騎士叙任 1

 右肩に生じた引っ張られるような痛みと、右腕を濡らす温かな感覚に、ゆっくりと目蓋を上げる。ライラが眠る広いソファの端に突っ伏していたルージャの右腕を、目を閉じて涙を流すライラが抱き締めるように掴んでいるのが見えた。


〈ああ〉


 一瞬で、悟る。ライラも、ルージャと同じ夢を見たのだ。ラウドの実妹リディアの、強く悲しい物語を。


「ライラ」


 細心の注意を払って、右腕を自分の方へ戻す。そして、ルージャのその動作で眠りから目覚めたライラの頬に流れる涙を、ルージャは少し乱暴に拭った。


「夢だよ。……ただの、昔の夢」


 ルージャの言葉に納得したのか、ライラが再び目を閉じる。そのライラの頬をもう一度、今度はそっと拭うと、ルージャはぺたりと図書室の冷たい床に座り込んだ。確かに、ルージャが見たのは、昔の夢。しかしその夢は、過去に実際に起こったこと。そして。ライラが、古き国の女王の血と力を受け継いでいるライラが今後、実際に見るかもしれない光景。悪しきモノを滅ぼす為には、古き国の女王が叙任した騎士達の血と力が必要。しかし、悪しきモノは強大で、リディアのような、強靱な竜を倒す力を持つ騎士ですら相打ちにしてしまう。その上、現在では、古き国に関わる者達は新しき国に追われているのが現実。捕まれば、縛り首は免れない。自分の身が震えるのを、ルージャは止めることができなかった。どうすれば、悲劇は止められる? 一生懸命考えても、答えは出て来ない。ルージャは正直途方に暮れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る