おい、デュエルしろよ
「……なんでそんな痕が」
目の前で下着姿になった相坂だったが、その魅惑的な体よりも前に腕のリストカットをした痕に目が向いてしまった。
正直、彼女の体に興奮しているとはいえその痕を見てしまったせいか一気に萎えてしまった。
「……………」
催眠に掛かっている相坂は何も言わず、ただただジッと俺を見つめていた。
今彼女に自我はなく、俺の言うことにだけ従う操り人形状態だ。
「何を迷うんだよ。目の前で抵抗しない女が居るんなら何したって……」
彼女は俺を家に招き入れ、あまつさえ体を好きにされたことすら記憶には残らないはずだ。
まあ色々と後処理はしないとだろうが、そこに気を付ければ彼女は何もなかったと思い込み明日から何も変わらない日常を送るんだ。
「どうして……」
とはいえ、だ。
何を聞いても答えてくれるのであれば、彼女の身に何が起きているのか聞いてみるのもありだろう。
「その腕の痕、どうしたんだ?」
「っ……」
俺の問いかけに相坂はビクッと体を震わせた。
彼女に自我はないはずだが、自傷行為をするほどなのだから無意識にでも何かを感じているのかもしれない。
相変わらず相坂の瞳に光はない、そんな状態だが彼女は喋り出した。
「彼氏が居たの」
「……………」
彼氏が居た、その言葉に俺はだろうなと頷いた。
確か同じ学校ではなく、別の学校に彼氏が居るというのは相坂が教室で話しているのを聞いたことがあったので知っていた。
まあ俺は相手の男が居る女に催眠を掛けたわけだが、良心の呵責を捨てたと言ったがそういうことだ。
「彼は私の幼馴染、ずっと一緒に居た。高校は別れちゃったけど、中学の頃から付き合ってて結婚まで行けるはずだってそう思ってた」
「……そうか。それだけ好きだったんだな?」
「うん……っ」
「あ……」
相坂の瞳から涙が溢れ出た。
それでも表情に変化はなく涙だけを流している状態なので少しばかり不気味な感じだが、それでも相坂は話を続けた。
「でもそれは私の一方通行な気持ちだった。彼はもうずっと前から私のことを好きじゃなくて、同じ学校の女と付き合ってた」
「……それで?」
「これって浮気だよねって問い詰めた。でも、あいつはだからどうしたって開き直って……私のことを好きじゃなくなったのも全部、私に原因があるからって浮気相手とキスをしながら言われた」
「うわぁ……」
聞けば聞くほど相手の男がゲスな野郎だと俺に思わせた。
まあ俺も相坂を好き勝手しようとしたのでゲス野郎に変わりはないのだが、まさかそんな分かりやすい行為がクラスメイト相手に行われているとは……。
しかしながら、俺から見た相坂はやはりギャルっぽいというのもあるがそこまで引き摺るタイプには見えない。
これはまだ何かあるのではと、俺はそう考えたがその通りだったようだ。
「それだけならまだ良かった。でもあいつはあることないこと私の両親に吹き込んでさ、それをパパとママは信じちゃって私が悪者になっちゃった」
「……………」
いやいや、なんで自分の娘を信じないんだと俺はツッコミを入れたかった。
この家に入った時、少しだけ温かそうな家庭だと感じたがどうもそれは間違いだったらしい。
「彼は……あいつはパパとママに好かれてたから。だからあいつが被害者面するとすぐにパパとママは信じた……私がダメなんだと、私があいつの気持ちを汲み取ってあげないからだってずっとずっとぐちぐち言ってきて!!」
言葉遣いも激しくなってきたことで、流れていた涙の量も増えた。
俺はたまらずポケットに入っていたハンカチを取り出して彼女の目元に当て、その流れる涙を拭う。
こんなことをしても彼女は自我を取り戻すことなく、目元に俺の手があったとしても言葉は止まらない。
「……彼も好きだった。パパとママも大好きだった……でも、いきなりみんなが私のことを敵視するように見てくるの。いきなり世界が変わっちゃって……私、もうどうすれば良いのか分からない」
「……………」
大好きだった彼氏と両親の見る目が変わり、それを受け入れられずにずっと自分の中に溜め込んでいたということなのだろうか。
「それでリストカットを?」
「うん。死にたいと……思わなくもなかったけど、気持ちが不安定な時に痛みを感じると元に戻って安心出来るから」
それで自傷行為をするようになったということか。
