催眠アプリ手に入れたから好き勝手する!

みょん

同級生の美女を操るぜぇ!!

「あ~あ、女の子と甘酸っぱい青春を送りたいなぁ!」


 俺以外誰も居ない公園でそんな声が響いた。

 その声の主はもちろん俺で、今のは俺が高校生活における願いというか欲望を率直に言葉にしたものだった。


「……はぁ」


 こんな風に言葉に出すだけで実際に行動しないから彼女なんて出来ないし、ましてや世の中のリア充のようにバラ色の学校生活なんて夢のまた夢だ。

 学校終わりの放課後にブランコで一人黄昏ている俺の名前は真崎まさき甲斐かい、どこにでも居る平凡な男子高校生であり、年齢イコール彼女居ない歴の寂しい男である。


「高校三年生にもなって彼女が居たことないとか……なんか、ほんと寂しい」


 これでもアニメや漫画が大好きなので、多くの登場キャラクターを気に入り俺の嫁だなんて言っていた時期もある。

 それもあってか現実で彼女なんて居なくても寂しくはないって思っていたのに、こうして学生生活をずっと一人で過ごしているとやっぱり寂しくなってしまった。

 一人とは言ってもちゃんと友人は居るので良く遊んだりしているが、それでも華がないんだよなぁ!!


「……帰るか」


 ま、こんなことを気にしても一瞬だ。

 どうせ帰ってパソコン開いて動画でも見れば忘れるはず、基本的に悩みはしてもすぐに立ち直るのが俺の良いところだと自負している。

 そしてその夜、俺はおやっと首を傾げるモノを見つけてしまった。


「……何だこれ」


 夕飯を済ませての風呂上り、ふとスマホを操作していた時のことだ。

 いつの間にか俺のスマホに妙なアプリがインストールされていたのである。


「催眠アプリだぁ?」


 催眠アプリ、そう名前の付けられたアプリを俺は開いてみた。

 すると一番最初にそのアプリについての使用方法が文字で開設された。


“この催眠アプリを使いたい人の前で起動してください。

その瞬間にその人はあなたの言われるがまま、あなたが解除するか或いは一定時間が経過するかしない限り催眠状態は解除されません”


「……ふ~ん」


 何だこのエロアニメやエロ漫画で出てきそうな胡散臭いアプリはというのが俺の素直な感想だった。

 俺はしばらく眺めていた後、あほらしくなってスマホをベッドの上に放った。


「何が催眠アプリだよバカタレ、んなもんが現実に存在してたまるかよ」


 他の人を自由自在に操れるアプリ、そんなものがこの現実に存在していたらそれはもう大変なことになっているはずだ。

 そりゃあまあ確かに男としては良心の呵責に苛まれるものの、好き勝手出来るというのであればそれはもう夢色バラ色パラダイスが幕を開けるだろう……だが、そんなものは空想上の物語だからこそ存在するのであってこの世界にあるわけがない。


「……とはいえ」


 しかしながら、俺はやっぱり気になってしまった。

 そもそもこんなアプリをスマホに入れたつもりはないし、仮にストアにドドンとこのアプリが出ていたとしてもじゃあダウンロードしようかとはならない。


“このアプリを使えるのはあなただけであり、あなたにしか見えません。

なので他の人にバレる心配はなく、この催眠アプリはあなただけが使えるものです”


