変わる未来 1

 アリの先導で、城の裏手から城内の『狼』騎士団長の部屋へ入る。


 着替えを探す為に隣の部屋へ向かったアリと女の子達の姿が見えなくなってから、ラウドは濡れた制服をあっさり脱いで部屋の奥に置かれている櫃を開けた。


「ほら、下履きと下着」


 うら若き乙女達に男の下着を探させるわけにはいかないからな。そう言いながら、ラウドは櫃の中に入っていた白い衣服をルージャとリヒトに渡す。


「新しいものを常備しておくのが、良い騎士団長というもの」


 ラウドの持ち物らしい下着は、ルージャには小さ過ぎ、リヒトには大き過ぎた。


「ま、そこら辺はしばらく我慢して貰って」


 不意にラウドが、下着姿のまま二人の前に立つ。


「女王の宝物、持っているな」


「あ、はい」


 慌てて、脱ぎ散らかした衣服の下になっていた木剣を取り出す。リヒトの方は、王冠をきちんと騎士団長用の机の上に置いていた。


「うん、なら良い」


 そういって、ラウドは再び衣服を入れてあるらしい櫃の方へと向かった。


 ラウドの、何か吹っ切れたような明るさに、不安を感じてしまう。冷静になって考えると、やはり、ラウドを助けて過去を変えたことは間違っていたのではないだろうか? そう考えたから、というわけではないのだが。


「ラウド」


 探し出した上着を着ているラウドに、尋ねる。


「怒って、ないか?」


「はい?」


 ルージャの言葉に、ラウドは心底驚いた顔をした。


「助けたのは、おまえだろ?」


「うん、それは、そう、なんだけど」


 言い淀むルージャの前に、着替え終わったラウドが立つ。その灰色の瞳で、ラウドはルージャの顔をじっと見詰めると、ルージャの、雨の所為で更にもじゃもじゃになってしまった髪を更にぐしゃぐしゃにした。


「昔、殺したいほど憎い奴がいた、って話をしたよな」


 顔を上げると、ラウドが笑っているのが見える。


「そいつに殺されなくなって良かったと、ほっとしてるよ」


 ラウドの言葉より、その心底清々しく見える姿に、ルージャはほっと息を吐いた。


「着替え終わりました」


 丁度良く、古き国の騎士団の制服を着たアリとライラとレイが入ってくる。アリが急いで直したのか、それとも丁度良い大きさの服があったのか、ライラもレイもぴったりと背丈に合った服を着ていた。ライラは緋色のローブに黒のマント。レイは緋色の上着に黒の脚絆と黒の短いマント。


「ルージャさんとリヒトさんの着替えも持って来ました」


 アリから手渡されたのは、ラウドやレイが着ているのと同じ形の緋色の上着と黒の脚絆。二人がそれを身に着けている間に、ラウドはライラに尋ねた。


「女王の首飾りは、まだ持っているよね」


 ラウドの問いに、ライラが下を向いたまま頷いたのが、見える。ライラの答えに満足したラウドは、まだルージャが着替えているというのに「じゃ、行くよ」と皆を促した。

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