古き国の新たな騎士 1
ライラのことが心配になったので、エルに聞いてから主塔の中へ入る。ライラとレイが運ばれた部屋は、主塔の一番上にあった。
「ルージャ」
そして何故か、ラウドとリヒトも一緒の部屋にいる。現れたルージャを見て片手を上げたラウドに、ルージャは呆れたように口の端を歪めた。そしてレイが横たわるベッドの傍に跪き、鞭の傷に白い手を当てているライラを見る。魔法を使い過ぎている所為か、ライラの顔色が悪い。止めさせた方が良いのだろうか? いや、人の怪我を回復させることに関しては、ライラは頑固だ。自分の力が使える間は、倒れそうになっても魔法を使うことを止めない。十四年一緒に居て初めて気付いたライラの一面を、ルージャは何故か好ましくみていた。
と。ライラの魔法で大分回復したらしい、ベッドの上のレイの身体が、大きく動く。
「良かった」
ほっと息を吐いたライラの肩を優しく掴むと、ルージャは部屋の中のもう一つのベッドにライラを座らせた。
「ここは」
「エルの砦の中」
戸惑いの表情を浮かべるレイに、ラウドがこれまでのことを簡単に説明する。
「心配は要らない。エルは信用できる」
ルージャの感覚と同じ言葉を、ラウドはレイに言った。そして。
「ありがとう、レイ」
不意にラウドが、レイに頭を下げる。
「狼の留め金のこと」
「いや」
ラウドの言葉に、レイは首を横に振った。
「それよりも、リールを助けてくれて、感謝する」
「あれくらい」
レイの言葉に、今度はラウドが首を横に振る。二人のやりとりにライラが微笑むのを見て、ルージャも思わず笑顔になった。
「古き国の騎士になれば、あの黒い靄に取り憑かれた人々を殺さずに済むのか?」
不意にレイが、ラウドに問う。
「深さにも依るが、取り憑かれてすぐなら、古き国の騎士の血で何とかなる」
少し考え込みながら、ラウドはレイにそう答えた。
ラウドの答えに、レイの青い瞳が伏せられて開く。そしてレイは、ライラに向かって驚くべきことを言った。
「ライラ、いや、古き国の女王陛下。私を、古き国の騎士にして欲しい」
レイの言葉に、身体がひっくり返るほどに驚く。ルージャの横で、ラウドもリヒトも驚愕の視線をレイに向けていた。
「レイ、それは……」
震えるラウドの言葉に、レイが少しだけ微笑むのが見える。
「あの靄の所為で、私は多くの部下を殺さざるを得なかった。ラウドが居なかったら、リールも殺されていただろうし、私の命も無かったと思う」
そのような悲劇は、終わりにしたい。決然としたレイの言葉に、ルージャは正直圧倒された。
「分かったわ」
レイの言葉に、ライラがにこりと笑って立ち上がる」
「ルージャ、リヒト、剣と王冠を」
服の下から首飾りを引っ張り出したライラに、ルージャは微笑んで腰に差した木剣を渡した。
王冠を被り、女王の顔をしたライラが、床に跪くレイの肩に木剣を当てる。
「レイ、あなたは、騎士になって何がしたいの?」
ライラの問いに、レイは一瞬だけ考えるような表情を見せる。
「私は、……自分の弱さを克服したい」
「もう、克服してる」
ライラの言葉に、その場にそぐわないと感じつつも、ルージャは思わず吹き出してしまった。
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