古き国の新たな騎士 2

「ライラ、メアリから頼まれたことがあるんだけど」


 その日の夕刻。エルに案内された、主塔の真ん中にある案外小綺麗な広間に設えられた、藁の上に綺麗な布を敷いた上に落ち着いたライラに、ラウドが静かに言った。


「『出来損ないの孫だが、彼とその仲間達を古き国の騎士として認めて欲しい』って」


 ラウドの言葉に、ライラは目を丸くする。しかしすぐに、ライラはこくんと頷いた。


「良いわ」


「ありがとう」


 そのライラにラウドが微笑んで一礼する。ライラの横にいたルージャは、ライラの唇が微かに震えていたことに気付いていた。古き国の騎士は、この時代においては新しき国に追われる者。捕らえられれば問答無用で縛り首にされることは、ラウドの件で分かっている。それでも、味方は必要だ。ライラの決断の冷静さに、ルージャは正直驚いていた。ライラは、ラウドの血を引いている。だから、ラウドと同じように、冷静な判断ができるのだろうか?


「すぐにみんなを集めよう」


 ありがとう。もう一度、ライラに頭を深く下げてから、ラウドがエルと一緒に広間を出て行く。しばらくすると、この小さな砦に何人住んでいるのだとルージャが驚くほどにたくさんの人々が広間に集まってきた。男もいれば、女もいる。服装も、古き国の騎士の制服である赤い服をきちんと着た者もいればぼろぼろの作業着を着た者もいる。皆、様々な理由から普通に暮らせなくなった者達だと、エルがラウドとライラに話しているのが聞こえた。


 ライラを挟んでルージャの反対側に腰を下ろしていたリヒトから王冠を、集まってきた人数の多さに驚くルージャから木剣を受け取り、立ち上がったライラが、ローブの下から女王の首飾りを引っ張り出す。そのライラの前に最初に現れたのは、エル。


「エル、あなたは騎士になって何がしたいの?」


 跪いたエルの右肩に木剣の切っ先を置いたライラが、優しく尋ねる。


「俺は、……ラウドみたいになりたい」


「おいおい」


 戸惑うラウドの声に、ライラの優しい笑い声が被った。


「分かった。頑張ってね」


 凛とした、それでいて優しい笑顔のまま、ライラは次々と、自分の前に跪く者達の騎士叙任を行う。その様子を、ルージャは誇らしげに見詰めていた。


「これで、全員だな」


 騎士に叙任され、ライラの傍にずっと立っていたエルがほっとした声を出したのは、ずいぶんと時間が経ってから。


「ありがとうございます、女王陛下」


 人々が持ち場に戻った後の、閑散とした広間で、エルはもう一度ライラの前に跪いた。


「良いの。私が役に立つのなら」


「良かったな、エル」


 エルに微笑みかけたライラに、ラウドの意外に優しげな声が被さった。


「ところで」


 その優しい雰囲気を破るように、リヒトが不機嫌な声を出す。


「ラウドはいつまでここに居るつもり?」


 これ以上、この時代に干渉しないで欲しい。リヒトの言葉に明らかに含まれていた苛立ちを、ルージャは確かに感じた。ラウドも、リヒトの怒りを悟ったのだろう。


「はいはい」


 肩を竦めてから、ラウドはリヒトに上着のポケットから取り出した『記録片』と呼ばれる小さな板を返す。次の瞬間、ラウドの姿は広間の空間に溶けた。

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