良いねぇこの感触、たまんねえなぁ!!

「なんか最近すげえ楽しそうにしてねえか?」

「あ~それは俺も思ったわ」

「……そうか?」


 それは休み時間のことだった。

 いつも話をする友人にそう言われたのだが、俺は確かに最近とても楽しいし気分が良い。

 何故かって? それは催眠アプリがあるからに決まっているだろう。


「……ふへ」

「きもいって」

「……なあ、本当に何があったんだ?」


 おっと、ついつい気持ち悪い笑みが漏れてしまったぜ。


「気にすんなよ二人とも、俺はいつも通りだ」


 まあこんな気持ち悪さがいつも通りと思われるのも癪だが、それくらい今の俺は機嫌が良いというわけである。

 俺の言葉に胡散臭そうに見つめてくる友人二人、彼らは俺にとって中学からの知り合いでかなり仲の良い友人だ。


「ふ~ん?」


 怪しそうに見つめてくる坊主頭、こいつは向井むかいあきらといって悔しいことにそこそこイケてる男だ。

 サッカー部に所属しており、エースとまでは行かないまでも試合に出れば活躍できる実力を持っている。


「まさか……何か怪しい力でも目覚めたのか!?」

「何言ってんだおめえは」


 何とも言えない鋭さを発揮したこいつは遠藤えんどう省吾しょうご、ぽっちゃり体系がトレードマークで帰宅部のエースみたいなやつだ。

 結構なオタクで自室にはアニメキャラクターのカレンダーなどがたくさん飾られており、催眠系の漫画をこいつからは何度借りたことか。


「……ぐふふ」

「ダメだこりゃ」

「怪しいぞどんな楽しいことがあったんだ!!」


 いかんいかん、催眠のことを思い浮かべるとどうも気持ちの悪い笑みが零れる。

 先日に催眠アプリを使って相坂の問題を解決……出来たとは思っているが、それからもちょくちょく使って悪戯をしている。


「……ふぅ」


 それは正に至高の時間だった。

 バレない快感もそうだが女の子の体を好き勝手出来るという素晴らしさ、俺の世界は今始まったと言っても過言ではない――まだ童貞だがな!

 そう、悔しいことにまだ童貞なのはダメだ。

 こんな素晴らしい力を手に入れた以上、一番最初に捨てねばならない負の遺産なのだ童貞というステータスは。


「……はぁ」


 だというのに、いざやるぞと思っても働く罪悪感に俺は嫌になる。

 最悪で最低の奴に成りきると言った手前、何をひよってるんだと自分で自分を殴り飛ばしたい気分だ。

 まあでも、揉むまではやったんだぜ俺もなぁ!!


「ねえ茉莉、今日はどうするの?」

「う~ん、今日もカラオケ行く?」

「よし来た! ねえねえ、男子も誘わない?」


 流石陽キャたち、今日も相坂はみんなでカラオケに行くようだ。

 男子も誘わないかと言った言葉にクラスの陽キャ男子たちが近づいていき、そのまま仲良く話し込んでいく。


「……俺たちにもあれくらいの思い切りがあればなぁ」

「くぅ! 羨ましいぜ!!」


 精々悔しがれと俺は余裕の笑みを浮かべていた。

 まあ彼らに誇れるような自慢ではないが、それでも女の子の体に触れて胸を揉むという行為は既に終えた。

 そこに同意はなくともこれこそ催眠アプリの力……ちょっと空しいけど、これはその内卒業も近いかもなぁ!!


「……絶対何かあったなこいつ」

「教えてくれよぉおおおお!!」


 ええいうるさい!!

