肝試しの結果

「……全く。どいつもこいつも、肝試しが好きな奴ばかりだとは」


 不機嫌なレイの声が、ルージャの耳を圧迫する。半分以上、レイはルージャに対して怒っているように感じるのは、気の所為だろうか?


「その結果がどうなるかも知らないで」


 大の男五人に囲まれて脅されたのだから、仕方無いだろう。ライラも、守る必要があったし。そう、言いそうになるのを何とか堪えて、肩を聳やかして歩くレイの背中を見やる。ルージャがどんなことを言っても、「お前が弱いからだ」で片付けられそうな気がする。それに、ルージャ自身、内心自分のことが情けなく思えてきていた。


 ルージャと、件の騎士隊長に率いられた騎士達が廃城に侵入したのは、二日前の夕方。その時に侵入口の穴に落ちた騎士は、何故か、副都のゴミ捨て場で、全身打撲の状態で見つかった。よく分からないことを喚いて走り去っていった騎士は、廃城の外の平原を、正気を破壊された状態で彷徨っているところを保護された。そして。見つけた財宝を抱えて副都に戻ったはずの騎士隊長は、次の日の朝から行方不明になっていた。


 今朝、ルージャとライラがレイに見たのは、心底うんざりした面持ち。行方不明になった騎士隊長と一緒に居たという目撃情報がどこからか垂れ込まれたらしく、ルージャはレイにこってりと絞られ、しかも今も、野宿を伴う野外探索に必要な食料や装備などを一人で持たされている。


「手掛かりが何も無いのだから、闇雲に探すしかないか」


 そう言いながらレイがルージャ達を連れて向かったのは、副都近くの林だった。


「ここが一番、誰からも発見され難い所だからな」


 掠われたのなら掠われたなりに、正気を失って何処かを彷徨い歩いているのなら彷徨い歩くなりに、誰かからの目撃情報がある筈だ。副都にも、その周りにも、人は大勢住んでいるのだから。その情報が無いということは、騎士隊長は人が居ないところ、すなわち廃城か、何故か人が近付くことのないこの林にいるに違いない。それがレイの推測。


 副都の近くにあるこの林に入るのは、ルージャは勿論初めてである。林なのだから、ルージャ達がかつて暮らしていた山の中の森のように、役に立つ動物や植物がたくさんあり、副都やその周辺に住んでいる人々がその資源を活用していても良いはずだと、林に入る前は思っていた。だが、今は。


「静かね」


 小さな声で、ライラが呟く。ライラの声が震えていることに気付き、ルージャは両手の荷物を片手に移してからライラの手を握った。ライラの言う通り、確かにここは、静か過ぎる。夏は終わったはずなのに、未だに青々とした下草に覆われた地面。その地面からただ生えているだけの白く細い木々。風が吹いている筈なのに、木々も草も揺れることなく、ただ静かに佇んでいるだけ。そして、レイとルージャとライラ以外、生きて動いているものは何も、無い。虫さえも、居ないのだ。白過ぎる木肌と、その上にある黒々とした樹冠に威圧感を覚え、ルージャは思わずぶるっと身を震わせた。


「ここは、『時が止まった場所』と言われている」


 ルージャ達の疑問に答えるように、前を歩いたままのレイが振り向かずに呟く。


「何故ですか?」


「分からない。私も、過去に悲しいことが起こった場所だと聞いているだけだ」


 ルージャの次の疑問に、レイは怒ったような声でそう答えた。

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