ある騎士の夢 2

 次の日。同じ窓から、中庭の様子を眺める。


 古き国の騎士団の制服を没収され、代わりに支給された目立たない灰色の服を来た元騎士達が、疲れてはいるが何処となく希望に満ちた足取りで都を出て行く様が、リディアの目には羨ましく映った。


「大丈夫、ですか、リディア様?」


 その横で、同じ光景を見ていたアリが、小さな声で尋ねてくる。その問いに、リディアは外を見たまま首を横に振った。


 例え女王が居なくなっても、古き国の騎士達の職務――この場所に暮らす人々を守る為に、悪しきモノを、その力と血で以て封じること――が無くなるわけではない。いや、女王の『力』が無くなった今、騎士達の職務は増えこそすれ、減ることはないだろう。


 それに。アリの方に目だけを向け、少しだけ微笑む。


「私は、ラウド様に呪いを掛けられたのです」


 昨晩、他の捕虜達と共に都を去るように勧めたリディアに、アリは静かにそう言った。


 自分の部下である『狼』団の騎士達を、ラウドは探索を名目に自身の許から去らせていた。そして、「どんなことがあっても絶対にラウド様の傍に居ます。死ぬ時は一緒です」と言い続けたアリを抱き、アリのお腹にラウドの子を宿させることで、ラウドはアリを生かした。


「私は、どんなことがあっても生き抜かないといけないのです。この子と共に」


 アリの本名がアリアであり、古き国の女王の血を引く女性であることを知っているのは、当のアリと、自分の弟の娘であるアリを預かり育てたリディアの養父でもある隼辺境伯ローレンス卿、そしてラウドとリディアだけ。ラウドはおそらく、女王の血を残す為にアリを抱いたのだろう。そして、自分は。……アリとその子供を守ることが、ラウドから託された、使命だ。レーヴェ王も、まさか自分が目の敵とする者が都の内部に居るとは思うまい。そう思ったからこそ、リディアはアリを自分の従者として側に置くことに決めた。


 頼りにし、また目標としていた兄、ラウドは既にこの世に居ない。もっとしっかりしなければ。泣きそうになるのを堪えつつ、リディアは一人、納得するように頷いた。

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