 俺は肩を掴んでくる省吾の手を振り払い、今予定しているとあることに胸を躍らせていた。


「それじゃあこれでお終いだ。日直」

「はい」


 そして時間は流れて昼休み、晃と省吾の二人と昼食を済ませた俺はあまり人が寄り付かない空き教室に足を踏み入れた。

 どうしてここにやってきたのか、その答えはすぐに現れた。

 ガラガラと音を立てて中に入ってきたのは相坂だ。


「お、来たか」

「……………」


 催眠状態の彼女はゆっくりと俺の傍に近づいてきた。


「結構応用が利くんだよなこのアプリ」


 使っていて気付いたことだが、時間を指定して催眠状態に掛けることが出来るのも知れたことだ。

 昼休みになり昼食を終えた段階でここに来るように相坂には催眠を掛けており、今日も特に問題はなく発動したようだ。


「それじゃあ早速……」


 俺は待つ相坂の胸元に顔を埋めた。

 その瞬間、途轍もない柔らかさと甘い香りに包まれ俺は幸せの絶頂に誘われることとなる。

 相手が催眠状態だからこそ出来る至高の瞬間、このアプリを使って相坂相手に何度もやったがどれだけ時間が経っても飽きることはない。


「女性の胸には夢が詰まっていると言ったがマジだよなぁ。これは飽きねえし心が癒されるぜぇ」


 おまけに匂いも良いってどんだけだよって感じだ。

 そんな風に相坂の胸を堪能していた時、ふと俺は先ほどの光景が気になっていた。


「……なんで腕を広げていたんだ?」


 俺はまさかと思って胸元から顔を離して彼女の顔を見た。

 彼女の瞳に光はなく、相変わらず俺の催眠に掛かっていることだけは確実だ……にも拘らず、さっきの腕を広げたのは何だ?


「まるで俺を待ってたような……いやいやそんなアホな」


 こんなことをするクソ野郎を好意的に受け止める奴なんざまずいないので、さっきのは何かの間違いなのだろう。

 それか催眠に掛かっているとはいえルーティン化しているとするのなら体が無意識に覚えていたり?


「災難だねぇ相坂」

「……………」


 お前が言ってんじゃねえよ、そんな風に聞こえてきそうだった。

 その後、俺は予め用意していたシートに相坂と二人で腰を下ろした。


「よっこらせっと」


 そのまま相坂に膝枕をしてもらう形で横になり、目の前に広がる何とも言えない絶景に言葉は出るし欲望も出てきた。


「いいねぇ~」


 腕を伸ばして優しくその柔らかな物体を揉んでみる。

 むぎゅっと沈んでいく指が心地良く、少し力を込めれば反応するようにピクッとするのも可愛かった。


「この感触、流石だと言いたいところだが……流石だ」


 そんな風に絶対にやってはいけない領域に土足で踏み込みながら、俺は催眠状態の相坂に話しかけた。


「最近どうだよ? 家族の方は」

「……謝られてからかなり気を遣われてる。でも前よりは全然良くなったかな」

「そうか。良かったじゃねえか」

「うん」


 別に俺が彼女のことを気にしても仕方ないのだが、こうして二人の時間を作った時には自然とあれからの経過を俺は聞いている。

 家族のことだけでなく、相坂のことを追い詰めた奴らのこともだ。


「元カレは?」

「……なんか、凄いことになったみたい。あいつの家族もそうだし、周りからも結構引かれたみたいだから」

「ま、だろうなぁ」


 突然全裸になって近所を叫びながら走り回ればそりゃそうなるってもんだ。


「でも、ざまあみろって思った。頭がおかしくなったのかどうか知らないけど、私を追い詰めた報いを受けたみたいで気分は良かったよ」


 もしも幼馴染で元カレでもある奴について少しでも複雑な気持ちを抱いていたら申し訳なさもあったが、そうでないのなら俺としても吹っ切ることが出来る。

 まあ特に奴らに対して思っていたことはないが……殴られたことに関しては正直もっと仕返ししたかったけど。


「あれから腕に傷は作ってないな?」

「作ってないよ」

「それなら良かった。俺が言うのも何だけど、自分の体を傷つけるようなことはすんな。ましてやあんな屑野郎のことでお前がそんなことをする必要はない」

「……うん」

「ま、こうして催眠に掛かっているお前の胸を揉みまくってる俺はそれ以上のクソ野郎だけどな」


 何だろう、もう自分のことをクソ野郎って開き直るのにも慣れてきた。

 浮気はダメだしあんな風に相坂のことを口にしたのももっとダメだろうだが、それでも俺みたいに普通じゃあり得ない力を使って好き勝手する奴の方がまだまだクソ野郎のレベルは高いと思っている。


「……真崎君が……私を……助け……てくれ……た?」

「? あんなもん助けたって言わねえよ。好き勝手やっただけだ」


 俺はそう言って起き上がった。

 そろそろ昼休みも終わりが近いので、先に相坂を教室に返した。


「……くくくっ、いやぁ最高の時間だねぇ」


 いやマジで毎日が充実している気がする。

 空き教室を出る頃にはなんとか表情を引き締め、俺は相坂に遅れるようにして教室に帰るのだった。

 そして放課後、俺は見つけた。


「……ひゅ~」


 友人たちと出掛けていた際、目の前を横切ったのは後輩の姿だった。

 清楚な見た目の彼女は確か二年生、それも噂では何十回と告白をされても全てを断った氷の女王だとか言われてなかったか?


「……良いねぇ」


 今度こそ、俺はやるぞ。

 その決意を表すように、グッと握り拳を俺は作った。

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