ある騎士の夢 8

 異父弟のルイスがリディアの許に現れたのは、アリが正常出産で女の子を産んですぐのことだった。


「アリを預かる準備ができたって、親父が」


 ルイスの言葉に、頷く。一時は自分が守らねばと思い詰めてはいたが、ここはやはり敵の国。悲しいことに、今では女王の血を引く者はアリとアリの赤子しかいないのだから、味方が沢山居る場所で預かってもらった方が良いだろうし、アリも赤子も幸せだろう。


 そして。


「女王の宝物も、王冠と剣が見つかった」


 ルイスの次の言葉に、安堵が胸に広がるのを感じる。後は首飾りさえ見つかれば、悪しきモノを封じる為の『力』が手に入る。悪しきモノの所為で人々の哀しみが増えるのは、嫌だから。これまでリディアが屠らざるを得なかった、悪しきモノに深く魅入られてしまった者達の姿が脳裏を過ぎる。リディアは無意識に首を横に振った。


「宝物が奪われないように、俺は地下に潜る。……ミヤと一緒に」


「それが良いわね」


 ルイスの言葉に、静かに頷く。


「姉者にはマイラを置いていくよ」


 従者が居ないと何もできないだろう? 久し振りに見るルイスのにやりとした笑いに、リディアも久し振りの苦笑いを浮かべた。『熊』騎士団の副団長だった時にも、掃除や洗濯などの家事も煩雑な事務仕事も、全て部下達に任せていたっけ。「身の回りのことくらい自分でやれよ」とラウドにはいつも呆れられていた。そのラウドには、身の回りの世話をするアリが常に付いて回っていたけれども。


 楽しかった昔のことを思い出すと、胸が詰まる。リディアは俯き、落ちかけた涙を堪えた。

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