ある騎士の夢 6

 やけに豪勢なベッドの上で、目を覚ます。


〈ここは……?〉


 全身の痛みを堪えて起き上がったリディアは、自分が下履きと胸押さえしか身に着けていないことに気付き、思わず叫び声を上げた。


「気が付いたか」


 その声で、隣で眠っていた人物が身動ぎする。その人物の正体を知り、リディアは再び大声を上げた。


「あ、貴方は、じ、実の妹に……」


「その痣で分かったよ」


 起き上がった獅子王レーヴェは、リディアの裸の肩を指差し、自虐の表情を浮かべた。


 レーヴェの視線に耐えられなくなり、そっと辺りを見回す。自分の服がきれいに畳まれているのを見つけると、リディアは瞬時にそれを掴み取り、身に纏った。次の瞬間。リディアの腕が、後ろに引かれる。一瞬のうちに、リディアの身体はレーヴェの下に組み敷かれていた。


「なにを」


 必死で、抵抗する。だが何処を押さえられているのか、リディアがどれだけ身体を動かそうとしても、身体が全然動かない。藻掻くリディアの顔すぐ側に、レーヴェの蒼い瞳が近づいた。


「ラウド、は……」


 囁かれた言葉に、はっとする。王の懸念が分かったリディアは、はっきりと口にした。


「ラウドは、私の実の兄です。同母同父の」


 リディアと、兄ラウドの母は、現在のリディアと同じように、近衛の一人として先代の獅子王に仕えていた。そして、先代の獅子王に愛され、獅子王の息子であるラウドを産んだ。しかし、男児を生んだ母は先代の獅子王の正室に妬まれ、お腹にリディアを宿したまま、ラウドと共に新しき国を追い出された。だから、リディアもラウドも、獅子王の血を引いている。その証が、左肩にある獅子の痣。この痣を、ラウドは心底嫌っていた。リディアを身籠もっていた母と共に王都から追い出され、養父である隼辺境伯ローレンス卿に助けられた時までに負わざるを得なかった苦難の所為だろう。普段は毛ほどにも素振りを見せなかったが、ラウドの憎しみは、新しき国と異母兄である獅子王レーヴェにまで及んでいたことを、リディアは知っている。


「と、すると、俺は異母弟を手に掛けたわけだな」


 その言葉と共に、圧迫が外れる。唇を噛み締めたレーヴェに、リディアの心も悲しくなった。しかし、同情してはいけない。ラウドを残虐に扱ったのも、この王だ。


「ベッドの裏に、外に出る抜け道がある」


 服を着たリディアに、レーヴェはそれだけ言う。


 自分に背を向ける王に一礼してから、リディアは静かに王の許を去った。

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