脅されて、廃城へ 2
廃城も、その前の荒野も、肝試しに入った時と同じだった。違うのは、黄昏時で周りが少しだけ明るいことと、ルージャとライラの周りを大柄な男達が囲んでいたこと。
「ここが、入り口」
廃城の城壁に辿り着き、ユーインに教えてもらった入り口を指し示す。
「すぐ側に落と……」
「うわっ!」
ルージャが説明する前に、男の一人が中に入ろうとしたらしい。叫び声が、地中に消えた。
「カッサ!」
マントに金の縁取りを付けた騎士隊長が、床にぽっかりあいた穴に叫ぶ。
「全く、粗忽者め」
そう言いながら騎士隊長は、落とし穴の闇をじっと見詰めた。
「斜めになっている。深そうだな。……サイン、ロープを持って助けに行ってやれ」
騎士隊長の指示に、男の一人が一礼して、副都の方へ去って行く。ルージャとライラ、そして三人になった男達は落とし穴を避けて廃城の内部へ入った。
前と同じく、薄暗い草の間を走る影に心臓が飛び上がりそうになりながら、ライラの手を取って、男達を先導する。振り向いて見詰めた限り、男達はルージャのように、唐突に走り去る影には全く驚いてないようだった。
「ネズミかなにかだろ」
男達の一人が、そう言う。だが。城の正面玄関に辿り着いた時、その中の一人が突然高い悲鳴を上げた。
「な、何だ?」
悲鳴を上げた男は、背中を掻くような仕草をする。そして掻き終わった両手を自分の目の前に掲げ、再び大声を上げた。
「血、血だぁ!」
傾いた陽の光だけでも、男の両手が乾いていることはすぐに見て取れる。何故男が騒いでいるのか、分からない。そして。
「く、首が、バルコニーに……」
あっけにとられているルージャ達の前で、不可解な言葉を叫びながら、男は闇雲に何処かへと走り去って行った。
「お、おい、エスト!」
騎士隊長が、狼狽したように男を呼ぶ。
「ミル、エストの後を追ってくれ!」
騎士隊長は、最後に残っていた男にそう、言った。
ルージャとライラ、そして騎士隊長とで、壊された正門から城内へ入る。
「おお」
吹き抜けの広間に足を踏み入れた途端、騎士隊長は感嘆の溜め息を漏らした。
「さすが古き国の力。守るには向いていないが、美しい」
騎士隊長は、古き国や建築についてある程度の造詣があるらしい。ツタと苔に覆われた半壊の階段のカーブの優美さや、吹き抜けを巡る廊下に設えられた柵や柱の様子に、いちいち感嘆の声を上げている。
「一階の奥は『竜』騎士団の詰所か。確か二階に『熊』と『狼』の騎士団の詰所があったそうだな」
そう言いながら、騎士隊長は部屋という部屋を見て回る。ルージャとライラは、惰性で彼の後を付いて歩いた。どの部屋も、ルージャには暗く、陰に籠って不気味に見える。早く帰りたい。苛立ちと共に、ルージャはそう感じていた。
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