これで彼女の内に秘めていた気持ちは全て吐露されたのか、その腕の傷に関してはもう言葉はなかった。
色々とアプリの説明を見て分かっていることだが、この催眠は掛けられた者は一切の嘘を言うことは出来ない。
「だから今話した内容は全部本当……か」
正直なことを言えば、俺は彼女が居たことはないから浮気をされる悲しみは分からないし、家族も俺に対してとても優しくしてくれるからその反対の立場になった時の状況は分からない。
でも……確かに全てに拒絶されるとするのであればそれは地獄だろう。
「……相坂、お前ずっと教室では元気にしてたよな。常に友人たちに囲まれて楽しそうにしてて……恋愛相談も時々されてたっけか」
お前ら、声がデカいから良くこっちまで聞こえるんだよマジで。
まあでも、そんな明るさの中で見えない闇をこいつはずっと抱えていた……俺が彼女が出来ねえなんつうくだらないことを考えている中、同じクラスメイトのこいつはそんな闇を抱えていたんだ。
「……服着てくれ」
そう言うと彼女は服を着た。
元通りに制服をきっちりと着こなし、いつものギャルな美人の相坂が戻ってきた。
ただ泣いてしまったせいか目が赤くなっており、化粧を崩すように涙の跡が出来ている。
「彼氏はともかくとして、両親からそんな風に言われるのはキツいわな。ま、俺なんかが憐れむなって話だが」
本当に俺って人間は意気地なしだ。
彼女が抱えていた悩みは俺には関係のないことだし、ましてや赤の他人である俺がどうこう言うものでもない。
俺と相坂は同じ教室に通うクラスメイトってだけで友達でもなければ満足に話をする仲でもないのだ。
「取り敢えずハンカチを……おい」
「……………」
目元を拭っていたハンカチを離そうとしたのだが、相坂がグッと握って離してくれなかった。
まさか催眠が解けたのか、そう思ったが相変わらず相坂の表情に変化はない。
「離してくれないか?」
「……………」
やっぱり手は離れなかった。
まあ正直ハンカチの一枚や二枚なくなったところで支障はないので、そのまま相坂の手の中に握らせておいた。
「催眠ってどこまでのことが出来るんだ?」
言うことを聞かされる、そう説明にはあったが具体的にどこまでの範囲かは分からない。
服を脱げといった命令には躊躇なく従うし彼女の隠されていた過去を俺に話すくらいには確かな力があるようだ。
「……死ぬつもりはない、でももしこれ以上自分を追い込んでしまったら」
それ以上は考えたくなかった。
あまり話したことはない相手だとしても、クラスメイトがそんな理由で居なくなるのは気分の良い話じゃない。
「……ふむ」
俺は少し考えた。
彼氏だった男の方はともかくとして、家族関係についてはどうにか出来るかもしれない方法がある。
「相坂、なんつうか悪かったな。ま、今のお前に何を言ったところで分からないだろうしそもそも俺はクソ野郎だ」
とはいえ、このような話をされなければ俺は彼女を欲望のままに貪っていたのかもしれないが、それはそれと思うことにしよう。
「人生男だけじゃねえよ。お前、いつもクラスで楽しそうにしてるだろ? 大事にしている友達が居るじゃねえか。俺なんかと違ってめっちゃ好かれてんだろ?」
あ、言っててなんか悲しくなってきた。
まあ俺は相坂ではないので彼女の悲しみの全てを理解は出来ない。
けれど、そんな最低な男は忘れて前に進めばいいと思うんだ。
「あ〜あ、本当なら思う存分パラダイスを満喫してたんだろうに勿体ねえ。そのでっかい胸とか揉みたかったぜ」
マジで最低なことばかり言ってるわ。
俺はその後、相坂の両親が戻る前に家を出た。
結局最後まで俺はこの催眠アプリを使って相坂の体を好きにすることが出来なかった。
「相坂はダメだな! よし、次の女の子を探すぞ!!」
もう少し突き抜けて下衆にならないとダメだなこれは。
くくくっ、今度こそは絶対にやるぞ!!
俺はそう意気込むのだった。
「ねえねえ。あの子はあれからどうしてるの? まだ泣いてるのかなぁ?」
「さあな。でも家族にまで見捨てられたなんざ傑作だわ」
「ひっど〜い♪」
「面白いから良いだろ? あん?」
「誰こいつ」
取り敢えず一言よろしいか?
「おい、ツラ貸せよ」
何をやってんだろうなぁ俺って。
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