「……それはまた随分と都合の良いもんだな」


 それから色々と試したのだが、何故かこのアプリは削除出来なかった。

 どうにかこうにか色々と試したが特に変化はなく、この時点でこのアプリに対して若干怖さを俺は感じていた。


「本物か? んなわけねえべ」


 俺はスマホを手に隣の部屋に向かった。


「姉ちゃん入って良いかぁ?」

「甲斐? どうぞ」


 返事をもらえたので俺は扉を開けて中に入った。

 俺の部屋と違って綺麗に片付けられており、ベッドの上には大量に並んでいる縫いぐるみが愛らしい。

 部屋に入った俺に視線を向けることなく、椅子に座ってジッと勉強をしている女性は俺の姉のみやこだ。


「何の用? 用がないなら今忙しいんだけど」

「そいつはごめんなさい」


 俺の姉ちゃんは小さいが勇ましい人だ。

 俺より二つ上の大学二年生、腰まで届くほどの長い黒髪がトレードマークだ。


「……ふぅ、ひと段落と。それで?」


 姉さんは俺の方に体を向けた。

 相変わらず中学生に間違われてもおかしくないほどの小柄な女性だが、これで結構情に厚い人で俺も弟として昔からよく可愛がられていた。


「ちょっと試したいことがあってさぁ」


 俺はスマホを取り出した。

 正直、俺はこれを全く信じていないのだが……まあちょっとだけ気になっており、これを解明しないと気持ち良く眠れそうになかったのだ。


「??」


 首を傾げる姉さんの前で、俺は催眠アプリを起動させた。

 すると、姉さんの様子が分かりやすく変化した。


「……………」

「姉さん?」


 いきなり姉さんが喋らなくなった。

 気になってその顔を見て俺はえっと声を漏らしてしまった。


「……姉さん?」


 もう一度問いかけたが姉さんは反応を返さない。

 いや、反応を返さないと言ったがその瞳は俺だけを映しており、俺が体を動かせばゆっくりではあるが追って来る。


「……右手を上げて」

「はい」


 そう言うと姉さんは右手を上げた。

 その後、色んなことを言ってみたが姉さんは俺が口にした通りに行動し、俺の中でまさかという感情が生まれてくる。


「マジかよ……本物?」


 にわかには信じられない……しかし、それでもこんな風に姉さんが従順というか俺の言うことが聞くことはまずあり得ない。

 催眠の終わりは端末の画面に出ている終了を押せばいいらしく、俺がその終了ボタンをタップすると姉さんの様子にまた変化が起きた。


「……あれ? 私、何かしてた?」

「……えっと」


 先ほどまでのトロンとした瞳にはしっかりと光が宿り、姉さんはいつもの様子に戻って俺を見つめてきた。

 俺はついつい怖くなってしまい、姉さんにやっぱり何でもないと言ってすぐに部屋に戻った。


「これ……マジなのか? 本物なのか!?」


 俺はベッドの上でそう叫んだ。

 おそらくこうなるのは俺だけでなく、俺以外で同じ経験をした人ならば絶対に驚きを露にするはずだ。


「催眠アプリ……おいおい、おいおいおいおい!」


 俺はパニックになりながらもどこか心は高揚していた。




 そして翌日のこと、俺は一人の女子生徒に声を掛けた。


「あ? 真崎?」


 俺が声を掛けたのは相坂あいさか茉莉まつりという女子だ。

 明るい茶髪と軽めではあるが化粧をしており、耳に嵌めているピアス等……彼女は所謂ギャルのような女の子だ。

 明るい性格だけでなく、服を押し上げる豊満なバストが示すようにスタイルも男子たちが口を揃えて最高だと豪語するほどだ。


「えっと……その」


 俺はそんな女の子をロックオンした。

 放課後になり、彼女が教室を出たところで俺は声を掛けた――そして、昨夜に姉さんに使った催眠アプリを起動した。


「あ……」


 そして分かりやすく相坂の様子は変化した。

 正直な話、姉さんのあれは夢だったんじゃないかとさえ思っていたが、この同級生である相坂の様子を見るとやはりこの催眠アプリは本物だと俺に思わせた。


「な、なあ相坂……これから家に行ってもいいか?」

「良いよ。おいで」


 ドクンと、俺の心臓は跳ねた。

 相坂は抑揚のない声で返事をし、前を歩き出す……俺はあまりにもボーっとしすぎたせいかその場で立ち尽くしていたが、相坂が振り向いてジッと俺を見てきた。


「あ、待ってるのか?」


 微動だにしない彼女に近づくと、俺が傍に来たことで彼女は歩き出した。


「……これ、本物だ!!」


 やはり、このアプリは本物だったらしい。

 それから俺は時折集まる視線にビクつきながらも、相坂について行くようにして彼女の家に向かった。


「……おぉこれが」


 相坂の家はどこにでもありそうな二階建ての家だ。

 ご両親はまだ帰ってきてないらしく、俺はそのまま相坂に連れられるようにして部屋に向かった。

 初めて入った家族ではない異性の部屋、それは俺に未知の感覚を植え付けた。


「めっちゃいい匂いがするし……すげえ新鮮だ」


 姉さんの部屋ともまた違った女性らしい部屋、少し意外だったのはアニメの男キャラクターのポスターが貼ってあったことだ。

 見るからに陽キャだしこういうのとは無縁と思っていただけに驚いた。


「……よし」


 俺は良心の呵責は捨てた!

 このアプリがあればバレることなんてないし、バレなければ犯罪ではないなんて言葉もある。

 正直、良心の呵責を捨てたとはいってもやっぱりあと一歩が踏み出せない。

 こんな時、催眠アプリを使うエロ漫画の主人公みたいに欲望に突っ走れればどれだけ楽なんだろうか。


「……ええい! 俺はやるぞ!」


 俺は最低だと、そんなことを思いながら恐る恐る命令した。


「服を脱いでくれ」

「うん」


 相坂は俺の言葉に従った。

 ごくりと生唾を飲んだ俺の目の前で彼女は制服を脱いでいく。

 一枚、また一枚と彼女を守っていた服が消えて行ったところで……俺はえっと声を出してしまった。


「……何だよそれ」


 下着姿になった彼女の体があまりにも綺麗すぎて、魅惑的過ぎて気付かなかったが俺はそこに目を向けてしまった。

 彼女の持つ白い肌、その腕の部分にいくつもの線が入っていたのだ。

 最初は見間違いかと思ったがそうではなく……それは間違いなく――。


「リストカットの痕?」


 自らの体を傷つける自傷行為の痕、俺はそれを見てしまった。

 俺はしばらく、その痕を見つめて本来の目的を忘れてしまうのだった。

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