その大きな胸を揉みしだくという至高の時間はお預けだった。

 彼女の周りに居るのも美人揃いだが、その中でも相坂は頭一つ抜けている。


「え? アンタたち絡みあったっけ?」

「凄く意外」

「あはは、まあね」


 とても濃厚な絡みをさせていただいておりますとも、絶対に君たちには口が裂けても言えないけれど。

 意外そうにする友人たち、後ろに控える数人の男子も同じ表情だ。

 彼らの視線を集めながら相坂は俺にこんな提案をした。


「これからみんなとボウリングにでも行こうかって話をしてたんだよ。良かったら真崎君もどう?」

「……えっと」


 まさかこのような誘いをされるとは思わなかった。

 明らかな陽キャの集団に加わるのは恐れ多い気もするのだが、今の俺は本間を待っている変態紳士なので頷くわけにはいかない。


「ちょっと冗談だろ? なんでこんなやつを誘うんだよ」

「要らねえってこんなやつ」

「……………」


 とはいえ、やはり男子たちからそのような言葉が飛び出した。

 大して話もしたことないのにこんなやつと言われるのは癪だが、確かにそう言われてもおかしくはないので苦笑してしまう。

 しかし、そんな彼らに相坂はキッと睨んで苦言を呈した。


「なんでそういうことが言えるわけ? 確かに誘ったのはいきなりだったけど、別に君たちがそこまで言う必要ないよね?」

「……悪い」

「ちっ……」


 相坂……お前良いやつだなマジで。

 まあここまで居心地が悪くなると相坂が誘ってくれたことは嬉しいが空気は最悪だ。

 俺はありがとうと先に伝え、相坂に視線を向けて言葉を続けた。


「今日はちょっと用事があるんだ。悪いけどまた良かったら誘ってくれ相坂」

「……うん。分かったよ」


 そう言葉を交わし相坂は友人たちと歩いて行った。

 その後ろ姿を見送って少しすると、俺の目当ての人物がやってきた。


「よう本間」

「? あぁあの時の先輩ですか」


 予想通り、彼女の俺に対する記憶はあの時で止まっているらしい。

 誰かと一緒なら面倒だと思っていたが、一人なら好都合だ。

 俺は催眠アプリを起動し、昨日と同じように本間と共に自宅へと向かった。


「……?」


 しかしその途中、俺は妙な視線を背後から感じて振り返った。

 振り返った先には仲睦まじく手を繋いで歩く老夫婦の姿のみ、俺は首を傾げながらもそのまま本間の家に入った。


「今日も下着穿いてないのか?」

「はい」


 やっぱりこいつはとんでもない変態のようだ。

 まずは胸を触る挨拶から入り、昨日のように服を脱げと命令すると彼女はササっと制服を脱いだ。


「……ごくっ」


 ついつい生唾を飲み込んでしまう。

 既に相坂を通してやってはいけないことを一度しているわけだが、それでもこうして別の女性の裸体を前にすると気分が高揚してくる。

 昨日のように逃げ出す気にはならず、俺は逸る気持ちを抑えるように玩具が詰められた箱を手に取った。


「一応こういうプレイに関しては漫画を読んで予習済みだぜ。さて、どんなことをしようかなぁ」


 手錠やら色々とあるのだが、俺はつい窓ガラスに目を向けてしまった。

 カーテンで閉ざされているわけではなく、何も遮るものがない窓からは眩しい明かりが差し込んでいる。

 俺はカーテンを閉めるために立ち上がって窓に近づいたのだが、そこで俺は気になるものを見てしまった。


「……なんだ?」


 電柱の陰に一人の男を俺は見かけた。

 俺よりも若干年上に見えなくもない眼鏡を掛けた男で、奴は辺りをチラチラと見回しながら懐から双眼鏡を取り出した。

 そしてなんと、そいつは俺が今居る本間の部屋を覗きだした。


「っ!?」


 間一髪とはこのことで、俺はサッと身を翻し見られることはなかった。

 まあここは二階なのであそこから部屋の中がみえるわけでもないし、何なら本当にここを見ているとも限らず俺の勝手な思い込みかもしれない。


「……………」


 本間は全裸のまま俺を見つめているので何とも言えないシュールな空間だ。

 俺はそれとなくカーテンを広げて外から視線をブロックした。


「……本間」

「はい」

「もしかしてお前、ストーカーされてる?」

「……みたいですね」


 本間は小さく頷いた。


「ドМみたいだし本望ってか?」

「……いえ、流石にストーカーは気持ち悪いです。確かに告白の際に酷いことを言って逆上するなら、そんなことを言いましたけど単に好みじゃないのもあります。もしも付き合うのでしたら私のこんな変態的思考を受け入れてくれる男性じゃないと相手に悪いので」

「……ふ~ん?」


 なんだ、意外と考えているのか。

 でも現実的な考えだと流石に彼女のような美人だとしても、学校にノーブラノーパンで来ていることを知られたら百年の恋も冷めそうな気もする。

 俺みたいに興奮する人間も中には居るだろうが……流石に少し本間の変態レベルは高すぎる。


「まあでも、色々と楽しませてもらうぜ本間! っとその前に」

「??」

「一回ご主人様って言ってくんない?」

「ご主人様」

「……良いねぇ」


 美少女にご主人様と呼ばれるこの感覚、最高です。

 その後、俺は自分の中の知識と相談しながら色んなことを本間に行った。

 正直その間の俺は一生懸命し過ぎたというか、常に人の心を置き去りにして本間で楽しんでしまった。


「っ……ふぅ……ふぅ……」

「……俺が言うのもなんだけどヤバすぎだろ」


 催眠状態であっても体に与えられる刺激にはやはり反応するらしく、俺の目の前に居る本間はそれはもう凄まじい状態だ。

 両手両足を縛られ、いまだに玩具の影響で身体を震わせている。


「……マジで外道だわ俺」


 でも……とても満足している顔に見えるんだよな本間って。


「へへ……えへへ……ご主人様ぁ♪」

「っ……」


 何だこのエロい生き物は……俺はまた自分自身が恥ずかしくなってこの場から逃げ出しそうになってしまった。

 その後、色んな意味でスッキリした俺は本間の拘束を解除した。

 しっかりと部屋の中も掃除したが、部屋に漂う臭いだけはどうしてもすぐにはなくなりそうにはなかった。


「本間」

「はい」

「カーテンを開けて景色を眺めるような素振りをしながら左の電柱を見てくれ」

「分かりました」


 本間は俺の言う通りに行動してくれ、そしてまだあの男が居ることが分かった。


「ストーカーなぁ。なあ本間、お前に好き勝手したお詫びにあいつは俺がどうにかするわ。ま、これからも色々とやらせてもらうけどさ」


 さてと、それじゃああのストーカーの元に向かうか。

 一応この催眠アプリの性能に関して試したいこともあるからな。


「……すぅ……はぁ……この匂い好き」


 部屋を出る瞬間、本間が何かを呟いた気がしたが俺は特に気にはしなかった。


「さあて、ストーカーとのご対面だ」

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