古き国の騎士と新しき国の騎士
眠れぬまま、朝を迎える。頭の痛みに起き上がったルージャは、木々の向こうから聞こえる微かな叫び声にはっと耳を欹てた。
「誰か、居るな」
飛び起きたレイが、剣を手にして声の方へ向かう。ルージャも短刀を手に取ると、起き上がったライラを制してからレイの後を追った。
「こいつは」
しばらくして、レイが立ち止まる。レイの足下に居たのは、四つん這いになって咆哮を上げる人間。すっかり泥と血で汚れてはいるが、白と青の、新しき国の騎士の制服を着ていることが、ルージャにもはっきり分かった。金の縁取りのあるマントを身に着けていることも。……件の、騎士隊長だ。飛び下がりながら、レイが剣を抜く。騎士隊長の背が、泥と血以外のもので黒く汚れていることを、ルージャははっきりと認めた。
不意に、騎士隊長の身体が大きく伸びる。飛びかかって来た騎士隊長をレイは何とか躱した。だがバランスを崩したレイの身体は、地面に横様に倒れてしまう。そのレイの上に、騎士隊長は素早くのし掛かった。
「レイ!」
どうして良いのか、分からない。ルージャは不覚にも、その場に固まってしまった。
と。
「レイ!」
聞き知った声と共に、空間が揺れる。いつの間にか、ラウドがレイの身体から騎士隊長を引き剥がし、その身体を遠くに投げ捨てていた。
「我が血と力で以て、彼を鎮めよ」
ラウドの剣が、騎士隊長の前で一閃する。それまで唸り声を上げていた騎士隊長は一瞬にして地面に伸びた。
「あ、ありがとう、ラウド」
やっと呪縛が解けたルージャは、ラウドに向かって頭を下げた。
「このくらい」
そのルージャの瞳に、ラウドの不敵な笑みが映る。そして。
「久し振りだね、レイ」
意外なことに、ラウドは、レイに向かって親しげに声をかけた。ラウドは、レイを知っているのだろうか? ルージャが疑問を口にする前に、レイはラウドをきつく睨み付け、さっと地面から腰を上げるなりラウドの側を離れた。
「何時になったら機嫌直してくれるのかな」
立ち去るレイの後ろ姿に、諦めたように、ラウドが溜息をつく。次の瞬間、おそらく自分の時代に飛び戻ったのであろう、現れた時と同じく唐突に、ラウドの姿は消えた。
とにかく、レイを追いかけなくては。我に返ったルージャは、大慌てでレイの後を追った。そして、勇気を振り絞って、尋ねる。
「レイは、ラウドを知って……」
「それ以上言うな!」
しかし、やはりと言うべきか、ルージャの小さな質問は突きつけられた剣の切っ先に遮られた。
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